NAKAHARA-LAB.net

2008.4.29 16:31/ Jun

「知識の持ち主から知識を引き出す」ということ

 このところ、いくつかの研究プロジェクトでご一緒させていただいている小樽商科大学の松尾睦先生のブログに興味深い記事を発見した。少し長くなるが、引用させていただこうと思う。
ラーニングラボ
http://blog.goo.ne.jp/mmatu1964
 —
企業のナレッジマネジメントについての興味深い調査結果が、米国バブソン・カレッジのワーキング・ナレッジ・センターによって報告されている。
4つの組織における200人以上のナレッジ・ワーカーに10日間業務日報をつけてもらい、どのくらい知識の探索や応用に時間を費やしているかを調査した。彼らがどのような活動に自分の時間を使っているかを調べるためである。結果は、以下のとおり。
1位 知りえた知識を応用する(45.9%)
2位 知識の持ち主から知識を引き出す(37.7%)
3位 知識の所在を探す(10.2%)
4位 知識の持ち主とのミーティングを手配する(6.2%)
(中略)
出所:Jacobson, A. and Prusak, L.「知識の理解と活用に投資せよ」Diamond Harvard Business Review, March, 2007, 25-26.
(以上、松尾先生のブログ記事より引用)
 —
 僕が、特に興味をもったのは、「2位 知識の持ち主から知識をひきだす」である。こうしたことが、継続的に可能であるためには、いくつかの諸条件が存在するのではないかと考えた。
 ちなみに、以下で提案する僕の4つの条件は、「知識の持ち主から知識を引き出すことが、社会的地位の均等なナレッジワーカー同士で行われる、かつ、それに対する報酬が経済的価値をもって行われないこと」を前提にしている。この前提は、ナレッジワーカーの通常の仕事のやり方から考えて、まぁ、妥当かなと思っているが、これが当てはまらない場合には、下記は忘れて欲しい。
 思うに「知識の持ち主から知識をひきだすこと」が、継続的に可能であるためには、
条件1.「知識の持ち主から知識をひきだそうとする人」も、何らかの領域に関する「知識の持ち主」であること
条件2.「誰がどの知識や専門性をもっているか」を、知識を引き出そうとする人が知っていること
条件3.ある人から「知識」を分けてもらったら、その見返りとして、「知識」を与えてあげるという互恵的関係が存在していること。
条件4.「知識の持ち主同士」が出会ったり、対話を行ったり、議論する場があり、かつ、知識を引き出す個人がコミュニケーションの中から知識を抽出する能力を有していること
 思うに、「人から知識を引き出すこと」が継続的に実行できるためには、とにもかくにも、自らも「知識をもつ人」であり、かつ、常に自分のアップデートできる人でなければならない。つまり自分にも「強み」がなくてはならない。
 下記は僕が、自分の研究室の大学院生に口酸っぱく言っていることであるが、ナレッジワーカーの世界、特に研究者の世界は「Give and take」である。そして、「Give and take」が成立するためには、「あなた」の側にも、「強み」がなくてはならない。
 そして、通常は「Take」の前に「Give」が必要であることが多い。「Give and Take」のセンテンスにおいて、「Give」が最初で、「Take」が後に位置していることには、そういう意味であると思われる。
 そして、「Give and Take」の感覚が「ゆるい人」や、「Take and take」の人は、短期的には成功するように見えても、長期的にはうまくいかないことの方が多いように思える。
「他者に投げたリクエスト」は、結局、「自分」にかえってくるのである。

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