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2014.9.11 05:51/ Jun

技術伝承とは「上から下に技術をそのまま伝えること」ではない!? : 世代を超えた技術継承の鍵は「研究」にある!?

「スーツづくりには、直線はほとんどないんです。どこもすべて、丸みを帯びている。丸みをひとつひとつ縫い込み、立体的に仕上げるていくんです」
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 先だって、雑誌「人材教育」の取材で、銀座にあるスーツテーラーメイドの老舗「銀座テーラー」さんにお邪魔させていただきました。上記は、銀座テーラーの工場長・中山さんが工場を案内してくださったときに話してくれたひと言です。
ginza_teller.png
銀座テーラー
http://www.gintei.com/
 かつては、どの街角にも「タバコ屋さん」の隣にあったテーラーメードの洋服店。しかし、衣服は、戦後、高度経済成長期をへて「つくるもの」から「買うもの」に変化していきます。いわゆる「レディメイド」の大量生産と普及です。そんな中、テーラーメードの洋服店は、一軒、また一軒と消えていったそうです。ここ銀座であっても、代表的なお店は5本の指で数えるほどになってしまいました。
 そんななか、今でも、銀座テーラーさんでは、お客様ひとりひとりにあった採寸・仮縫いを行い、ひとりの職人が一着のスーツを一貫してつくりあげる体制をとっています。
 生地を裁断し、ひとはりひとはり縫い上げ、お客さんの身体にもっともフィットするスーツを、今日もつくりあげています。その商品は下記にビデオがありましたので、どうぞご覧下さい。それにしても、美しいスーツですね。
銀座テーラーオーダーメードスーツ
http://www.bs-j.co.jp/off/backnumber/backnumber04_12.html
 ところで、銀座テーラーさんにも「経営課題」が存在しないというわけではありません。そのひとつが「職人の高齢化と技術継承」だそうです。要するに、テーラーメイドのスーツをつくりあげている職人さんたちが高齢化し、その技術を早急に若い世代に継承しなくてはならないことが、喫緊の課題となっているそうです。
 銀座テーラーさんでは、その経営課題を解決するため、20代の将来ある若手を採用し、高齢の職人とマンツーマンで仕事にあたらせ、技術の継承を急いでいらっしゃいます。
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 実際、工場をおとずれさせていただきましたが、そこにいらっしゃる方の年齢構成は2つに別れていました。60代ー70代の年配の職人さんと若手の職人さん。
 両者が静かに、ひとはり、ひとはり、スーツを縫い上げている様子が非常に印象的でした。
 かつて職人の育成とは「使いっ走り」が10年。そのあいだ、先輩が休んだ日を見計らい仕事をまかせてもらったり、人がみな帰宅したあとに縫い目を盗み見したりして、なんとか技術を憶えました。工程ひとつひとつを憶えるにも、縫うことに5年、裁断10年という風に、とてつもない時間がかかったそうです。
 しかも、仕事のやり方は「誰も教えてくれない」。若手の場合、完成品をつくりおえたあとの検査で、「ダメ出し」がなされるだけで、「ダメな理由」は述べられない。そうしたものが職人の「育成」でした。
 しかし、いまや、それでは「若手」は誰もついてこないばかりか、そもそも「経営・競争」に負けてしまうといいます。ポイントは前者というよりも、「後者」です。そもそも「経営できない」というところが大切なところです。
 これは銀座テーラーさんについて述べていることではありませんが、我が国に蔓延る「言葉が極端に不足している育成」には、ひそかに
「俺が上にやられたことは、下にもやってやる」的な「全くイケていない体育会的再生産」と「俺の若い頃はなぁ苦労したんだ、おまえわかってんのか的なノスタルジー」
 が、見え隠れしていることが多いものです。
 俗に「技術は身体で覚えるもんだ」とか「仕事は俺の背中を見て学べ」とかいう言葉は、人材育成の領域で語られるものです。もちろん、たしかに、それは「そのとおり」かもしれません。「技術の奥深いところ」や「仕事の本質」は確かに「言葉では教えられない」かもしれない。
 しかし、そのことは「若年者」を対象にして、なかば「しごき」のように行われる「言葉が極端に不足している、育成とはいわない育成」を正当化するには根拠が不足しています。
「技術は身体で覚えるもんだ」とか「仕事は俺の背中を見て学べ」という言葉にロマンティシズムを感じる「上の人」に対して、さらにロマンティシズムとリスペクトを感じる若者がいて、これらがマッチングしているのなら、僕は何も申し上げることはありません。どうぞお二人でロマンティシズムを感じていてください。公衆良俗に反しない限り、それは個人の勝手です。
 しかし、現在の状況は、このマッチングが上手くいっていないところが多くなっていないように僕には思えます。また、そうした育成では変化に対応しきれず、また育成期間も長期間になるために、このままでは「経営・競争」に負けてしまう組織が少なくないのではないでしょうか。そうした場合には、今の時代にあった新たな育成のシステムを整備する必要がでてきます。
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 個人的に印象的だったのは、銀座テーラーで働きはじめて3年たった、若手の方が、こうおっしゃっていたことでした。
「職人さんたちの仕事を見ていて、その仕事は”研究”だと思うんです。これでいいってことは全くない。毎日毎日、つきつめてつきつめていく。その仕事は”研究”に近いと思います」
 とかく「技術伝承」といいますと、「上」から「下」に技術をそのまま「伝達」し、「下」の人は、その技術をそのまま現場に適用するようなモデルを考えてしまいます。しかし、お話を伺っていると、そうではないような気がしてきました。
 もちろん「技術の伝達」は必要なのです。しかし、それに加えてもうひとつ重要なことは「上の人」から「下の人」に「研究マインドをしっかり伝達すること」、そして「下の人」が単に「上の技術」を「模倣」し「適用」するのではなく、数ある伝統的技術を参考に、「自分なりのやり方」をつくりあげていくことです。
 すなわち、「技術伝承」とは「上」が「技術」を伝達することと同時に、自らが「研究している姿」を見せること。
 次に「下」が、伝達された技術をもとに仕事を行いつつ、最終的には「自分なりのやりかた」を「研究」を通して発見するプロセスのことを言うのではないか、と思いました。
 実際、銀座テーラーさんでは、現在、若い人の感性や志向にあった新らしいスーツを若手中心で開発しています。そして、そこには高齢の職人さん達が培った確かな伝統的技術の粋が活かされているそうです。
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 こうしたお店で、美しいスーツを見ておりますと、生まれながらの「調子こき太郎」の小生は、「おい、それなら、僕にも1着スーツを頼むよ」とオーダーをしたくなる衝動にかられます。しかし、、、お値段が(笑・・・ちなみに、銀座テーラーさんには比較的リーズナブルなラインもございます。詳細はお店へどうぞ!)。
 清水の舞台から「バンジージャンプ」するつもりで、「技術継承」に「御協力」させていただくのか、どうか、「眠れぬ夜」が続きます。
 そして人生は続く
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追伸.
 今回の連載「学びは現場にあり!」は、「人材教育」編集部、久保田さん、西川さん、そして井上さん、僕の?、またまた珍道中をもとにした記事です。もう5年くらいやっているのでしょうか??取材もさることながら、編集部のみなさんとの珍道中も面白く続いているのでしょう。
 漁師さんから、CAから、パン屋さん、美容師さん、歯医者さん、救命救急病院、果てには航空管制官から宇宙船のフライトディレクターまで、ありとあらゆる職業の仕事の現場=学びの現場を、「突撃隣のばんごはん、ヨネスケ状態」で取材させていただいております(笑)。これまでに御協力頂いたみなさま、本当にありがとうございました!

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