2021.6.4 08:32/ Jun
人材開発・組織開発の仕事に向いていないひとは、どういうひとか?
・
・
・
かつて、このような問いのもと、僕は、下記のような記事をいくつか書いたことがあります。
人材開発・組織開発の仕事にまったく「向いていないひと」はどんなひとか?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12696
人材開発・組織開発を志すひとは「他人の靴」を履いて「鬼の子ども」の気持ちにならなければならない!?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12699
幸い、これらの記事は多くの方々に読まれ、いくつかのお問い合わせ、反響をいただきました。ありがとうございます。
これらの記事をまとめて申し上げますと、
人材開発・組織開発に向いていないひとは「言語に関する感受性」と「他者視点」が欠けているひとである
ということになります。
今日は、これに加えて、もうひとつだけ追加させていただきたいと思います。それは何か?
・
・
・
・
・
・
端的に申し上げますと、それは「対話ができないひと」です。
逆にいうと、
人材開発・組織開発を志すのであれば「対話的な存在」でなければならない
ということになります。大丈夫です。世の中には、いろいろな仕事がございます。また、単に人材開発・組織開発に「向いていない」とわたしが思っているだけのことです。あまり真に受けないでください。
ここでいう対話とは
1.「共通のテーマ」に関して、じっくり話し合えること
2.その際、ひとびとは対等な立場でむきあって、言葉をかわしあうこと
3.「自分の考え・自分の経験」を語り、他者の考え・他者の経験を聞けること
4.お互いに「わかり合えない部分」をさがしあえること
5.「今、ここ」の瞬間を大切にして、他者の反応を待つことができること
とします。
先に述べたとおり、人々のあいだに「対話」をうながしたり、ひとびとの対話のなかに入っていけることは、人材開発・組織開発を志すうえで、基本中の基本です。
なぜなら、対話の果て、うまくいけば「自己のあり方」を見直したり「他者との合意」がつくられるからです。つまり、ひとの変化や、ひとびとの変化が、「対話の先」にある可能性が高いからです。
▼
さらに加えていうと、ここでいう「対話」の方向性は、さまざまな方向に拡張することも可能です。すなわち、「目の前のひとびと」との対話だけが、「対話」ではない。
ありうる拡張のひとつの方向性は「自己内の対話」です。
あたかも自分の「中」に、もうひとりの自分がいるがごとく、その自分から、今の自己を見つめ、そのあり方を対話していくことが求められます。別の言葉でいえば、それがリフレクションなのかもしれません。
もうひとつは「架空のひとびととの対話」です。
目の前に相対している個人でもなく、自己でもなく、「さらに遠くにいるひとびと」が、どういう反応をするか、どういう考えをもっているかを把握し、仮想対話していくことができたとしたら、最強です。
「遠くにいる他者と対話する?」・・・こういってしまうと、「超能力」「トンデモ」のように感じてしまう方もいらっしゃるかもしれませんね。
しかし、実際に、シャバの人材開発・組織開発では、こうしたスキルを、日々用いて仕事をしているのです。
たとえば、OJT指導員の皆さんに、OJTのやり方をワークショップで教えるときのことを考えてみてください。そのとき、まず必要なことは、目の前いる受講生、すなわち「OJT指導員の皆さん」と、向き合って対話していくことです。しかし、それだけでは「不足」があります。
さらに良質のコンテンツ、良質の学びの機会をつくりあげるには、OJT指導員の「その先」にいる、新入社員の気持ちを想像し、彼らの声と対話し、彼らの声を盛り込んだコンテンツや学びの機会をつくらなければならないのです。OJT指導員のひとびとが、日々向き合うのは新入社員でしょう。であるならば、その学びのコンテンツは、新入社員の声も反映したものにならなくてはなりません。
場合によっては、現場のマネジャーになりきり、彼らの声も代弁しなくてはならないかもしれません。
このようにOJTという「現象」は、このようにOJT指導員のみならず、新入社員、管理者というステークホルダーによって実現されています。よりよい学びの場をつくるためには、彼らの「声」が聞けなくてはならないのです。
そのためには他者視点にたちながら「自分の目の前にいないものとの対話」を実現できていなければなりません。
▼
このように、人材開発・組織開発を志すひとびとにとって「対話的であること」は基本中の基本です。
とりわけ後者の2つは、あまり述べられないことかもしれませんが、重要なことです。かつて、対話を「リアルに相対する他者」から「自己内対話」や「架空のものとの対話」にひらいていったのは、ロシアの文芸批評家ミハイル・バフチンです。
バフチンは、対話理論・ポリフォニー論において、拡張された対話によって、物事の意味がより豊かなかたちで、多義的・多層的に生成されることを明らかにしました。非常に重要な示唆です。
▼
今日は人材開発・組織開発を志すひとびとにとって、必要な資質として「第三の資質」ー「対話的であること」を述べました。
これは「言うのは易く、行うは難し」の典型であります。
しかしながら、「対話」のトレーニングは、この分野は必須かなとも思います。自戒をこめて
自らを「対話」のなかに投企せよ!
そして人生はつづく
ーーー
新刊「中小企業の人材開発」(中原淳・保田江美著、東京大学出版会、2021年)マニアックなガチ・学術研究書なのですが、発売10日で重版出来となりました。ありがとうございます。中小企業の人材開発メカニズムに接近を試みています。どうかご笑覧くださいませ!
ーーー
新刊「働くみんなの必修講義 転職学」好評発売中です!どうかご高覧くださいませ! ひとが会社を辞めなくなるのはなぜか(それを防止するためにはどうすればいいのか)?、どのような転職活動を行えば、納得のいく転職が可能になるのか、そして、どのように新たな組織に自ら適応するのか。転職にまつわる、これらの「問い」に対して、1万2000人の大調査を通して答えをだしました。パーソル総合研究所、パーソルキャリア、中原の共同研究成果です。ご高覧くださいませ!
ーーー
新刊「チームワーキング」発売初日・重版決まりました! AMAZON「マネジメント・人材管理」カテゴリー第1位! 手にとってくださった皆様、お読みいただいた皆様に、心より感謝いたします。
https://amzn.to/3esCOrW
すべてのひとびとに、チームを動かすスキルを! これがこの書籍のメインメッセージです。チームを動かす新たなアイデアとして「チームワーク」ではなく、「チームワーキング」を提唱しています。データとビジネスケースから、チームを動かすためのスキルを学び取ることができるようになっています。どうぞご高覧くださいませ!
ニッポンのチームをアップデートせよ!
ーーー
【立教大学大学院で大学院生しませんか?】
立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コースでは、経営学を基盤にしながら、人材開発・組織開発・リーダーシップ開発を実践できるアカデミックプラクティショナーを養成しています。別名、「ひとづくり・組織づくりの大学院」です。
授業は「フルオンライン」。授業は金曜日夜と土曜日だけ行われており、2年間で、修士(経営学)が取得できます。
来年の大学院入試は2月です。3期生の募集になります!ご興味がおありの方は、ぜひ、下記のページにお越しください!
立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コース
https://ldc.rikkyo.ac.jp/
ーーー
拙著「経営学習論」の増補改訂版が、東京大学出版会より刊行されました。新たに「リーダーシップ開発」の章を追加し、カバーの装いも変わっています。人材開発の基礎的な理論を体系的に学べる一冊です。どうぞご高覧くださいませ!
ーーー
【新刊予約発売中】
新刊「学校がとまった日」の特設サイト完成!&予約販売開始中! 緊急事態宣言・全国一斉休校で「学びを継続できた子どもの特徴」は?学びをとめないために学校にできることは?:書籍の内容が概観できます!どうぞご覧くださいませ!
新刊「学校がとまった日」の特設サイト
http://toyokan-publishing.jp/stop/index.html
新刊「学校がとまった日」予約販売開始中(AMAZON)
ーーー
【好評発売中】1on1の失敗・成功ケースをまとめ、映像教材を中原とPHP研究所さんとで開発しました。失敗しない1on1について、具体的なイメージをもって学ぶことができます。どうぞご笑覧くださいませ!
上司と部下がペアで進める 1on1 振り返りを成長につなげるプロセス
https://www.php.co.jp/dvd/detail.php?code=I1-1-061
ーーー
【祝・eラーニング完成!】中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース完成しました。リーダー・管理職になる前には是非もっていたいフィードバックスキルを、PC、スマホ、タブレット学習可能です。ケースドラマでも学べます!
中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース:Youtubeでデモムービーを公開中!
https://youtu.be/qoDfzysi99w
「実践!フィードバック」コース ありのままを共有し、成長・成果につなげる技術(PHP)
https://www.php.co.jp/el/detail.php?code=95123&fbclid=IwAR2he6Z_PTe3YiahcnCv3z9pNRXvrajPwVaRS8LLAYFkbWVH167qHDfYF5Q
ーーー
「組織開発の探究」HRアワード2019書籍部門・最優秀賞を獲得させていただきました。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
ーーー
拙著「職場学習論」(東京大学出版会)のカバー・装いが10年ぶりに変わりました(内容は変わっていませんのであしからず!)。ひとは、職場でどのようにして学ぶのか、というテーマを考察しています。どうぞご高欄くださいませ!
ーーー
中原研究室では、一般社団法人ピアトラストさんとの共同研究で、相互称賛アプリ『Peer-Trust(ピア・トラスト)』の研究を行っています。
相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が導入された職場では、職場のメンバー同士が、お互いの日々の仕事を観察し、そこにキラリと光るものがあったときに「称賛カード」というものをメッセージとともに送りあいます。1カ月間は無料トライアルだそうです。ご興味があえば、ぜひ、ご利用くださいませ。
強みの自己認知と意欲を高める『ポジティブ1on1』
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000059483.html
あなたの会社のリーダー・管理職は「部下の強み」を観察できますか?:相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が示唆する「リーダーの条件」とは?
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12062
ピアトラストお問い合わせ
https://www.peer-trust.com/contact/
ピアトラストの効果まとめページ
https://www.peer-trust.com/research/2020/
ーーー
【注目!:中原研究室記事のブログを好評配信中です!】
中原研究室のTwitterを運用しています。すでに約32000名の方々にご登録いただいております。Twitterでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記からフォローをお願いいたします。
中原淳研究室 Twitter(@nakaharajun)
https://twitter.com/nakaharajun
最新の記事
2024.11.22 08:33/ Jun
2024.11.9 09:03/ Jun
なぜ監督は選手に「暴力」をふるうのか?やめられない、止まらない10の理由!?:なぜスポーツの現場から「暴力」がなくならないのか!?
2024.10.31 08:30/ Jun
2024.10.23 18:07/ Jun
【御礼】拙著「人材開発・組織開発コンサルティング」が日本の人事部「HRアワード2024」書籍部門 優秀賞を受賞しました!(感謝!)