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2021.6.11 08:05/ Jun

相手に「伝わる言葉」とはどういうものか?:あなたとわたしは「同じ風景」を見られているか?

 蝉時雨    (せみしぐれ)
 子は担送車に (こは たんそうしゃに)
 追ひつけず  (おいつけず)
  
 (石橋秀野)
  
  ・
  ・
  ・
  
 仕事柄、「言葉」には敏感でいたい、と心から思っています。
  
 どんな言葉で、どんな表現を用いれば、相手の頭の中に、僕が伝えたいものが描けるのか。同じ風景を共有できるのか。相手と自分とのあいだに「思い」を共有できるのか。
  
「同じ風景を描くこと」
         

   
 数字をゴリゴリ使った文章を書こうと、このゆるゆるブログを書こうと、いつも同じことを考えています。
   
  ▼
   
 相手とのあいだに「同じ風景を描く」ために、参考になるなぁと思っているのは、詩歌の世界です。
(だから、わたくし、詩をたくさん読みます)
  
 詩歌の世界で用いられているのは「短い言葉」。俳句の場合は17文字、短歌31文字。この「圧倒的に短い言葉」で、誰の脳裏にも、同じような風景を浮かべようとしている。
   
 これは、ものすごい「制約」です。このブログのように、駄文を繰り返して、冗長な表現をもって、なんとか意図を伝えるのとは訳が違う(笑)しかし、制約があるから、表現が際立つ。
    
 俳句の場合は、わずか17文字で、相手の脳裏に、「写真のような風景」を描こうとしている。猛烈な作品になれば「動画のような数秒の瞬間」を17文字で描く。
   
  ▼
    
 何度読んでもすごいな、と思ってしまうのは、38歳の若さで、子どもを残して病に倒れた女流歌人・石橋秀野の冒頭の一句。
   
 蝉時雨    (せみしぐれ)
 子は担送車に (こは たんそうしゃに)
 追ひつけず  (おいつけず)
   
  ・
  ・
  ・
    
 詩人曰く
        
 夏、蝉がミンミンと泣いている。
 自分は「担送車(ストレッチャー)」にのせられ、
 手術室・ICUに向かっている。
    
 娘が泣きじゃくって、自分の名前を呼び、
 ストレッチャーを追いかけている。
 しかし、子の手はストレッチャーに届かない。
   
 子どもの顔がどんどんと遠くなり
 自分は緊急処置室に向かう
  
  ・
  ・
  ・
  
 おそらくは、こういう風景だと思うのです。
 これをわずか17文字で歌う。
  
 僕は、この詩を見るたびに、この風景が心に思い浮かび、切なくなるのです。
 この情景に涙する。
 そして、自分の命が消えゆく中で、しぼりだした17字の創造力に涙する。
      
  ▼
     
 もうひとつすごいなぁ、と舌を巻いてしまうのは歌です。これは、かつて、このブログでも紹介させていただいたかもしれません。その歌とは、イルカさんの「なごり雪」です。
     
 思うに「なごり雪」の冒頭3行は、アートだと思います。
 まずは歌を聴いてみましょう。
    

     
「汽車を待つ君の横で僕は
    
 時計を気にしてる
   
 季節はずれの 雪が降ってる」
      
  ・
  ・
  ・
  ・
  ・
  ・
    
 どうでしょう?
 なんか・・・脳裏に、「同じ光景」が思いうかぶような気がしません?
    
 あまり、ひとけのない田舎の駅
 季節外れに、ちらつく雪のなか
 静かに、ふたりの男女が汽車を待っている
   
 汽車が来てしまえば、
 ふたりには、別れが訪れる
    
 だから、ふたりは
 汽車がくることを待ってはいるが
 本当は待ってはいない
     
 ただ、いま、この時間がつづくことを
 願っている
     
  ・
  ・
  ・
     
 あなたの脳裏と、わたしの脳裏に「同じ風景」が思い浮かんでいるようなしませんか?
   
  ▼
   
 今日は「言葉」の重要性について「同じ風景を描く」という観点から、私見を述べさせていただきました。
   
 たかが言葉、されど言葉です
   
 ひるがえって、現代社会の「言葉」の扱われ方は、あまりにむごい。
   
 言葉が、軽んじられ
 言葉が、裏切り
 言葉が、はぐらかし
 言葉が、嘘をつき
 言葉が、流れていく
   
 そんな現代に生きているからこそ、そのひとつひとつの言葉を大事にしたいものですね。自戒をこめて。
  
 そして人生はつづく
  
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