NAKAHARA-LAB.net

2021.6.28 07:52/ Jun

大人の学びは「キュレーション」できるのか?

 大人の学びは「キュレーション」できるのか?
   
  ・
  ・
  ・
  
 キュレーション(Curation)という概念があります。
  
 一般的に、キュレーションとは、端的に言ってしまえば、1)テンデバラバラに存在する情報を、2)特定の目標に従って、3)集めて整理すること、とされています。
     
 もともとは、「世界に散在する美術作品などを収集し、あるテーマのもとで展示する行為」のことをいったのだと認識していますが、2000年代以降、それ以外の領域でも、様々な場面で用いられるようになりました。
  
 キュレーションが注目されるようになった理由は、言うまでもなく、ネット上の「情報爆発」ともいわれる状況です。
     
「星の数」「砂粒の数」ほど情報・コンテンツがあふれている「情報爆発社会」においては、ひとりの人間が、すべての情報を把握することはできません。
  
 よって、顧客にとって意味のあるものを、目利きが選び、整理するという行為が重要になるのです。「キュレーションを行う目利き」のことを、キュレーターといったりします。
   
  ▼
    
 さて、このようにキュレーション行為は、この社会において一定の役割を果たしていることは把握できたとして・・・次に、考えていきたいのは、
    
「大人の学びはキュレーションできるのか」
    
 という問いです。
   
 つまり、ネット社会に存在する、さまざまな学習コンテンツを、目利きがまとめて、整理して、提示すれば、それを利用する学習者は「学び」を獲得できるのか、ということです。
    
 もうすこし具体的にいいましょう。ネット上には、無料の学習コンテンツがあまたあります。これらがリスト化したりしさえすれば、それを利用するひとは、学べるのでしょうか。
  
 ここで「学び」とは「以前はできなかったことが、できるようになり、成果創出を行えること」、すなわち「成果創出につながる行動変容」と定義します(企業内の人材育成では行動変容と成果創出が求められます)。
  
 この問いに関しては、私見では「かなり難しい」という印象を持ちます。
 管見に関する限り、それに成功しているものをあまり知りません。
 学びという観点からは、「キュレーション」という概念は、やや「残念」に感じるのです。
   
 とりわけ、深刻なのは行政です。行政は、すぐに「ポータルサイト」やら「キュレーションサイト」をつくりたがりますね。そこに学習コンテンツを集めて、並べておけば、誰かが学べる、とする。こういう考えを、これまで3万6000件くらい目にしてきました。
      
 でもね、みなさん。
 あなた自身は、ポータルサイトやら、キュレーションサイトで学んだこと、ありますか?
 ポータルサイトやら、キュレーションサイトで学んだ人を、僕は、知らないんですよ。残念ながら。
           
  ・
  ・
  ・
 
 といいましょうか・・・「ちょろんと知識を獲得する」とか、「ははーん、世の中、こんな風に動いてるのね」的に「刺激を受ける」とかなら、可能かもしれない。そういうレベルの学びなら、もしかすると可能かもしれません。
 キュレータが選んだとおりのコンテンツパッケージを、順番に受講していけば、たしかに賢くはなります。それは有益です。
    
 しかし、それは「ははーん、刺激を受けましたレベルの学び」です。多くの大人が必要とする「行動変容」につながり「成果創出」を行えるレベルではないような気がします。
    
 もし行動変容・成果創出ということをめざすのであれば、キュレータは「目利き」を行うだけではなく、さらに一歩踏み込んで、学びをデザインしなければなりません。
    
 それは
    
1)どのような対象者を、どのような状況(事前)から、どのような状況に変化させることを定義すること(対象者分析・学習目標定義)
  
2)コンテンツを集め、その内部を子細に分析すること(コンテンツ分析)
  
3)コンテンツ同士を関連付け、それを最適なかたちで配列し、1)に基づき、それぞれのコンテンツ同士の「糊代」をつくること(コンテンツ配列)
  
4)コンテンツを学習させること。学習のたびに、以前学んだことと関連付け、既有知識と導入された知識の統合をはたすこと(知識統合)

  5)学習を終えたあとに評価を行うこと。場合によっては、再学習を行わせること。(評価と再学習)
  
 要するに、単に「知識やコンテンツを、ネット上から、集めて、ばばーん」ではうまくいかないのだと思います。
  
 深いレベルの学びを促すのであればね・・・
  
 ▼
  
 今日は、大人の学びはキュレーションできるのか、というテーマで、ゆるゆると書いて見ました。
    
 よのなかには、統計など、データ分析など、最近、ひとびとが関心をもつ無料コンテンツが「キュレーション」されています。これらの多くは「パッケージ」としては、非常に便利です。それが「知識獲得」につながることもあるでしょう。
  
 しかし、一方で課題も感じます。
  
 それらの多くは「対象者分析・学習目標の定義」がなされていません。おそらくは、テンデバラバラのコンテンツを集めているので、対象者分析を行ったり、学習目標定義を行うことが難しいのだと思います。でも、これらが行えていないということは、学びの「入口」と「出口」が定義されていない、ということです。
      
 要するに・・・・学んでもらうことは「手間暇かかる」ということです。腹をくくって、キュレーションから一歩踏み込む勇気が必要なようです。
    
 そして人生はつづく
    
 ーーー
         
新刊「働くみんなの必修講義 転職学」好評発売中です!どうかご高覧くださいませ! ひとが会社を辞めなくなるのはなぜか(それを防止するためにはどうすればいいのか)?、どのような転職活動を行えば、納得のいく転職が可能になるのか、そして、どのように新たな組織に自ら適応するのか。転職にまつわる、これらの「問い」に対して、1万2000人の大調査を通して答えをだしました。パーソル総合研究所、パーソルキャリア、中原の共同研究成果です。ご高覧くださいませ!
   

           
  ーーー
   
新刊「チームワーキング」発売初日・重版決まりました! AMAZON「マネジメント・人材管理」カテゴリー第1位! 手にとってくださった皆様、お読みいただいた皆様に、心より感謝いたします。
   
 
https://amzn.to/3esCOrW
   
すべてのひとびとに、チームを動かすスキルを! これがこの書籍のメインメッセージです。チームを動かす新たなアイデアとして「チームワーク」ではなく、「チームワーキング」を提唱しています。データとビジネスケースから、チームを動かすためのスキルを学び取ることができるようになっています。どうぞご高覧くださいませ!
 
ニッポンのチームをアップデートせよ!
  

  
  ーーー
    
【立教大学大学院で大学院生しませんか?】
 立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コースでは、経営学を基盤にしながら、人材開発・組織開発・リーダーシップ開発を実践できるアカデミックプラクティショナーを養成しています。別名、「ひとづくり・組織づくりの大学院」です。
 授業は「フルオンライン」。授業は金曜日夜と土曜日だけ行われており、2年間で、修士(経営学)が取得できます。
   
 来年の大学院入試は2月です。3期生の募集になります!ご興味がおありの方は、ぜひ、下記のページにお越しください!
   

   
立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コース
https://ldc.rikkyo.ac.jp/
 
  ーーー
    
拙著「経営学習論」の増補改訂版が、東京大学出版会より刊行されました。新たに「リーダーシップ開発」の章を追加し、カバーの装いも変わっています。人材開発の基礎的な理論を体系的に学べる一冊です。どうぞご高覧くださいませ!
      

    

      
  ーーー
  
【新刊予約発売中】
新刊「学校がとまった日」の特設サイト完成!&予約販売開始中! 緊急事態宣言・全国一斉休校で「学びを継続できた子どもの特徴」は?学びをとめないために学校にできることは?:書籍の内容が概観できます!どうぞご覧くださいませ!
  

新刊「学校がとまった日」の特設サイト
http://toyokan-publishing.jp/stop/index.html
  
新刊「学校がとまった日」予約販売開始中(AMAZON)

   
  ーーー
     
【好評発売中】1on1の失敗・成功ケースをまとめ、映像教材を中原とPHP研究所さんとで開発しました。失敗しない1on1について、具体的なイメージをもって学ぶことができます。どうぞご笑覧くださいませ!
     
上司と部下がペアで進める 1on1 振り返りを成長につなげるプロセス
https://www.php.co.jp/dvd/detail.php?code=I1-1-061
   
  ーーー
   
【祝・eラーニング完成!】中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース完成しました。リーダー・管理職になる前には是非もっていたいフィードバックスキルを、PC、スマホ、タブレット学習可能です。ケースドラマでも学べます! 
     
中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース:Youtubeでデモムービーを公開中!
https://youtu.be/qoDfzysi99w
   
「実践!フィードバック」コース ありのままを共有し、成長・成果につなげる技術(PHP)
https://www.php.co.jp/el/detail.php?code=95123&fbclid=IwAR2he6Z_PTe3YiahcnCv3z9pNRXvrajPwVaRS8LLAYFkbWVH167qHDfYF5Q    
  
 ーーー
   

     
「組織開発の探究」HRアワード2019書籍部門・最優秀賞を獲得させていただきました。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
    

     
 ーーー
      
拙著「職場学習論」(東京大学出版会)のカバー・装いが10年ぶりに変わりました(内容は変わっていませんのであしからず!)。ひとは、職場でどのようにして学ぶのか、というテーマを考察しています。どうぞご高欄くださいませ!
    

    

      
 ーーー
    
中原研究室では、一般社団法人ピアトラストさんとの共同研究で、相互称賛アプリ『Peer-Trust(ピア・トラスト)』の研究を行っています。
      
相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が導入された職場では、職場のメンバー同士が、お互いの日々の仕事を観察し、そこにキラリと光るものがあったときに「称賛カード」というものをメッセージとともに送りあいます。1カ月間は無料トライアルだそうです。ご興味があえば、ぜひ、ご利用くださいませ。
    
強みの自己認知と意欲を高める『ポジティブ1on1』
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000059483.html
   
あなたの会社のリーダー・管理職は「部下の強み」を観察できますか?:相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が示唆する「リーダーの条件」とは?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12062
   
ピアトラストお問い合わせ
https://www.peer-trust.com/contact/
  
ピアトラストの効果まとめページ
https://www.peer-trust.com/research/2020/
   
 ーーー 
    
【注目!:中原研究室記事のブログを好評配信中です!】
中原研究室のTwitterを運用しています。すでに約33000名の方々にご登録いただいております。Twitterでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記からフォローをお願いいたします。
   
中原淳研究室 Twitter(@nakaharajun)
https://twitter.com/nakaharajun

ブログ一覧に戻る

最新の記事

2024.11.22 08:33/ Jun

最近、僕は何をやっているのか?そうね、いろいろやってます!?

2024.11.15 15:01/ Jun

【無料カンファレンス・オンライン・参加者募集】AIが「答え」を教えてくれて、デジタルが「当たり前」の時代に、学生に何を教えればいいんだろう?:「AIと教育」の最前線+次期学習教育課程の論点

2024.11.9 09:03/ Jun

なぜ監督は選手に「暴力」をふるうのか?やめられない、止まらない10の理由!?:なぜスポーツの現場から「暴力」がなくならないのか!?

2024.10.31 08:30/ Jun

早いうちに社会にDiveせよ!:学生を「学問の入口」に立たせるためにはどうするか?

2024.10.23 18:07/ Jun

【御礼】拙著「人材開発・組織開発コンサルティング」が日本の人事部「HRアワード2024」書籍部門 優秀賞を受賞しました!(感謝!)