2019.11.26 08:28/ Jun
先だって、大阪で開催された臨床心理士・国重浩一さんの「ナラティブセラピー」に関する研究会に参加させていただきました。この研究会は、ODNJ関西分科会が主催された研究会で、
「ナラティブセラピー(ナラティブ論)の知見・エッセンスを、いかに組織開発・組織変革に活かすのか?」
ということに興味をお持ちの方が、数多く参加なさっていたように思います。
まずは、講師をおつとめいただいた国重さん、そして、ODNJ関西分科会のみなさまに、心より御礼を申し上げます。ありがとうございました。
国重さんのナラティブセラピーに関する数々の著作は、僕がこれまで読んだナラティブセラピーの本のなかで、もっともわかりやすく、読み手のことを考えた本のひとつである、と思っていました。
従来のナラティブセラピーの本は、どこか「ポストモダンのかほり」が立ちこめており、「このセラピーについてわかりたければ、フーコーとウィトゲンシュタインを1000回読んでから来い!(笑)」的な「高尚な!?イメージ」があったのですが、国重さんの本には、それがありません。
むしろ、国重さんの著作は、
難しいことを 易しく
易しいことに 嘘はなく
ということをモットーに書いてある本であるように思っていました。
国重さんは「ぜひ、一度、この著者には会ってみたい」というおひとりでしたので、このたび、お会いできてとてもうれしいことでした。ありがとうございました。
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ところで、今回の研究会は既述いたしましたように「ナラティブセラピー(ナラティブ論)の知見・エッセンスをいかに組織開発・組織変革に活かすのか?」ということを主眼に企画されたものだと解釈しています。
僕と中村和彦先生の著書「組織開発の探究」では、
1.「組織開発の基礎」をなしているものに心理療法が存在していること
2.その構造故に、組織開発はパワフルである
3.その構造故に、一方で、組織開発は適切にファシリテートされなければならないこと
を論じました。
今回の研究会の趣旨は、おそらく、この「基礎にあたるもの」として想定されているものがナラティブセラピー(ナラティブ論)であり、それの「組織開発への応用可能性」について考えることが、主眼であったのだと認識しています。なかなか興味深い問いです。
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まず、ナラティブセラピーについて。
専門家に「便所スリッパ」でカンチョーされることを1ミリもいとわず(ちょっとは、いとえよ・・・)、ナラティブセラピーを僕なりに解釈すると、下記のようなものです。
ナラティブセラピーとは
1.「ひとは意味を構築する主体である」という人間観や「ひとはストーリー(ナラティブ)の形式で、物事を把握する」という認識論を基盤として成立している「心理療法」のひとつである
2.ひとは「ストーリーの形式」で物事をそれを把握するが、そのストーリーは、あらゆるものから「自由」に生まれているわけではない。ストーリーは、そのひとの「過去の経験」や、そのひとが日々を活きている「環境・社会・組織」の影響を受ける。つまり、自分の「過去」や「自分が入っているハコ」の影響から、ひとは「自由」にはなれない
3.ひとは、それらの制約のなかで、日々、せっせこせっせことストーリーをつくり、物事を理解しているし、そのことによって他者と協働し、課題解決をしている。
4.ひとが行う「協働」や「課題解決」のなかで、もっとも重要なのは「何を共に為すか」「何が課題であるか」であーる。この「何を共に為すか」と「何が課題」とされるかも、いわば「ストーリーの形式」で生み出され、了解されており、そのもとで、ひとはせっせこせっせこ、物事に取り組んでいる
5.一方・・・ひとは「ストーリーを生み出す主体」であるけれども、しかしながら、ひとはまことに「か弱い」。ひとは「ストーリーに圧倒される脆弱な存在」でもある。ひとは「社会」や「社会のなかの他者」からバシバシと影響を受ける。社会や社会の中の他者は、第三者を「がんじがらめ」に束縛しかねない様々なストーリーを日々生み出している。
6.またひとを縛るのは他者や社会とは限らない。ひとによっては、「他者のストーリー」ではなく、「自分自身でつくりだしたストーリー」に囚われ、自分で、勝手に身動きがとれなくなるひともいる
7.ナラティブセラピーでは、カウンセラーからさまざまな「ユニークな問い」を投げかけれることによって、ガチガチに縛られたストーリー(ドミナントストーリー)から、視点が「ズレ」たり、新たな意味づけを獲得できたりする(オルタナティブストーリー)。そのことで、ひとは楽になることがある。
8.オルタナティブストーリーは、場合によっては、ひとが囚われていた「問題」を、「問題ではなくなったりすること」もある。それまで「課題」だと思われていたことが、「課題」ではなくなり、「問題だと思っていたことの遙か以前の事柄」が「真因」であることに気づくこともある
9.ナラティブセラピーのカウンセラーは、このように、ひとが絡め取られてしまったストーリーの「書き換え」を支援する
10.ナラティブセラピーによる「ストーリーの書きかけ」は、カウンセラーからの「支援的な問いかけ」によって促される。しかしながら、新たなストーリーに気づくのは、あくまで「本人」である
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いかがでしょう。
わかるような、わかんないような(笑)
10行で・・・わかるわけねーだろー(笑)。
もし、ご興味がある方は、ぜひ、国重さんのご著書をお読みください。
おすすめです。
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ところで、このような特徴をもつナラティブセラピーが「なぜ、組織開発に役立つのか」ということなのですが、私見ながら、これはいくつかの場面が想定されるのかな、という印象を持ちました。
1.組織開発のエントリーの際、組織のステークホルダーと、「何が問題か」を話し合うときに、本当に「問題とすべきことは何か」「何をめざしたいのか」をすりあわせるときに用いる
2.エグゼクティブコーチングやマネジャーに対するコーチングを行うとき、そのひとが囚われているストーリーを顕在化させ、正しい問題設定、正しい目標設定を支援するときに用いる
3.比較的少人数のグループで、ゆったりとした時間が確保でき、かつそこに参加メンバーのオーナーシップと問題意識がともなう場合、組織が囚われているストーリーを顕在化し、問い直すきっかけとし、組織がめざすべきものを正しく設定するときに用いる
もちろん、これ以外にも存在するのかもしれませんが、真っ先に頭に浮かんだのは、このような場面でした。
すなわち、「ナラティブセラピーが依拠している考え方、思想、ものの見方」を組織開発を立ち上げ、成立させていく様々な局面に活かす、というかたちが、もっとも想定されるのかな、と思います。
一方で、ナラティブセラピーの実用性を認めつつも、「ナラティブセラピーの支援や特徴的な問いかけ手法」を、組織開発に「安易」に「接合」するのは、個人的には慎重に行ったほうがよいところもあるように感じました。
個人的に一番避けたいのは、
最近流行の「ナラティブセラピー的な問いかけ」を、対グループだろうが、対組織だろうが、あたりかまわず、やたらめったら、ぶちかますようなような支援
です。
どうだー!
ナラティブセラピーだぞーい(笑)
ナラティブフレーバーの「変化球的な問い」を食らえー(笑)
嗚呼、これは避けたい。
もしかすると世の中には、すでに
「最近注目されているナラティブセラピーを実践したいだけ王子」
「最近流行のナラティブセラピー的問いかけを発してみたい姫」
がいらっしゃるのかもしれませんが、「使いたいだけ」の支援は、あまり「生産的な対話」を生み出さないこともあるので注意が必要かもしれません。
もっとも注意したいのは、ナラティブセラピーと組織開発は、下記の点でまったく異なるところもあるからです。
1.時間軸と濃さが違う
ナラティブセラピーは1セッションで1時間近くにわたる時間を、カウンセラーとクライアントで過ごします。その内容は、人生の機微にふれる内容も少なくありません。一方、組織開発ではそこまでの時間と濃密さをもって話し合われることの方が希です。
2.相手は問題を抱えていない場合もある
心理療法であるナラティブセラピーの支援先は、「相手は問題を認識しているひと」でありますが、組織開発の場合は必ずしもそれは多くありません。組織開発の介入対象は「相手には問題意識がないひと」も含まれているため、ナラティブセラピーの問いかけが活きない場合もあります
3.ナラティブセラピーは「1対1」を想定された支援技術である
既述しましたように組織開発のいくつかの局面には、関係者との話し合いや1on1などが含まれます。しかし、組織開発ではそうした介入は限られており、その多くは対グループ、対組織を対象に行われます。これに対して、ナラティブセラピーは基本的には「1対1」を想定された支援技術です
端的に申し上げますと、「ナラティブセラピーは心理療法」であり、「組織開発は心理療法」ではありません。そのことを間違えると、かなり痛い展開になりそうだなという実感を持ちましたが、いかがでしょうか。
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今日は週のど頭からマニアックな話題「ナラティブ論と組織開発」について書きました。一部に慎重な物言いもしましたが、基本的には、僕は、ナラティブセラピーの依拠する哲学や思想は、組織開発を実践するうえで、非常に役に立つところも多くあると思っています。
ナラティブアプローチ、ナラティブターンが人文社会科学で注目されてはや20年くらいでしょうか(社会科学をかじった方なら、嗚呼、あのナラティブターンね、と思い出すでしょう)・・・この考え方を応用すると、ふだんは不問に付されている「問題を問題たらしめている要因」「この問題を問題だと考えてしまう要因」「問題のそれ以前の要因」が見えてくる場合もあります。
実際、今、僕は「サーベイフィードバック入門」という本を書いているのですが、その中でも、ナラティブ論(というよりもポストモダン論)の考え方は取り扱われています。次回作では、プラグマティズムを標榜しつつ、ナラティブの考え方をいかに実務に活かすか、という視点で、診断型組織開発を論じてみたいと思っています。この「ねじれ感」が、自分的には興味をもっているところです。
どうぞお楽しみに!
週の最初からインサイトあふれる学びの場に参加できて嬉しいことです。
そして人生はつづく
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追伸.
国重さんの著作には、ケネス・ガーゲンやナラティブ論の著者がたくさんでてきます。その著作を読んでおりますと、昔のことを、ついつい思い出してしまいます。僕の学部時代の研究テーマは、「ストーリーテリング(ナラティブ)×学び」。そして大学院時代のゼミ(菅井勝雄ゼミ)でもっとも読んだのはケネス・ガーゲンでした。それからもう20年・・・。1年1秒、約20秒で、ここまで来てしまったように感じます。時がたつのは早い。
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