2021.1.27 08:20/ Jun
「エビデンスに基づくホニャララ」は「思考停止」することではない!
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最近、気になっていることのひとつに「エビデンスに基づくホニャララ」というセンテンスがあります。
政策立案にしても、組織のなかの人事施策立案にしても、昨今は、それを支持する「エビデンス(Evidence)」が求められます。
ここでエビデンスとは、
1)ある特定の場所・時間において
2)科学的に検証された
3)事象Xと事象Yとの関係
と定義します。
要するに、エビデンスとは「科学的な研究知見」と考えてもよろしいのかな、と思います。ある特定の環境下において見いだされた「因果律(事象Xと事象Yとの関係)」といってもいいかとも思います。
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ところで、このエビデンス。
「何らかの企画をたてる」ときには「ないよりはあったほう」がいいと、僕は思います。
だって不安でしょ。はしにも、棒にもかからないような失敗したくないでしょう。何らかのかたちで、判断の拠り所になるような、過去の経験は「ないよりはあったほうがいい」。それはそう思います。
しかし、どうも、昨今、社会には「エビデンス万能神話」みたいなものが生まれているような気がしてなりません。
つまり、エビデンスを「万能のもの=すべてを予測する答え」ととらえる見方が広がっているということです。
しかし、場合によっては、その見方が、かえって関係者の視野を狭窄している気がします。また、ときには関係者の「思考停止」を招いているような気もするのです。
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先ほど述べましたように、エビデンスとは、1)ある特定の場所・時間において、2)科学的に検証された、3)事象Xと事象Yとの関係のことをさします。
(メタ分析という手法もありますが、ここでは、こうシンプルに定義します)
さすれば、その研究知見とは、「限定された研究対象において導かれた、因果関係」であり、その知見の適用可能性や適用範囲には一定の「制約」があります。
もちろん、科学者の側は、そんなことは「百も承知」で、あらゆる科学的論文には「limitation(制約)」が述べられています。そして、科学者ならば、この知見の「一般可能性(一般化できる範囲)」を必ず頭に思い浮かべます。
しかし、それが様々なかたちでシャバで利用されるとき、「limitation」や「一般化可能性」は忘れ去られ、一人歩きするのです。
すなわち
エビデンスはもれなく「一人歩き」する
のです。
くどいようですが、あらゆる科学的知見には一般化できる範囲があります。そして、A国のB市で行われた「ほげほげ施策」の実証実験の研究知見は、C国のD市の「ほげほげ施策」を考えるときに、そのまま適用して、同じ事がおこるかどうかを保障はしません。
だって、A国はC国とは違う国でしょう?
そして、B市とD市は違う市でしょう。
そこに住む人々も、文化的背景も、社会背景も、みな異なるでしょう。場合によっては、時代も、導入された背景に異なるでしょう。
とりわけ「ひとにまつわる問題」は「薬品」ではありません。「薬品」をふりかけるがごとく、「Aのシャーレ」で起こったことが、「Bのシャーレ」で再現されるとは限らないのです。
もちろん、エビデンスは、それを導入したいと思うひとびとが「考えるための参考」にはなるかもしれません。
しかし、それを「そのまま、まるっと適用」できるものと考えるのは、やや「非科学的な態度」といえそうです。
すなわち、
エビデンスは「答え」を提供するわけではありません。
そして
エビデンスは「結果の保証」も行ってくれるわけではありません。
しかし、世の中に蔓延しているように見える「エビデンス万能神話」は、エビデンスを「答え」と見なす傾向があるように思います。
すなわち、「世の中のどこかで得られた科学的知見」は、「他のどこにでも通用する」と思われている節がある。おそらく、そんなことはありません。
また、これは個人的な感覚かもしれませんが、わたしは、
エビデンスは「ホームラン(大成功)」を約束するものではないと思います。
もちろん、なるにこしたことはありませんが、そういうものではない。
むしろ
エビデンスとは「空振り三振(はしにも棒にもかからないような、無駄な失敗や無駄な議論)」を防ぐくらいの効果をもつものだ
と考えるくらいで「ちょうどいい」のではないか、と思います。
結局は
「あなたが考えることであり、決めること」
なのです。
先ほどのたとえでいえば、
結局は、バッターボックスにたつ「あなた」が見つめ、考え抜いて、バットを振り切ること
だということになります。
「エビデンスバカ」にならないでね!
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今日はエビデンスについて思うところを書いてみました。
朝っぱらから、いろいろ言いましたが、エビデンスは「ないよりはあったほうがいい」に決まっているし、なかには貴重な示唆を提供してくれるものもあります。
また、私は、「科学的知見は役立つ!」と思っている人間のひとりです。ですので、ささやかながら「エビデンスらしきもの」を社会に「お届けしたい」と願っています。
しかし
エビデンスは「答え」ではない
エビデンスを語る科学者は、答えを知っているわけではない
ということは重ねてお話ししてきたいことだと思っています。科学者の方からすれば、今日の話は「何を今更ジロー感」のあふれる話に見えるかもしれません。しかし、エビデンスとはシャバの世界で一人歩きするのです。
むしろ、
エビデンスとは「対話の素材」
くらいに思っていただくのがよろしいのかと思います。
願わくば、これまでわたしが自著で何度もお話ししているように
「エビデンスを素材として、関係者で対話を重ねていただき、決めていただくこと」
が重要かと思っています。
そして人生はつづく
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