NAKAHARA-LAB.net

2020.1.29 07:39/ Jun

世にも奇妙な「100ドル争奪・徒競走ワークショップ」で「見える化」されたものは何か?

 折に触れて、思い出すムービーがあります。
 ある学校で行われた「賞金100ドル争奪をめざした徒競走のワークショップ」です。
     
 フェアとは何か?
 格差とは何か?
   
 そうしたことを考えさせられます。もともとは、カタリバの今村久美さんが、ご自身のプレゼンのなかでお使いになっていたのを目にして知りました(感謝)。
   
 このワークショップの目的は「賞金100ドルを争って、学生たちがみんなで、徒競走レースをすること」だけです。
 徒競走に勝ったひと1人が、100ドルを手にすることができます。多くの生徒たちが「スタートライン」に横一列に並んでいます。
  
 ただし、ひとつだけ、普通のレースとは異なる「条件」がある。
  
 それは、監督とおぼしき人物がかかげる「ステートメント(条件)」に該当するものは、「2歩ずつ歩数を進めることができる」というものです。
 これまで、多くの生徒たちが「スタートライン」に並んでいたのに、このステートメントに該当する生徒たちは「有利」になるのです。
  
 その条件とは・・・
  
君たちの両親はいまも仲良くしているか、もしそういう学生がいたら、2歩先にすすめ
  
君が成長したときに、君の父親は家にいたか、もしそうなら、そういう学生だけ、2歩前にすすめ
  
君たちは私立学校を卒業しているか、そういう生徒は、今からさらに、2歩すすめ
  
君たちのなかで携帯電話の料金の支払いを心配したことがないものがいるか、それならば、今から2歩すすめ
  
 ・
 ・
 ・
   
 もうおわかりですね。
  
 これらの条件は、その学生が生まれ育った環境(社会的条件)、とりわけ、両親の社会的・経済的格差を述べています。すべてに該当する学生は、とても「有利」になります。該当しない学生は、とても「不利」になる。
  
 そろそろ映像の方を見てみましょうか?
 もし英語のリスニングが厳しければ「字幕」のところをスイッチすると、字幕がでます。
  

  
 このワークショップは、
  
 一見、平等に見える生徒たちのなかにも、すでに「格差」が存在していること
  
 一見、公平に見える100メートルレースでも、実は、すでに有利不利が決まっていること
  
 つまり、一見、平等に見える社会でも、その内部で、機会は平等に与えられていないこと
  
 をこれでもか、これでもか、と「見える化」していきます。だって、一見公平に見えるレースのスタートラインが、ひとによって、まったく違うんです。誰の目にも明らかに「格差」が浮かび上がります。と、同時に、富の再分配、機会平等は、非常に重要であることを、思い知らされます。
   
 大切なことを監督が述べます。
  
「これまで僕がかかげた条件は、君自身の責任ではない。君たちが成し遂げたものとは何にも関係がない」
  
 なぜなら、子どもに親は選べませんので・・・
 ぜひ、ビデオを見てみてください。
   
  ▼
    
 今日は、公平、機会平等などについて考えてみました。
    
 この人生において、あなたも、これまで徒競走レースを走り抜けてきたんでしょう?
  
 あなたは、他人よりも、何歩前の位置からレースをスタートすることができましたか?
   
 あなたは、何歩も前に進んでいく「他人」を、どんな気持ちで見つめていましたか?
   
 あなたにとっての経験した徒競走レースは、あなたにとって「有利」でしたか、それとも「不利」でしたか?
      
 そして人生はつづく
   
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