2012.11.12 09:58/ Jun
「学習効果」は「学び始める前」に既に決まっている
という文章を目にしたとしたら、少なくない人が、一瞬「おやっ」と思うはずです。
一般には「学習効果=学んだ効果」とは、「教室・研修室・ワークショップなどで学んではじめて生まれるので、学習効果は、その場のクオリティがすべて」と考えられていますね。
こうした認識に立ちますと、先ほどの文章「学び始める前に、すでに決まっている」とは、「おやおや、変だな」ということになります。
しかし、近年の学習研究の世界では、「学び始める前」の重要性がよく指摘されるようになってきています。「あらかじめ既に決まっている量」が「すべて」ではないにせよ、「学ぶこと」がなされる前から、勝負はすでに決まっているのです。むしろ、「事前に決まってしまっている量」が、我々の想像以上に、相当多いことも指摘されている。アタリマエといえば、アタリマエなのですが、以前よりも、そこに対する認識が高まりつつある、ということですね。
比喩的にいうと・・・
教室・研修室に来る前に、勝負は、始まっている
ということになります。
具体的にいいますと、
「どのような社会的属性やニーズをもった個人が、学びの現場に、どのような目的意識をもって望むのか」
「どういう知識をもった個人が、どのようなモティベーションをもって、学びの現場に望むのか」
といったような「学習者のレディネス」「学習者の社会的条件」によって、「学習効果が変わってしまう」ということです。
もちろん事前に決定してしまうのは「すべて」ではありません。しかし、少なくない量が、事前に影響を与えてしまうというのです。
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従来の学習研究は、こうした「学習者のレディネス」「学習者の社会的条件」といった、いわゆる「学びの初期条件(Initial setting)」については、あまり十分な検証がなされていませんでした。
むしろ、それは「異ならない」ことを「前提」にして研究がなされる傾向がありました。いくつかの指標を用いて、学習者の統制を行い、後続する学習に影響を与える要因が「取り除かれたこと」ことを「前提」にして研究がなされました。
しかし、緩やかにではありますが、こうした動向も変わりつつあります。メインストリームは知ったことではないですが、少なくとも僕の注目している研究は、ここへの配慮が見られるようになってきています。
学習研究者が、街に出て、様々な実践的研究プロジェクトを主導するにつれ、あるいは、政策と連動した社会的プロジェクトに、学習研究者が参画しはじめるにつれ、また、学習のアカウンタビリティを示すことに対する世間のニーズがあがるにつれ、このことが、緩やかにですが、かわってきました。
主に、学習研究者がリサーチのフィールドにするのは、都市のプロジェクトであることが多いと思います。そして、そこには、多様な社会背景をひきずり、「文化の衣」をまとった、多種多様な人々がいます。ハイモティベーターもいれば、ローモティベーターもいる。
そうした人々に相対し、学びのあり方を考えるとき、「学びが起こる前」の条件について考慮に入れる必要が増してきたのだと思います。
経営学習研究としてみれば、研修などのフォーマルな教委機会の学習効果が、いかに「インフォーマルな職場環境」に左右されるかが近年指摘されるようになってきています。
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少し考えてみればわかることですが、上記のような項目のの中には、「変えようと思えば、変えられるもの」と「なかなか変えられないもの」があることに気づかされます。
たとえば「学習者の目的意識を高める」とか「学習者のニーズを把握する」とかは、事前に、ある程度は行えることなのかもしれない。
あるいは、「学習者の知識レベルを一定まで高めておく」とかに関しても、介入・統制できないことではない。たとえば、「反転授業(The Flipped Classroom)」などを用いることも、その一計かもしれません。
一方、学習者の社会的属性や文化的背景といったものは、変えることはほぼ困難です。
世の中には
変えることができるもの
そして
変えることができないもの
があります。
そして概して
変えることができないものは
変えることができるものよりも
根が深く、影響は大きいものです。
しかし「変えることができないものの存在」を目にして、諦めてしまえば、それで「終わり」です。
スラムダンク風にいえば
「諦めれば、そこで試合終了」
です。
手持ちのリソースを勘案し、何をして、何ができぬかを考えることが大切になります。
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今日の話題に関連して、最近、僕は、よく思うことがあります。
それはネットやスマホが、数多くの方々に利用頂けることによって、やろうと思えば、「学習者とのコミュニケーション」が、以前よりもきめ細かくできるようになってきたことです。
つまり、学習のサプライサイドが、事前あるいは事後に、学習者とコミュニケーションをとり、学習効果を高めたり、持続させるべく働きかけることができるようになってきた、ということです。
「どのような社会的属性やニーズをもった個人が、学びの現場に、どのような目的意識をもって望むのか」
「どういう知識をもった個人が、どのようなモティベーションをもって、学びの現場に望むのか」
このうち対処しうるものを実現するために、「学習者とのコミュニケーション戦略」を策定・実行し、事前にレディネスや初期期待を高めておく。
事前に、学習者同士の関係をすでにつくっておいて、離脱を押さえる・・・などなど、やろうと思えば、いろいろ可能になることはあります。
勝手気ままに、個人的な見解を無責任に述べますが、今後は、この分野が伸びていくように思います。
学習者とどのようなコミュニケーションをとるのか
学習者同士をいかに関係づけるのか?
学習者の事前の目的意識やモティベーションをいかに高めるのか
ここに実践的智慧を蓄積したプロジェクトが待たれます。
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