2012.10.12 09:59/ Jun
学習研究の専門用語ですが、脱中心化方略(decentering strategy)という言葉があります(高木 1996)。
脱中心化方略とは、
人間の学習の様子をとらえるために、学習者の「個人的資質」や、彼/彼女が持っている「知識」にフォーカスをあてるのではなく、「学習者を取り巻く様々な状況の変化」を、丁寧に見て、それを記述していこうとするアプローチです。
誤解を恐れず、ひと言でいうと、「人間の学習」を「知識の蓄積」「個人的資質の変化」と見ずに、「学習者をとりまく世界の関係の変化」と考えることだと思います。「個を見ない、個をとりまく環境を見る」とも言えるかもしれません。
この言葉に僕が出会ったのは、まだ学部生の頃でしたが、かなり記憶に残っている言葉です。
当時、高木光太郎先生は僕が所属していたコースの助教さんをなさっていたと記憶しています。その節は大変お世話になりました。
一見、「個人のもの」と考えられがちな学習を、敢えて、そうは見ない。むしろ「個人を取り巻く環境の変化」とみる。そのように世の中をみると、なかなか面白いことに気づかされるな、と当時から、ほほーと思っていました。
▼
これに「ゆるく」関連して(笑)、先日、ある小学校をお邪魔した際、校長先生と放課後の教室を歩いていて、面白いことを聞きました。
その校長先生は、とても先進的な考え方をお持ちで、自らが「サーバントリーダー」のように振る舞い、中堅教員、若手教員の方々を巻き込んだ「学習する組織」づくりに尽力なさっている方です(また機会をみてご紹介させていただきたいと思います)。
その先生曰く、
「先生に力があるかどうかは、教室に飾ってある子どもの絵を見れば、わかるものです。同じ単元で、同じ絵を描かせていても、どの程度、子どもの絵にバラエティがあるか、どのような色使いをしているか、何を中心に描かさせているか、といったほんの些細なことによって、先生が、どのような問いかけを子どもにしているか、わかるのです」
「子どもの絵にバラエティがあるということは、先生が、きちんと、子どもに問いかけている証拠です。どんな思いでこの色にしたの? 結局、絵というのは、コミュニケーションなのです。(中略)色使いが荒れてくるということは、クラスに何かがあることが多い(中略)同じ構図であるということは、子どもに先生が考えさせることなく、誰かが書いた構図を他の子どもがマネしている証拠です」
ICレコーダーをもっていたわけではないので、一字一句正確ではありませんが、そのようなご主旨のことを、校長先生がおっしゃっていたことがとても印象的でした。
というのも、以前、ある会社の経営者の方とお会いして、同じようなことをっしゃっていたのです。こちらも一字一句同じではないですが、そのような趣旨でした。
「マネジャーの力量は、部下の机やオフィスに現れるものです。マネジャーが本当はどういう仕事をしているか、どの程度力量があるかは、経営者の僕が、社員に問いただしても、誰も本当のことを言ってくれない。だから、僕は、朝一番早く来て、毎日のようにオフィスに行って、ひとりひとりの机をみる。机の上のメモはどの程度あるか、デスクトップにあるポストイットの数はどうか。掲示物はきちんと貼られているかどうか。ゴミはすてられているかどうか。そういうディテールに、マネジャーの力量や人間性がでる」
▼
今日のお話は、ぴったりと「脱中心化方略」にあてはまる話ではないかもしれません(ごめんなさい・・・インスピレーションをふくらまして読んで下さい)。
しかし、この校長先生や経営者の方が、教員やマネジャーを「見つめるとき」に、「当の本人」を見るのではなく、「子どもの絵」やそこにあらわれる「モティーフ」、そして「部下の机」やオフィスの掲示物、人工物を見ているのは、非常に面白いと思いました。もちろん、それが「真実」なのかどうかはわかりません。しかし、そのような「目」を実践の蓄積の果てに獲得なさったというのが面白いと思います。
また、校長先生や経営者の方が、「脱中心化方略」といった概念を、たとえ、ご存じないのだとしても、「現場の感覚」でそのような「目」をお持ちであることに、「実践知のすばらしさ」を感じます。
「個人の力量・資質」をおしはかるには「個人」を見ない
むしろ
「個人を取り巻く周囲の環境」を見る
脱中心方略的な「目」で、あなたの周囲を見回すと、見えてくるものがありませんか?
あなたのオフィス、机はどうですか?
—
■2012/10/12 Twitter
Powered by twtr2src.
最新の記事
2024.11.22 08:33/ Jun
2024.11.9 09:03/ Jun
なぜ監督は選手に「暴力」をふるうのか?やめられない、止まらない10の理由!?:なぜスポーツの現場から「暴力」がなくならないのか!?
2024.10.31 08:30/ Jun
2024.10.23 18:07/ Jun
【御礼】拙著「人材開発・組織開発コンサルティング」が日本の人事部「HRアワード2024」書籍部門 優秀賞を受賞しました!(感謝!)