NAKAHARA-LAB.net

2020.4.27 10:58/ Jun

「オンライン授業の学習効果」は「対面授業」よりも低いのか?

 時節柄、オンラインの学習効果に関して、ご質問をよく受けます。
 オンライン授業の学習効果についての論文というものは、多々あります(ありすぎて、泣きそうになる)。
    
 このところ、そういうご質問を受けることが多くなっておりますので、下記にひとつだけ文献をご紹介しておきます。
 それは、アメリカ教育省が「オンライン学習におけるエビデンスベースの実践評価」と題している報告書です。2010年にでている報告書で、すこし古いですが、どなたでもお読みになれますので、おすすめです。
  
Evaluation of Evidence-Based Practices in Online Learning : A Meta-Analysis and Review of Online Learning Studies
https://www2.ed.gov/rschstat/eval/tech/evidence-based-practices/finalreport.pdf
 
 この報告書では、1996年~2008年に行われたオンライン学習に関する研究のなかから、信頼性が確保できている研究45本をメタ分析し、効果量を抽出したものです。
  
 え、え、英語かよと思われた方は、わたしの研究室のOBの関根雅泰さん(ラーンウェル代表)が、なんと、この報告書の要約を公開してくださっています(感謝です!)。
  
オンラインの学習効果
http://learn-well.com/blogsekine/2020/04/_200420.html#more
 
 関根さんの要約をざっと見ていただければわかるとおり、
  
・学習結果を見ると、平均的に見て、オンライン学習者のほうが、対面指導を受けた者より、良いパフォーマンスをあげている
  
・オンライン学習のみ、対面指導のみよりも、その2つを組み合わせた指導のほうが、より高い効果を発揮していた。
  
 などのことがわかります。詳細は関根さんの要約、また原典をお読みください。
  
 こうしたことから考えると、「オンライン学習が必ずしも対面授業と比べて劣っているか」というと、そうは言い切れないと思います。

 ただ、ここには一定の担保もあります。
 まず重要なのは、この議論が「学習効果」に限られている点です。
   
 学習効果としては同じ(ないしはオンラインが優越する)かもしれませんが、オンラインとオフラインの「学習体験」は同じというわけにはいきません。
  
 たとえば、キャンパスに集い、わいわいとおしゃべりをする経験。廊下であった友達に挨拶をする経験。つまり、学びの場が提供する「ひとびと同士の交歓」や「ひととひととのつながり」としての経験は、同値とはいえません。学びの場は、単に学習の場であるというだけではないのです。それは「居場所」や「つながり」を人々に提供します。 また、学習にともなう心理的な負荷、疲労感といったものも、考慮されてはいません。価値を議論するには、そうした体験を総括して語られる必要があります。
  
 また実習を含むもの、身体の動きを含むものなどは、オンラインでは教えにくい側面があります。

 最後に、この論文は1996年から2008年の論文を対象にメタ分析をしてかかれているということです。インターネットの世界は日進月歩です。現在のテクノロジーで用いれば、また違った結果もでてくるかもしれません
   
 そういう点を担保したうえで、上記のような論文を解釈していくことが求められるのだと思います。
   
 今日は、情報提供までに。 
 そして人生はつづく
   
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