2011.10.15 07:10/ Jun
オランダの教育学者・コルトハーヘン(Fred Korthagen)の著書翻訳「教師教育学:理論と実践をつなぐリアリスティックアプローチ」(武田信子監訳・今泉友里、鈴木悠太、山辺絵里子訳)を読みました。
コルトハーヘンさんがオランダで実践なさってきた教師教育(教師教育学:Teacher Educationとは、教師をどのように育てるのか、という学問ですね)の具体的な実践の様子と、その実践が根ざしている理論が展開されていて、非常に勉強になりました。
確かに本書は「教師教育学」となっておりますし、その内容も「ザ・教師教育学」そのものなのですが、書かれてあることは「成人一般」に関してもあてはまることは多いな、と感じながら読んでました。おすすめの良著です。簡単ではないですが。
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特に興味をもったのは「省察を促す具体的な道具と技法」の部分です。
コルトハーヘンは、「ALACT」モデルというモデルを提唱し、省察促進のための具体的な問いかけを論じています。この場合の省察は、他者にひらかれ、対話的プロセスの中で実施されます。
■第一局面
・何を達成したかったのか?
・特に何に注意したかったのか?
・何を試してみたかったのか?
■第二局面
・具体的な出来事はどういうものだったのでしょうか?
・何がしたかったのか?
・何を思ったのか?
・どう感じたのか?
・生徒達は何をしたくて、何をしていて、
何を思い、何を感じていたのだと思いますか?
■第三局面
・第二局面で答えたそれぞれの答えの相互関係性はどうですか?
・学校・文脈が全体としてそれにどのような影響を与えていますか?
・あなたにとって、それはそういう意味を持ちますか?
・問題は何でしょうか?
ポジティブな発見はありますか?
■第四局面
・別の選択肢としてどのようなものが考えられますか?
・それぞれの選択肢の利点と欠点は?
・次回はどのようにしようと決心しましたか?
(p244より引用)
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これらに加えて、コルトハーヘンは、これらの省察プロセスの、もう一回り外部に「メタ省察」という、もうひとつの段階を加えます。
メタとは、一般に「高次の」という意味ですから、「メタ省察」とは「省察の、さらに一回り高次の省察」ということになるでしょうね。「Reflection on reflection」ということでしょうか。つまり「内省を行った、学びを行ったんだけど、その学び・内省自体はどうだったんだろうね」というリフレクシブ(再帰的)なプロセスになります。これは、Reflectionそのものを駆動させることを育てることに、一役買っていますね。
・私は何を学びたかったのか?
・私はそのことをどのようにして学ぼうとしたのか?
・私はどのような学びの瞬間に気づいたのか?
・その瞬間、どのように学んだのか?
・何が学びを手助けしてくれて、何が学びの邪魔をしたのか?
・わたしの学び方にはどのような問題点や長所があるのか?
・私の学び方以外の方法として、どのようなものがありうるか?
・省察を終えたいま、これから先に直面するであろう学びの
時期を乗り越えていくための方法として、どのようなものが思いつくのか?
(p245より引用)
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以上、コルトハーヘンの本の8章を気の向くままに紹介してきました。実は、この章の後半は、省察における「日誌(Journal)を書くこと」についても紙幅がさかれていて、そこも興味深いのですが、それはまた今度べつの機会で書くことにします。
さて、上記に引用したここまでの省察プロセスの中で、僕の経験にてらして、より一歩先に考えてみたいと思います。
僕は、これまで多くのマネジャー、成人の方々を対象にしたワークショップや研修をやってきました。で、経験上、一番困難を抱えやすいのは、何かなと考えますと、少なくとも僕の場合は、歌がいなく第二局面「具体的な出来事はどういうものだったのでしょうか?」の「描写」の部分だと感じています。そこでつまづく方がおられる場合があります。つまり、「出来事を、適切なかたちで描写できない場合が少なくない」ということです。
特に、その中でも困難を抱える場合があるのは、自分自身のことではなく、「相手にとっての出来事」を想像し、描写することです。
上記の問いかけの中でスト、具体的には、「生徒達は何をしたくて、何をしていて、何を思い、何を感じていたのだと思いますか?」になりますね。
これを一般的なマネジャーのコンテキストにあわせて考えるならば「部下は何をしていて、何を思い、何を感じていたのだと思いますか?」「取引先は何をしていて、何を思い、何を感じていたのだと思いますか?」になるのかな、と思います。
えっ、と思うかもしれません。
なぜなら「出来事」は本人が体験したことなのだから、そんなこと言語化(描写)できてアタリマエなのでは、と。しかし、実際は、そうではないことが多いのです。
例えば
「このあいだ、取引先とうちがトラブルをおこしましてね、困った部下がいるんですよ。もちろん、火消しはわたしがしましたがね」
というレベルならば、出来事は、いくらでも言葉にできます。そこに困難を感じる人はいない。
ところが、
トラブルとは、いつ、どこで、なぜ起こったのか?
取引先は何を思い、どのように行動していたのか?
部下は何を思い、どのように判断したのか?
なぜ、それらの関係性は生まれたのか?
そういうひとつ深いレベル、いわゆる「プロセスの知」と「プロセスの中で起こった物事を寄り合わせる」レベルになってくると、「描写」が先に進まない場合が少なくないのです。もちろん、そうした描写が難しい方には、それを促すための、いろいろな教育的テクニック、学習支援方法があるのですが、それは時間の関係で、また今度にしましょう。
さて、上記の状況で一番厄介なのは、何でしょうか。それは、トラブル自体は、本人が乗り込んで「火消し」している、ということです。つまり、「プロセスはよくわからない」のだけれども、「アウトプットだけはOK」の状態になっているということです。つまり、処方箋はすでに本人がうって、解決している。
もちろん、だから、OKって言えないこともないです。とにかく、みな、多忙なので、結果オーライならば、それでいいじゃないか、と。確かにそのとおり。特に、近年、日々のわたしたちのオフィスでの生活は、火消しの連続です。
ただし、折に触れ、一歩後に退いて考える時間がもしあるのだとすれば、プロセスに対する洞察があってもいいのかもしれません。なぜなら、逆にいえば、この問題(トラブル)は、「また繰り返し起こる可能性が高い」からです。なぜなら、プロセスに潜む問題の真因は何一つ解決していないのだから。
たぶん、もし次にトラブルが生じたときも、また本人が「火消し」するのでしょうけれど。でも、このままだと、本人が「火消し」できなくなるまで、それが続くのです。また重要なことは、部下の能力は、このままだと一切伸びない、ということです。
省察とは、このように「プロセスを描写し、プロセスにおこった出来事間の意味連関を形成すること」でもあります。
くどいようですが、それを毎日毎日やっていたら、それだけでお腹いっぱいになって「アクション」ができませんので、折りにふれてでいいのdす。折りにふれて、長期的視野にたって、ゆるく、気長に、アクションをともなって。
いずれにしても、言いたいことは、こういうことです。
私たちは、出来事を「体験」しているが、わかっていない場合がある
私たちは、プロセスの中にいるが、それを意識していない場合がある
「アウトプット」は良好でも、プロセスに潜む問題は解決していない場合がある
そして、省察とは「プロセスと出来事間の意味形成をおこないつつ、アクションを構想すること」に他ならない、と思います。
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少し前から、人材開発業界において「リフレクション」「振り返り」という言葉はブームです。
教師教育学でこの概念が導入されたのが1980年代。おそらく日本の人材開発の領域では数年前くらいからでしょうか。少なくとも、僕がこの領域の研究を志した頃(2004年頃)には、そのような言葉はありませんでした(アカデミアにおける経営学習論の中では、1990年代くらいから論文が多くでています)。
ちょっと前のことになりますが、あるところでお逢いした、ある方が、あまり悪気なく、
「とりあえず、今は、”振り返りが重要ですよね”。そのひと言をいっておけば、いいんですよ。それで、人材開発の営業は、何とでもなりますから」
とおっしゃっていて、僕は「軽いショック」を受け、頭がクラクラしたことを思い出します(笑)。その日は、僕は、一日、落ち込んでいました。
私たちは「振り返りが重要ですよね」「だよねー、そうだよね」のレベルから、さらにレベルをひとつあげる段階に来ているのかもしれません。より詳細に具体的な方向でも、概念自体を組みかえる方向でも、とりあえずはいいので、さらにひとレベル上のものを。
このことは、2年ほど前から考えていて、僕自身としては「パフォーマンス」にそのヒントを探したり、「ストーリーテリング」にそれを探したり、まー、あいもかわらず、いろいろ実験的なことをやっているのですが、まだ決定的なものが見いだせないでいます。
コルトハーヘンの本は、振り返りの詳細」について実践的かつ理論的に論じており、一歩先の「リフレクション論」を説いていました。今回、それを読んでいて、僕は勇気をもらいました。「僕も、一歩先のレベルを目指さなくてはならないな」を痛感しました。
そして人生は続く。
今日から数日、山で過ごします。
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■2011/10/14 Twitter
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