2012.3.14 13:32/ Jun
昨夜は、NAKAHARA-LAB on USTで「インプロ × 組織 × クリエィティビティ」というトークセッションをおおくりいたしました。
様々な企業・組織・地域にてインプロ(即興演劇)を実践なさっている高尾隆先生(東京学芸大学)、デザイン教育の分野でインプロを応用なさっている上平崇仁先生(専修大学)、俳優の弓井茉那(まな)さんらと、不肖・中原で、「インプロの可能性」について、ゆるゆるトークをしました。
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近年、インプロ(即興演劇)が、学習手法として注目されてようになってきています。
あるときは、コミュニケーション教育の手法として・・・
あるときは、組織開発やチームビルディングの手法として・・・
あるときは、デザイン教育の一貫として・・・
あるときは、クリエィティビティの発揮の機会として・・・
即興演劇には、シナリオ・スクリプトがありません。その場に居合わせる人々が、創意工夫をして「場」や「物語」をつくりあげていきます。
と・・・概要を述べるのは簡単なのですが、インプロ、なかなかイメージがつかないですよね。かくいう僕もそうでした。また、インプロをすることの意味が、さらには、なかなかわかりにくい。
この、「何となく、わかるようで、わからない!?インプロの実践」を、いくつかの実践事例、簡単な理論的意味づけを通して、考えることが目的でした。
前半部の録画ビデオはこちらです。どなたでもご覧頂けますので、ぜひお暇なおりにでも、ご視聴ください。
前半は、インプロとは何か? インプロの企業・地域・組織での実践について、高尾先生にお話し頂いております。中原は著書「インプロする組織」の2章で書いた内容 – 企業でインプロを実践することの意味 – について、お話ししました。
当日、中原使ったパワーポイントは、こちらでどうぞ。昨日のファイルをセーブするのを忘れちゃったので、ちょっと変わっていますが、でも、たぶん、それほど変わっていませんので、気にしない、気にしない(笑)。
後半部の録画ビデオはこちらです。
後半部は、上平先生のデザイン教育でのインプロ活用事例をもとに、創造性とは何か、について考えています。
「荷物以外の体験を持ち運ぶ紙バックをつくる」という課題のもと、様々なプロトタイプをつくり(Protptyping)、それを使って、デザイナーが利用シーンなどを演じてみて(Acting out)し、さらにリバイズ(Revising)する。非常に面白いですね。
今回のUSTは、あっという間の2時間でした。
皆さんは、いかがでしたでしょうか。
中原は、個人的には、放送の録画ビデオを深夜に振り返りながら見て、いくつかのことを考えていました。
ひとつめ。
それは、インプロは、「大人が、何かを、身体を用いて表現・外化するメディア」のひとつであって、他のやり方を「排他」するようなものではない、ということです。
教育や学習の言説空間は、すぐに「あれか、それか」という二交対立(ダイコトミー)の議論にふれやすい。いわゆる「振り子(Moving pendulum)」のように、注目されるものが、極に振れるということです。
たとえば、容易に予想がつくのは・・・
「これからは対話ではなくて、インプロだ!」
とか
「これからは認知・アタマの時代ではなくて、身体だ!」
という、わかりやすい「二項対立の議論」「キャッチーなセールストーク」が生まれ出る可能性があります。そうした議論は、批判的に吟味する必要があるでしょう。
僕個人としては、現場・学習者の状況におうじて、特性の異なる「表現メディア」が用いられてもいいと思います。
そして、どのような「表現メディア」のヴァリエーションをもって、それを状況に応じて、まさにimprovisationalに使いこなせる能力が、ラーニングプロデューサ、ラーニングデザイナー、ファシリテーター・・・(何とよんでもいいですが)、そういう「学びを生み出す人々」には、求められるのだと僕は思います。
USTでもいいましたが、私たちは、むしろ「Tool box」をもつべきなのではないでしょうか。様々な表現メディアが、多種多様に入っている自分自身の「Tool box」を持ち、現場・状況の変化におうじて、様々なものを「恥知らずの折衷主義」で用いればよいのだと思います。僕としては「Tool box」に入るような、ツールを、今後も様々に発掘したり、創造していきたいな、と感じます。
ふたつめ。
経営・組織研究においても、「創造のために身体を用いることに関する研究が、もっと進むと面白いな」と思いました。USTでもいいましたが、これまでの研究は「生産のためにいかに効率的に身体挙動を制御するか」「多忙化・過剰負荷のために、身体に変調が起こることをいかに防止するか」「徒弟制の制度化において、師匠のわざをいかに身体化するか」ということに関する研究はあったような気がします。経営・組織の文脈において、「身体」の語られ方は、おおよそ、この3種類ではないでしょうか。もちろん、そうした研究が重要であることは言うまでもありませんが、ここにもバリエーションが生まれても面白いと思いました。
みっつめ。
それは、インプロを「学習の機会」として考えたい人々のコミュニティや、つながりが、インプロ業界!?(そんなのあるのかな)の中に生まれて、自分たちの実践を鑑賞・吟味し、クオリティを担保していける場があるとよいな、と感じます。僕は、インプロの内部にいる人間ではないので、このことに関しては、できることは少ないのですが、仕事柄、様々な「教育手法・学習手法の興隆と衰退」の歴史を見ていて、そのように思います。
様々な事例がありますが、「教育手法・学習手法の興隆と衰退」の多くの歴史は、
1)手法を実践する人々のあいだの、大同小異の差が乗り越えられず、関係者内部のゆるいつながりや、協力関係が生まれず、ムーブメント自体をつくれないこと
2)資格などを設けた場合は、本来、資格を与えてはいけない人に大量に資格証明を行ってしまい(選抜と資格付与の仕組みが機能しない)、資格自体がデフレーションをおこし、その領域自体の経済的価値が地盤沈下すること
3)学習手法の普及のスピードに、学習手法を実践できる人材の育成のスピードがおいつかず、質の低いものが普及してしまうこと、ひいては、その領域自体にレピュテーションリスクが発し、地盤沈下していくこと
4)手法自体の教条化・固定化が進み、環境適応をはたせないことによって、徐々に衰退していくこと
5)実践の創設者・古参者がカリスマ化し、新参者の参入が減り、徐々に衰退していくこと
などの、いずれかから起こります。インプロが、今後、豊かな学び・異化・内省の機会をつくりだしていくものとして発展していくためにも、ぜひ、何らかのかたちで、これらの問題と取り組む必要があるのかな、と、全くの外野・門外漢ながら、感じました。
以上、勝手な感想です。
ともかく、ご発表いただいた高尾先生、上平先生、弓井さん、Twitterで積極的に発言して下さった皆様、視聴して下さった皆様、今回の放送をお手伝いいただいた脇本君、保田さん、石戸谷さん、本当にお疲れ様でした。ありがとうございました。
そして人生は続く。
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追伸1.
高尾隆×中原淳「インプロする組織」、3月16日あたりから書店にならぶようです。こちらは、三省堂の石戸谷さんに最後まで伴走をいただきました。心より感謝いたします。
以前にもお知らせしましたが、この書籍は、一冊として同じカバーはありません。「脱予定調和」を地でいく想定で、石戸谷さんのこだわりの一冊です。
どうぞおたのしみ下さい。
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追伸2.
「職場学習の探究」ついに完成しました。日本生産性本部×中原研究室の共同研究の論文をまとめた書籍で、ガチ研究論文集・専門書です。ここまで伴走いただいた、日本生産性本部の深谷さん、矢吹さん、大西さん、中村さんには心より感謝いたします。どうもありがとうございました。3月21日あたりから書店にならぶようです。
下記は「職場学習の探究」の目次です。
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職場学習の探求 ― 企業人の「成長」を捉える研究論文集
目次
■序章 – 職場学習の探求、その出発点に
中原 淳
【理論編】
■1章 職場における業務能力の向上に資する経験学習のプロセスとは?
-経験学習モデルに関する実証的研究-
木村 充
■2章 「職場学習風土」と「個人の経験学習」の関係を探求する
伊勢坊 綾
【上司編】
■3章 部下の成長を促す上司のあり方とは?
–上司の成長認知と部下に対する内省支援の関係–
脇本健弘
■ 4章 職場のオープン・コミュニケーションを促すためのマネジャーのリーダーシップ行動
吉村春美
【職場編】
■5章 新入社員の能力向上に資する先輩指導員のOJT行動
~OJT指導員ひとりでやらないOJTの提案~
関根雅泰
■6章 業績と能力を伸ばす職場の探求
組織市民行動と職場学習風土に着目して
福山佑樹
■7章 職場イノベーション風土が「職場における部下の支援」に与える影響
– 新たなことに挑む職場で人は育つ –
中原 淳
【職場外要因編】
8章 就職活動時の職業価値観は,入社後の組織社会化にどのような影響を及ぼすのか?
– 自己実現志向・組織からの独立志向をもつ人は、組織になじめぬ人か –
伊澤莉瑛
■9章 海外での経験は、能力向上にどのような影響を与えるのか?
-経験学習行動を手がかりにして –
島田徳子
■10章 ビジネスパーソンの海外経験がキャリア成熟に与える影響
重田勝介
■11章 職場を越境するビジネスパーソンに関する研究
社外の勉強会に参加しているビジネスパーソンはどのような人か
舘野泰一
■ あとがき
中原淳
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