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2008.2.13 18:06/ Jun

誰も語りたがらない「フリースペース」

 先日、ある方とお話をしていた際、こんな話を伺いました。以下、若干の脚色を加えて書きたいと思います。
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 その会社 – 仮にA社としましょう – では、かつて、仕事場の隅の方に、誰も使っていないソファとテーブルがおいてありました。
 ソファは色あせて、ハタキで叩けばホコリが舞い上がるような代物でした。テーブルも、タバコの後がいくつか残されている年期モノでした。
 でも、そこは5時を過ぎると、社員たちが自然と集まってくるようなスペースでした。5時を過ぎる頃に、どこからともなく、盆暮れのお届け物に取引先からもらったビールもってくるものが現れます。ただ、とりとめもなく社員たちがダベる場として、よく利用されていました。
 時には、上のものから部下へ経験を語り継いだり、社員同士で仕事や企画のことを語ることもありました。そこは、いわゆる「暗黙知」が交換される場でありました。
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 しかし「不況」がA社をおそったとき、「仕事場の隅っこのダベりスペース」に転機がおとずれます。「この余裕のないときに、会社でお酒を飲むのはいかがなものか」という議論が、どこからともなく囁かれ、やがて、ソファとテーブルは撤去されました。
 それから10年・・・。何とかかんとか、会社は危機を脱しました。かつて、小汚いソファやテーブルで、ダベっていた社員のひとりは、既に部下を数名もつ管理職になっていました。
 彼は、かつての「だべりスペース」で、先輩や同僚から多くのことを学びました。それを何とか復活させようと、仕事場のコーナーに、真新しい椅子とテーブルを準備し、「フリースペース」と名付けました。
 やはりリラックスして語るには、飲み物も重要だろう、ということで、自らポケットマネーをはたいてビールを買いました。毎週一度、「みんなで話をする会を設けよう」というメーリングリストでお誘いのメールをだしました。若手社員には特に来て欲しい、と書きました。
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 しかし、彼の「思惑」は見事に失敗しました。
 上司から声をかけられた若手は、上司に声をかけられたんだから、しょーがなく「ダベり」につきあいました。「自分はフリーではないのだけれども」と思いながら、上がポケットマネーをはたいてくれた「ビール」にもつきあいました。
 しかし、所詮、「しょーがなくすること」です。長続きはしません。フリースペースに集まる社員は一人減り、二人減り。結局、「フリースペース」には真新しいソファとテーブルだけが、あてもなく残されていました。
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 この事例から、あなたはどんな教訓を読み取りますか?
 そして、かつての「だべり」を復活するためには、何が必要だったのでしょうか? 「彼」はどうするべきだったのでしょうか? 人を育てる場のデザインを志す「あなた」なら、この問題に、どういうセオリーをもってのぞみますか?
 教育や学習の問題とは、常に個別具体的です。
 すさまじき世界へようこそ。
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追伸.
 今日、携帯電話なくしたことに気づきました(泣)。おまけに自分の電話番号も覚えていないので、どうしたものか、と。誰か、僕の携帯知りませんか?

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