2016.2.15 06:07/ Jun
スタンフォード大学・キャロル=ドゥエックの書いた一般向けの著書である「やればできる!の研究(原著はMindset)」が改訂されたそうです(御献本感謝いたします)。週末、あらためて読み直してみました。
2008年に翻訳された従来のバージョンでは
4章 スポーツ:チャンピオンのマインドセット
5章 ビジネス:マインドセットとリーダーシップ
の部分が省略され、翻訳されていなかったのですが、改訂された新版では、こちらも完訳されました。まことに喜ばしいことです。
キャロル・ドゥエック博士といえば、1980年代ー90年代「固定的知能観:硬直マインドセット」「拡張的知能観:しなやかマインドセット」の研究で、動機論の世界で一世風靡した著名な研究者です。ドゥエックに非常に影響を受けた研究者といえば、わたしの周囲では、敬愛する上田信行先生も、そのひとりですね(かつて「プレイフルラーニング」という本を一緒に書かせて頂きました)。
ドゥエックの仕事は、アカデミックにいえば、「認知主義の観点から動機論を捉えなおす」ということになるのでしょうか。もう少し具体的にいうと「人間のもつ信念によって動機がいかに変化するか」というパラダイムで、「従来の動機論」を変えたひとりであろうと思います。
ドゥエック博士の主張は、端的に述べるならば、こうなるでしょう。
「自分の能力は固定的で、もう変わらないと”信じている”人」ーすなわち固定的知能観(硬直マインドセット)をもっている人は、努力を無駄とみなし、自分が他人からどう評価されるかを気にして、新しいことを学ぶことから逃げてしまう
これに対して、
「自分の能力は拡張的・可変的で、常に変わりうると”信じている人”」 – すなわち「拡張的知能観(しなやかマインドセット)」をもっている人は、人間の能力は努力次第で伸ばすことができると感じ、たとえ難しい課題であっても、学ぶことに挑戦する
ということになります。
つまり、「自分の能力や知能に対する信念」=「知能観(マインドセット)」こそが、後続する学習のあり方、その後の人生のあり方を決めてしまうのだ、ということになるわけですね。
本書では、この2つのマインドセット概念を中核にして、スポーツ、ビジネス、対人関係、教育など、さまざまな領域について論じています。今回改訂された4章スポーツの部分では、マグジーボーグズ、マイケルジョーダン、モハメドアリなどが取り上げられ、5章のビジネスの部分ではGE元経営者であるジャックウェルチが、しなやかマインドセットの持ち主として描かれています。
もともとの論文を知っている専門家からみると、やや話がシンプルすぎるところ、そこまでいえるのか、と思わないところがないわけではないけれど、それはそれで愉しむことができました。
少し前のブログでは、河合隼雄著、河合俊雄編(2014)「大人になることのむずかしさ」 を引用しつつ、近代社会では、「大人が、学び続けなければならない理由」についてご紹介させて頂きました。
大人になっても、人が、学び続けなければならない理由!?:あなたは「大人」でいられていますか?
http://www.nakahara-lab.net/blog/2016/02/post_2555.html
自戒をこめて申し上げますが、動き続ける世の中にあっても、「しなやかマインドセット」の持ち主で生きていきたい。週の頭から、そう願うのでした。
そして人生はつづく
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