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2007.8.6 08:08/ Jun

「組織学習」の一冊:DHBR編「組織能力の経営論」

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 ダイヤモンド・ハーバードビジネスレビュー編「組織能力の経営論」を読んだ。

 本書は、ハーバードビジネスレビューに掲載された、クリス=アージリス、野中郁次郎、エティエンヌ=ウェンガー、などの「組織学習」「学習する組織」に関係する論考を集めたもの。1冊で、有名な論文がまとめて読めるので、お得感が高い。
 個人的にオモシロイなぁと思ったのは、スタンフォード大学経営大学院 ジェフリー・フェッファー教授のエビデンスマネジメント。
 昨日の話と少し通じるところもあると思うので、少し長くなるが、下記に引用してみよう。
「医者の診療行為が、どの程度エビデンスに基づいているか」
 という話である。
 —–
「本当に実効性のある治療法に関する最新かつ最善の科学知識に基づいて、医療上の意思決定を下すべし」
 これこそ、この10年以上医学界に一大旋風を巻き起こしてきた斬新な考え方、いわゆる「エビデンスに基づく医療:EBM(Evidenced-Based Medicine)」である。
(省略)
 このように聞いて、「笑止千万。そもそも医療上の意思決定のよりどころになるものにエビデンス以外ないではないか」と思われる向きは、これまでの医療の実態についてはなはだ認識不足である。
 たしかに、研究成果は簡単に手が届くところにある。つまり、医療方法や医療用品に関する研究は、毎年何千件となく実施されている。しかし、残念ながら、医師たちはこれらの研究成果をあまり活用していない。
 最近では、医師たちの意思決定のうち、エビデンスに基づいて下されたものは、約15%にすぎない、という調査もあるくらいだ。
 医師たちは、エビデンスの代わりに、たとえば学生時代に学んだ時代遅れの知識、検証されていない長年の慣行、経験の寄せ集めからなる行動パターン、おのれが信奉するお得意の治療法、製品やサービスを売り込むために群がる企業からの情報といったものに頼っているのだ。
(同書より引用)
 —–
 ・・・非常に考えさせられる話である。
 まず、患者としては、自分に施される行為の背後には、15%の根拠しかないのか、と思ってしまう。
 しかし、ドナルド=ショーンが明らかにしたように、専門家とは「ルール」を「技術的合理性」に適用する主体ではない。15%という数字が高いか低いかには議論が分かれるが、概して「そういうものだろうな」とも思う。
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 そのほか、心臓外科手術のチームの「学習」の問題を扱った、ハーバードビジネススクール准教授 エイミー=エドモンソンの論考も面白かった。
 心臓外科チームが、新しい術式を学ぶときに、どのような障害を経験するか?
「チーム学習にはどのようなリーダーシップが必要か」という話であった。一見相反する「チーム」と「リーダーシップ」が「学習」という文脈で語られていることがオモシロイ、と思う。

 —–
 それにしても、ここ最近、ダイヤモンド・ハーバードビジネスレビューは、人材育成、組織、学習のアンソロジーが、続いて出版されている。下記の書籍も、お得感があってよい。

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