The Long & Winding Road - 2004/05 ver.2

        


    
"Spring comes" by Miwa
    


2004/05/31 日本からのデリゲーション

 先日、ある教授と話していて、彼がこんなことを言っていた。

 日本からMITには、毎年、ものすごい数のデリゲーションやインタビューのアポイントメント希望がくる。「是非お逢いしたいのですが」なんていうメールは、いつものことだ。

 日本からの問い合わせで、非常に残念なことは2つある。1つめは、会議の席上、「話を聞く」ばっかりで、自分たちがどんな活動をしていて、何に興味があるのかを、自分たちの研究成果をシェアしようとしないこと。こちらも忙しい中時間を割いているのだから、たとえ、英語が苦手でもよいから(日本人にとって英語がムズカシイのは、彼はよくわかっていると言っていた)、情報を相互に交換する姿勢を見せて欲しい。中には、資料すら用意してこない人もいる。

 2つめは、大勢でくるのはいいのだが、その中に「意志決定権のある人」「将来のある若い人」が含まれていることがすくないこと。特に「若い人」が海外にこないのは、どうも解せない。

 これからの組織を担ったり、実務を担当しなければならないのは若い人なのに、物見遊山ついでの人がきている場合が少なくない。でも、そういうのは、すぐに見分けがつくから、こちらもあまり熱心にはつきあわない。特に、これは企業に当てはまる。

 僕の英語能力は怪しいモノだが、こんなことを言っていた。
  自戒をこめて言いますが、注意しなければな、と思います。誰も、語ってくれなくなるかもよ。


2004/05/30 USエアウェイズ

 先日5月4日、全米7位の航空会社「USエアウェイズ」が、スターアライアンスに加入した。日本ではあまりなじみのない航空会社かもしれないが、「ボストン - ニューヨーク」「ボストン - ワシントン」などにシャトル便をだしていて、ボストンから出張する際には利用頻度が高い。スターアライアンス・マイレンジャーの僕としては、非常に嬉しい。

 先日の出張の際、早速、USエアウェイズのラウンジに出かけてきたが、うーん、広い。しかも人が全然いない。集中できて、仕事がとてもはかどった。

 今回のUSエアウェイズの加入によって、スターアライアンスは計15社の航空会社のネットワークとなる。すべてのエアラインに搭乗するのは、いつの日になるだろうか。


2004/05/29 ガムがマズイ

 いつも疑問に思っていることのひとつに、「なぜアメリカのガムはマズイのか」ということがある。強烈なミント、強烈なホワイト、強烈なハーブ。その強烈さといったら、胃の中のピロリ菌(死んでくれただろうか・・・僕のピロリ菌・・・)も白旗をあげるほどである。ふだん、僕は食べ物を前にして、「うまい」ということはあっても、決して「マズイ」ということはない。その僕でも、自信をもってこう言えるのさ、「うーん、マズイ」。

 それに比べて、日本のガムのうまいこと。たとえば、グリーンガム。食った瞬間に、「夏の清里でテニスしているような気分」「中学生の頃、はじめて女の子とデートしたような気分」になれるぞ、僕は。まさに、「清涼感」だね。

 ちなみに、ダイエットと禁煙の立役者となったのは、僕の場合、実はガムであった。今はなるべく控えるようにしているが、ときに死ぬほど食べたくなる。大切な模試の最中に、耳の奥深くが突然かゆくなってしまうような感じ。

 そんなときは近くの日本食スーパーマーケットに、ガムを買いにいく。グリーンガムは、日本円で160円もする。高い、だけど買う。

 アメリカ人にも、是非、グリーンガムの清涼感を経験して欲しい。
 どうせ、「味がない」とか言うんだろうな。

追伸.

 アメリカの食べ物の悪口を言ってしまったが、アメリカの方がうまい食べ物も存在する。


2004/05/28 ASTD2004にいってきた!

 ASTD2004の報告をエッセイのページに公開しましたので、このページにも転載します。なお、下記の文章は今後、少し書き足していきます。その場合は、下記に下記に転載した文章の方は、更新しません。最新は、エッセイのページ「ASTDに行ってきた!」でごらんください。

 ----以下、転載----

 2004年5月23日から、ワシントン・コンベンション・センター@ワシントンDCで開催されている「ASTD2004」という学会に参加しています。

ASTD2004
   
  

  

ワシントンの中心部から車で10分くらいでしょうか。ワシントンコンベンションセンターは、とても大きな会場です。ただ、周囲の治安は、あまりよくないようです。

  

 ASTDとは「American Society of Training and Development」の省略です。「企業の人材育成担当者」や「人材マネジメント」を担当する役員である「Chief learning officer(チーフ・ラーニング・オフィサー)」、そしてそうした領域で研究を行っている研究者が参加している学会です。

 この学会、今年でなんと60回目なんですね。第二次世界大戦前後、各企業が生産を拡大しようとした際に、いったい「どのように人材を育成するべきか」という関心の高まりから、学会が生まれたそうです。1960年代のインストラクショナルデザインの勃興、そして、1990年代のeラーニングの台頭。これまでいくつかの波をのりこえて、ここまできたのですね。

 ASTD
 http://www.astd.org/

 ASTD2004
 http://www.astd.org/ASTD/conferences/ice/ice04_home

 この学会、毎年、アメリカで開催されており、参加者は1万人だといいます。世界各国から参加者がいるように思います。アジア系では、特に韓国と中国からの参加が目立ちます。でも、日本からも多いかな。少なくとも100名以上は参加しているように思います。

 カンファレンスの他に、人材育成関連のサービス、ソリューションなどを集めた「エキスポ」も開催されているんですね。こちらの方は、幕張メッセのような広さの会場が、すべて「それ関係」の展示でうまるほどです。

ASTD2004
   
  

  

エキスポは、こんな感じです。本当に広い会場で、このはしからはしまで、すべてが人材育成グッズで埋まっています。

  

 ところで、なぜ、僕がこの学会に参加しているか、ということから話をはじめましょう。もう既に日記でさんざん述べているので、あらためて言う必要もないのですが、実は、僕は、去年から「企業」をフィールドにした「学習研究」「教育研究」を少しずつ取り組み始めているのです。「研究」の成果は、これから(2005年以降)、徐々にでてくるのではないかと思います。

 管見ながら、この領域は、なかなか教育学の先行研究がないのですね。経営学、経済学、社会学、心理学など、関連する研究領域はたくさんあります。でも、僕の主たる関心である「教育や学習の場をつくる」ということに、ジャストミートするような研究って、そう多いわけではない。そこに「教育」とか「学習」という観点を持ち込んで研究をしてみたい、というのが、僕のもともとの関心です。是非、共同研究のパートナーになっていただける企業、研究にご協力いただける方がいらっしゃいましたら、とても嬉しいです。

 あっ、これ誤解を避けるために前もって言っておきますが、この領域の先行研究が少ないのは、日本に限ったことではないですよ。ASTD2004では、何人かの研究者の人と話す機会を得ました。で、僕は決まったようにこう言っていたのですね。

「(拙い英語で)実は、この領域に僕はあまり詳しいわけではないんですよ。アメリカと違って、こういう領域って、日本のアカデミズムではあまり研究されていなかったと言えるかもしれませんね。」

 でね、帰ってくる答えはいつもこんな感じです。

「(流暢な、そして速すぎる英語で)June(僕は海外では、Juneと書いている。Junと名乗ると、ユンと呼ばれる)、それはアメリカでも同じ状況だよ、だから、これから、みんなでどうやって研究をしていくか、コンセンサスをつくらなければならないんだろ。これから僕らで、協力して、新しい領域をつくるんだよ。」

 昨日もヒューレットパッカードの研究者が同じ事を言っていました。彼らは、この問題を正面から取り扱った本を執筆し、つい先日、出版されたそうです。こういう状況なのに、日本では、よく「アメリカは非常に進んでいる」と言われていますね。でも、それは必ずしもこちらの人の認識とは違うようですよ。

 まぁ、話がそれました・・・ともかく、「どちらが進んでいるか」なんてどうでもよいことです。ともかく、僕の取り組みを紹介しますと、去年は、「はじめての人材育成:ワークプレイスラーニングデザイン入門」(中央経済社)という本を、何人かの執筆者の方々と執筆しました。

中原淳(編著)、北村士朗・荒木淳子・松田岳士・浦嶋憲明・小松秀圀(著)(近刊) ここからはじまる人材育成 - ワークプレイスラーニング・デザイン入門(仮題). 中央経済社, 東京

 この本は、企業の人材育成担当者の方々にインタビューを行い、「彼らがどのような苦労と工夫のもとに、それぞれの学習環境をつくりあげているか」を論じた本です。いわゆる狭い意味での「研究知見」ではないですが、僕にとっては、かなり冒険的な一冊です。この取材の際には、とてもオモシロイ語りを聞かせていただきました。富士ゼロックス、富士通、マイクロソフト、デンソー、オートバックス、東京海上火災の各社の担当者の方には、この場を借りて御礼申し上げます。

 この本、僕は執筆者でありながら編者でもあったわけですが、企業の人材育成担当部門にはじめて着任なさった方が、手にとって、1)先行事例、2)基礎的なキーワードを知ることができるように編集を心がけたつもりです。先日、校正を終えたので、おそらく、2004年7月には本屋の書棚に並ぶことと思います。

 本の執筆に取り組んだのが去年・・・校正を終えたのが先日・・・こういうと、なんだか企業に対する僕の興味・関心は、突然、ふってわいたように出てきたと思われるかもしれませんね。確かに「本格的な取り組み」は去年からです。しかし、実は、僕の興味関心の根はとっても深くって、大学院修士課程の頃には、「いつか企業を対象とした教育研究をやってみたい」と言っていました。これ、本当よ。

 誤解を避けるために言っておきますが、僕は「企業を対象にした学習・教育研究」がしたいのであって、「中原は別の学問に目移りしてるぞ」「中原は企業に入りたがっているぞ」とかいうのは、全くの誤解です。「熱しやすい」のは僕の性格ですが、あいにく同時に「冷めにくい」。どんなフィールドをもとにモノを考えたとしても、僕の専門性・興味関心は、次のとおりです。

1) 人が知識を生み出す場、相互に学ぶ様子、教える姿を観察・分析すること
2) 楽しく学べる環境、より効果的に教えることのできる環境を開発すること
3) デザイン・開発した環境の効果を評価すること

研究方針・目的について、こちらをご参照ください

 要するに、どんなフィールドであろうと、それが小学校であろうと、企業であろうと、「学習する」「教育する」という観点から、その場の実践を考察することこそ、僕の専門性です。そして、そこから足を動かすことは断じてありません。

 前置きが長くなりました。

 それでは、下記に、今年のASTDで僕がオモシロイと個人的に感じたワークショップ、講演、展示について、簡潔に概要を紹介致します。単に概要をのせるだけでしたら、ASTD2004のページにいって、プログラムを英訳すればよいということになりますので、かなり僕の私見もはいっています。その分を割り引いてご覧ください。あと、公開できない写真、内容もたくさんありました。これは、また今度、実際にお会いしたときにでもお話し致します。

 なお、全体的な感想としては、非常に満足でした。来年もぜひ行きたいです。あと、eラーニングという言葉も、無事に使われなくなってきているようでよかったと思っています。誤解を避けるためにいっておきますが、「eラーニングという言葉が使われなくなった」だけで、それは、以前よりも、地味ながらに自然に浸透しているような気がします。

 キャッチーな言葉は普及期には人々の関心を集めるために必要なのです。しかし、それが少しずつ浸透し、質が上がってくるにしたがって、マイナスに作用することが多くなるんですね。人々の思考を停止させてしまう言葉になっちゃうんです。ですので、できれば、次の年は、「blended learning」という言葉も使われなくなってほしい、なとひそかに思っています。

 ラーニングはラーニングなんです、ブレンドもくそもあるかい!


Incentive, Motivation and Workplace performance :
Research and best practice
Harold. D. Stolovich

概要
 ストロビッチらは、「インセンティヴ(報酬)は、従業員のパフォーマンスの向上に寄与するか」ということを考察した。
 研究の方法論には、1)先行研究の読み込み、2)先行研究のメタアナリシス、3)米国企業への質問紙調査を採用した。
 その結果、「1. インセンティヴは個人の仕事に対する関心を破壊する」「2. インセンティブとして、得られる結果以上のものを払って終わる」という2つの神話は、間違いであることが明らかになった。「インセンティブに基づくパフォーマンスの改善モデル(Performance Improvement by Incentive Model)」を提唱した。ちなみに、「Performance Improvement」というのは、昨今のASTDで繰り返し主張されている概念である。
 
 
□Harold. D. Stolovichという人
 ・モントリオール大学の名誉教授
 ・現在は、HSA Learning and Solutionsのコンサルタント
 
 
□本研究では下記を探求する
 ・インセンティヴはパフォーマンスの向上に寄与するか?
 ・上記の問いに、先行研究はどう答えているか?
 ・米国企業は、インセンティヴに年間117 billonも費やして
  いるのに、それが「Work(うまくいっているか)」いないか
  わかっていない。
  →だから知る必要があるのだ!
 
 
□研究方法
 1. 先行研究のメタアナリシス
 2. 先行研究の読み込み
 3. インセンティヴを使っている米国組織へのサーベイ調査
 
 
□インセンティブに関する神話
 インセンティヴに関して、よく以下のように言われている
  1. インセンティヴは個人の仕事に対する関心を破壊する
  2. インセンティブとして、得られる結果以上のものを払って終わる
 
  ↓(しかし、上記の研究によって下記のようにわかった)
 
  1. インセンティブは仕事の価値を向上させる
  2. インセンティブは従業員の自信とロイヤリティを向上させる
  3. よくデザインされたインセンティヴシステムは、
   パフォーマンスを向上させる
 
 ↓(そのほか、オモシロイ発見もあったぞ) 
 
 
□発見
 ・インセンティヴの種類でどの程度パフォーマンスが向上
  するか?
   ・個人ベースのインセンティブ(27%の向上)
   ・チームベースのインセンティブ(45%の向上)
 
 ・インセンティブプログラムは、長期がよいか短期がよいか?
  →長期間になればなるほど、パフォーマンスが増す
   ・短期(1週間以下) - 20%向上
   ・中期(6ヶ月程度)- 30%向上
   ・長期(6ヶ月以上)- 44%向上
 
 ・インセンティヴシステムというのは、意外に従業員に知られて
  いないことが多い
  →インセンティブを与える人、与える規準の不明確さ
  →インセンティヴを誰に与えるかの選抜の70%は、根拠なく行
   われている
  →明確な規準が必要

 ・インセンティヴに不満をもつ従業員はほとんどいない。
  従業員の不満は、インセンティブの「実施」にある
 
 
□「インセンティブに基づくパフォーマンスの改善モデル
 (Performance Improvement by Incentive Model)

 ・インセンティブを手段としたパフォーマンス改善の手続きを
  提唱している。
  →インセンティヴシステムをデザインする
 
 
中原の雑感
 メタアナリシスの研究方法論については、非常に詳細に検討を要する。故に、上記の結果のうち、特に細かい数値については、どの程度信頼性を持ち得るデータか、あるいは結論かはわからない。彼らの論文が、ISPI(International Society of Performance Improvement)に載っているとのことであるから、詳しくはそちらを参照されたい。また、アカデミズムでは、この種の研究は、動機付け研究として、非常に多くの知見の蓄積がある。単純に考えれば、筆者らのいう「インセンティヴ」は、外発的な動機付けということになる。しかし、筆者らがどの程度、これらの研究知見を参照しているかは、わからない。

  しかし、昨今、業績主義は多くの企業に導入されているが、その場合、多くの企業では、同時にインセンティヴ・システムも付随して導入している。故に、筆者らが指摘した問題は、非常に重要な社会的意義をもつ。「パフォーマンスを向上させること」を主目的として「インセンティブをデザインする」という視角は、非常に新鮮である。 なお、これに関連するインセンティヴをもとに、Communities of practiceを社内につくりあげることをめざしている、Dow社の事例を参照されたい。


The chief learning office's critical role:
Adding value to the organization
Tamar Elkeles
Jack J. Phillips

概要
 「Chief learning officer」は何をすべきなのか。QUALCOMMのChief learning officerであるTamarが、8つのポイントを述べた。 セッションの冒頭には、「CLOの評価のための質問紙調査」に全員で取り組んだ。カークパトリックの4段階評価モデルに、ROIを組み込むことで有名になったジャック・フィリップスは、QUALCOMMで行われたパフォーマンス改善モデルを紹介する。

 ちなみに、下記の熟語は、今年のASTDの大流行である。

1) Chief learning officer should align performance system with their business strategy.

  cf. align A with B (AとBとを連携させる)

2) Chief learning officer said that learning should be embeded into everyday life.

  cf. embed A into B (AをBに埋めこむ)

 ちなみに、教育学ではこういう熟語をよく使うよ。

3) Teacher should integrate handheld device into their science curriculum.

  cf. embed A into B (AをBに統合する)

 ジャック=フィリップスの著書に関しては、下記のとおり。

Jack Phillips(1994) In Action: Measuring Return on Investment. ASTD,

Jack Phillips(2002) In Action: Performance Analysis and Consulting. ASTD,

Jack Phillips(2002) Handbook of Training Evaluation and Measurement Methods. Butterworth-Heinemann

  
□CLOの役割
 1. 戦略を策定し、それに従った投資レベルを決定すること
 2. 学習とビジネスをAlignすること
 3. 個人 / 組織のパフォーマンスを向上させること
 4. 効率的で効果的な知識伝達システムをデザインすること
 5. 学習をビジネスとしても運営すること
 6. 生産的なパートナーシップをつくりあげること
 7. ビジネスの成長のため、組織のTalentを管理すること
 8. 学習する企業の価値をデモンストレートすること
 
 
□5段階モデルによる評価
 ・5段階モデルに基づいて、パフォーマンス改善のための様々な
  施策をデザインし、評価することが可能
 
 (※上記著書を参照)
 
 
中原の雑感
 「成功したと見なされているChief learning officerが、成功の秘訣を語る」というよくある語りで、あまり説得力がない(とても「説得的」なプレゼンをする女性だったが)。成功を語る際の語り方に問題があるように思う。この種のプレゼンテーションでは、よく「成功の秘訣、ババーンと8つにまとめました、箇条書きにしてみました、これさえやればアンタも素敵なCLO」という感じで発表してしまうのだけれども、まぁ、それもアメリカらしいといえば、アメリカらしいが、どうも「自分の実践(こころみ)の魅力を他者に伝えることに失敗している」ように思えてならない。事実、僕の横に座っていた人は、ディスカッションの際、「お説教はいいから、具体的に何をやって、どんな反応がかえってきたのかを教えて欲しいよ・・・」とつぶやいていた。

 この問題はまた別のところで語ろうと思うが、「企業内の人材育成の試みを語るときのフォーマット(プロトコル)、場のルール」を早期に確立するべきだ、と僕は思っている。教育学では、教師研究の領域にこの種の研究の蓄積があり、現在も発展している。それを行わない限り、いくら「事例」を報告されても、オーディエンスの納得を引き出せないのではないだろうか。

 また、これはやや研究的視点かもしれないが、「Chief learning officerが、どのような仕事に実際に従事しているのか」を観察する研究があってもよいと思う。本当にそうした職が必要ならば、彼らがどのような職務を日々遂行しているのか、について詳細な観察が必要である。

 ちなみに、先ほどのストロビッチの研究でも指摘されているように、「Performance Improvement」という概念が、昨今のASTD関係の学会では主張されている。ASTDの発行するリファレンスにも、「Workplace learning and performance」という中心的概念が提唱されている。この背景には、下記のような主張が存在するように思える。

1) 企業の人材育成担当者は、組織の中に学習を引き起こすだけでは不十分であり、パフォーマンスまで向上させるべきである

2) インストラクショナルデザインは、非常に時間がかかるわりには、役に立たないことが多い。

 しかし、先のASTDのリファレンスしかり、Performance inprovementのための方法はというと、いわゆる「ニーズ分析」「タスク分析」からはじまって評価で終わる「Instructional design」のモデルとほぼ同じである。 「Performance Improvement」は、上記の批判に答えるために、敢えて従来のモデルを下敷きにして「つくられた」されたものと考える。しかし、そのプロセスに本質的な違いはない。 「学習」と「パフォーマンス」の関係には、組織文化、学習者の性格など、様々な媒介変数が関与する。それなのに、このモデルでは、媒介変数についてはすべてブラックボックスにしている。
 インストラクショナルデザインのモデルを援用し、ラーニングをパフォーマンスに置き換えるだけでは、1)と2)の批判をかわすことには、どうも失敗しているようである。 単純に「学習」を「パフォーマンス」に言い換えただけで、パフォーマンスが向上するわけがない。


Managers not MBAs
Henry Minzberg

概要
 マネージャはクラスルームでつくられない。人が「マネージャになる」のは、現場である。これまでのMBA教育は間違った人材を輩出し、まちがったマネジメント概念を広めてきた。

 第一世代のMBA教育は、ハーバード流の「ケーススタディと講義」である。次にでてきたのは、Action LearningやWork Out(ワークアウト)に代表される「Learning from created experience」というコンセプトをもった教育である。これは第二世代のMBA教育とも呼べる。それに対して、筆者らは「Natural learning」を提唱したい。

 マネージャは、クラスルームで行うべきことは何か? それは他者をリスペクトし、自分の経験を他者に語り、省察(reflection)しあうことである。マギル大学のMBA教育「Natural learning」を中核にした教育は、このコンセプトのもとに開発されている。それに応じて、クラスルームのデザインまで変更した。

 なお、ミンツバーグの主張する省察(reflection)は、教育学では1980年代の教師教育に導入されている。「省察」を中核とした様々な教師トレーニングプログラムが既に開発されている。これとの関連も、非常に興味深い。また、国内のMBA大学院では、神戸大学が「プロジェクト方式」による教育を提供している。

 ちなみに、本講演は、ミンツバーグの下記の著書による。彼の講演は、教育の観点からとてもオモシロかった。ほんで、出張中にも関わらず、思わず「漬け物石」のような重さの本を買ってしまい、さらにサインまでもらってしまった。あーあ、これをもって、これからNYとは・・・でも、面白かったなぁ。

Mintzberg, H.(2004) Managers Not Mbas: A Hard Look at the Soft Practice of Managing and Management Development. Berrett-Koehler publishers.

  

□概要
 ・マネージャはクラスルームで「つくられる」わけではない
 ・マネージャは現場で学ぶ、つくられる
  →You can't create but improve manager
  →Manageはscienceではない、むしろcraftである
   →すべてはexperienceに依存している
 ・クラスルームでできることは何か?
  →マネージャが相互のリスペクトに基づき
   自らの経験を省察(reflection)するべきである
 ・これを敷衍した教育実践をマギル大学において実践している
 
 
□MBA教育の歴史と筆者の主張する教育
 ・第一世代 - 「ケーススタディと講義」・・・ハーバード
  →人の事例で考える≒It's too superficial one!
 ・第二世代 - 「アクションラーニング」「ワークアウト」
  →「Learning from created experience」
  →「Boot camp」
   →よくできたプログラムでは確かに効果があるが、
    以下の弱点がある
     1. 少ししか学べない
     2. マネージャは忙しい
 ・第三世代(筆者が主張しているもの) - 「Natural learning」
   →下記を重視する
     1. Reflection
     2. 自分のissueを対象
     3. Boot campではなく、ゆっくり考える
     4. Use work not make work
 
 
□ミンツバーグの行うマネージャ教育(http://www.impm.org
 ・マネージャはPracticeing manageを行う
  →職にとどまりながら学ぶ
  →実践をもとにした経験をクラスルームの中に持ち込めるように
 ・クラスルームでは、Reflectionする
  →これまでのMBA教育では、Finance, Marketing, Accounting
   などという風に、ビジネスファンクションの集合がマネージャ
   のもつ知識とされていた
 ・上記を行うため、クラスルームのデザインも変更した
  →cf. ハーバードとマギル大学のクラスルームの違い
 ・教師(教授)には以下のことを10箇条を言い続けている
  →1.2.3. Don't pack it
  →7.8.9. Liten!, Liten!, Liten!
 ・費用は一人あたり45000$
  →下記の理由により安いものだ
   ・「Bad managerによってもたらせる被害は甚大」
   ・松下ではMBAを取得した人の9%はやめる、このプログラムは
    職にとどまりながら学ぶ。故に離職率はゼロである
 
 
中原の雑感
 「Natural learning」の概念には全く同意できないものの、ミンツバーグの主張には、とても納得させられる。
 彼は「そもそもマネージャとは、何を機会に、学んでいくのか」「その学びを支援するために、どういう教え方が必要で、どのような環境を用意すべきか」ということに焦点をあてている。非常に教育的な思考と言える。
 周知のとおり、「Reflection(省察)」はMITの教授であったドナルド=ショーンによって専門家の思考形式として主張され、1980年代後半から90年代前半にかけて教育学に輸入された。
 専門家とは、法則や公式などの知識を記憶し、状況にあてはめるのではなく、状況と対話してそのつどそのつど振る舞い、同時に自らの実践を反省する存在をいう。
 国内のMBA教育を行っている大学で有名な大学には、一橋大学、慶應大学などがあるが、そのひとつでもある神戸大学では、ケーススタディとは一線を画する独自の教育プログラム「プロジェクト方式」を採用している。

ASTD2004
   
  

  

ミンツバーグの講演の様子。マネージャの教育の中核には、「Reflection」があるのだと説明している。

  
ASTD2004
   
  

  

この比較はとっても面白かった。左の写真は、ハーバードのビジネススクールのパンフレットらしい。U字型の机に学生がすわり、カリスマ化した教授は常に指を「天」に向けている。まさに「ビジネス・グル」。それにたいして、マギル大学のプログラムで使用されている教室は、右の写真みたいな感じ。線になっているところには、黒板があるのだそうだ。

  
ASTD2004
   
  

  

やっちゃいました。つい、サインをもらってしまった・・・。この本、まだパラパラとしか眺めてはいないが、MBA教育の歴史からはじまって、それがどんな問題を抱えて、人材育成にどのような失敗をもたらしてきたのかを前半で考察しています。後半では、ミンツバーグが実践するMBA教育の学習環境デザインについて書いてありました。

  

Building a premier corporate university
Frank J. Anderson, Jr.
Defence Acquisition University

概要
 国防省の企業内大学である「Defence Acquisition University(DAU)」の概要を伝える。DAUは、1998年に創立された。1) Knowledge sharing(Communities of practice)、2) Continuous learning(e-learning)、Performance supportなどの各種事業を行っている。本事例は、ASTD Best Award、Training Top 100 2003、Corporate University Xchange Excelleng Awards - Best pracice 2003など、各賞を受賞している。
 
 
□DAUの概要
 ・Department of defenceの下部組織
 ・アメリカ本国をはじめ全世界のアメリカ軍に教育を提供している
 
 Defence Acquisition University
 http://www.dau.mit/
 
□DAU設立のプロセス
 1. Leadership Alignment
  →ブッシュ大統領の宣言
  →ラムズフェルドの生命
 2. 学習者の把握
  →陸軍、海軍、空軍、学習対象者を科目ごとに把握
 
 3. 学習戦略の策定 ≒ サービスの決定
  →下記のようにサービスを確定した
   1. Knowledge Sharining
     ・Acquisition community connection
     ・Community of pracice
   2. Continuous learning
   3. Traning courses
   4. Performance support
 
 
□現在の状況
 ・Training関係の各賞を受賞
 ・受講者の70%がe-learningで受講
  →そのほかには、衛星、オンキャンパスなどがある
 ・利用統計
   1. Knowledge Sharining
     ・Acquisition community connection
     ・1週間に18000人の利用
   2. Continuous learning
     ・190578のアクセス
     ・155253人のユーザ
   3. Traning courses
     ・58176回のコース修了
     ・40465回のインターネットによるコース受講
   4. Performance support
 
 
中原の雑感
 DAUは、いわゆる「コーポレートユニバーシティ」「Blended learning」「Communities of practice」の先進事例として昨今注目をあびている。
 講演にたったフランク=アンダーソンは、発表中、「Our boss has ownership, initiative and commitment」と繰り返して述べていた。このことからも、本事例は、いかにも軍隊らしい強力なトップダウンな構築された学習インフラストラクチャと言えるだろう。
 この学習インフラストラクチャは、いわゆるKnowledge Managementから、Training Courseの配信、およびPerformance Supportまでを含む統合された教育組織である。教育組織を一元化する強みは、データの集合できることと、統一したカリキュラムを学習者に提供できることにある。日本でも、同様の強みを発揮することを目的にいくつかのコーポレートユニバーシティが構築されている。筆者らが取材させていただいた「FUJITSUユニバーシティ」もそのひとつであろう。


High performance learning organization:
The future of corporate universities
Jeanne Meister & Tom Kraack

概要
 アクセンチュアが提案する「High Performance Learning Organization(HPLO)」の概念を説明し、HPLOに関する質問紙調査の結果を解説する。HPLOを行う組織には、7つの共通する特徴があると指摘している。また、HPLOの概念を拡張し、顧客教育が行われている業界、およびその意義について指摘する。 最後に、学習をトレーニング・クラスルームに限定した考え方に意義をとなえる。学習は、ナレッジマネジメント、コミュニティ・オブ・プラクティスなど、社内の様々なリソースの中に場所に埋めこまれているべきである、と述べている。
 講演者は、「コーポレートユニバーシティ(Corporate University)」で有名なJeanne Meister。今回の発表では、コーポレートユニバーシティをさらに拡大し、HPLOという概念を導入している。彼女は、数年前、アクセンチュア・ラーニングのVice Presidentに就任し、AVAYA Universityなど、先進的なコーポレートユニバーシティを生み出している。
 
 
□High Performance Learning Organization調査
 ・285 organizationに対するオンラインサーベイ
  →回答企業の24%はFortune500企業
 
   ↓(HPLOってなんだろう)
 
 ・アクセンチュアは、下記をHPLOの構成要素として抽出した
   1. Blended devivery approach
     →F2Fでの学習に、eラーニングを統合した学習
   2. Leadership training
     →リーダーシップ(マネージャ教育)
   3. Competance development
     →コンピテンシーによるビジネス戦略との融合
   4. Reach the value chain
   5. Integrated learning into other process
     →学習を他のビジネスの活動に埋めこむこと
   6. Alignment
     →ビジネス戦略が学習と連携しているか
   7. Measurement
     →測定を行っていること

 ・285企業のうち、23企業はHPLOとして認められる状態であった

   ↓(ところで、最近、どんな事に各社は興味をもっているか?)

 ・2007年までに御社で達成したい目標は何ですか?
  1. Leadership development(63%)
  2. Updateing e-learning infrastructure(41%)
  3. Enterprise performance management(38%)
 
 
□顧客教育
 ・顧客教育に熱心な業界
  1. ヘルスケア
  2. ファイナンス
  3. ハイテク=コミュニケーション
  3. トランスポーテーション、建築
 
   ↓(どんなメリットがあるか)

 ・顧客教育のメリット
  1. 顧客満足度を向上させることができる
  2. 顧客のロイヤリティを向上させることができる
  3. 競争優位につながる
  4. 生産拡大
  5. 収益の拡大
 
 
□学習
 ・学習は従業員たちの日々の生活に埋めこまれている
  1. アニュアル・リーディング
  2. ナレッジマネジメント
  3. オン・ザ・ジョブトレーニング
  4. ワークプレイスポータル
  5. コミュニティ・オブ・プラクティス
  →クラスルームだけで起こるモノと思ってはいけない
  →それぞれの構成要素をバラバラに考えてもいけない
  →学習という視点から見れば、すべてはつながっている


中原の雑感
 通常、「ナレッジマネジメント」「コミュニティ・オブ・プラクティス」「企業内ポータル」などは、別々の事柄としてとらえ、それぞれにシステムを実装しなければならないと考える人が多い。それが証拠に、書店にいけば、それぞれに専門書が出版されており、それぞれ全く違うモノであるかのように論じられている。しかし、私見では、この認識は激しく間違っている。成功しているナレッジマネジメントでは、知識の創造とアーカイヴ化の部分に、コミュニティ・オブ・プラクティスが生まれている。そして、そこで生まれた知識は、「企業内ポータル」というシステムで提供されている。人は、そうした場ではじめてアタリマエに学べるのである。
 学習をキーワードにそれぞれは「つながって」おり、そうした中で活動することで学べるとする彼女の主張は、アタリマエながらも非常に新しい。


Recognizing people developers through leadership development
Steve Constantin, The Dow chemical Company

概要
 Dow chemical Companyにおける2つの取り組み「Genesis Award」と「Leadership institute」について紹介するのことが、本セッションの目的である。
 第一に「Genesis Award」とは、「他者に新しい知識を伝える」「新しい領域の最初の学習者となる」など、「開発」に自ら取り組んだ従業員に対して、賞を与える制度である。そのことにより、1)従業員の生産性が向上する、2)受章者同士のインタラクションがまし、コミュニティ・オブ・プラクティスが生まれた。
 次に、太平洋エリアにリーダーシップを発揮できるマネジャーが不足したことから、Leadership Instituteとよばれる仮想の組織(教育プログラム)を開発した。現在までに40名の学習者がここを卒業した。そのことにより、卒業生同士のコミュニティ・オブ・プラクティスが生まれるなど、予想しない結果が起こった。
 いずれも、意図せざる結果として「コミュニティ・オブ・プラクティス」が生まれている点が非常にオモシロイ。
 
 
□DoWという会社
 ・46000名の従業員、他国性企業
 ・年間の売り上げは33 billion
 ・化学、プラスチック、農業関係の製品


□Genesis Award Program
 ・「開発」に自ら取り組んだ授業員を表彰
  →例えば
   1. 他者に新しい知識を伝える
   2. 新しい領域の最初の学習者となる
 ・この賞は16ヵ国で実施
 ・インパクトのある表彰システムを構築したかった
  →1994年から実施
 ・5000人に1人の従業員が毎年表彰される
  →2002年は17名

  ↓(どのようにセレクションを行うか)

□「Genesis Award」選考の過程
 ・ノミネーション(9月 - 10月)
   →360度評価によるノミネーション
 ・セレクション(1月 - 4月)
   →規準に基づきコミッティがセレクション
   →インタビューなどを行う
 ・表彰
  →本社でCEOによって表彰
 
 ↓(効果は・・・)

□注目すべき効果
 ・受章者たちを中心にしたコミュニティ
   →Formation of internal talent networkが生まれた
   →情報交換、コミュニケーションがうまれる
   →重要なものは、アーカイブ化している


中原の雑感
 DoW社で生まれたコミュニティは、「コミュニティをつくろう」と社員に呼びかけて生まれたのではない。あくまで、インパクトのある表彰システムがきっかけになって、Talent(Wengerの言葉でいうならばExpertise)をもった人たちがつながりはじめ、それが「コミュニティとして機能するようになった」ところがポイントである。
 通常、コミュニティ・オブ・プラクティスを「つくろう」とする人は、コミュニティを「実体化」あるいは「物象化」して開発にあたるが、それではなかなかうまくいかないことが多い。


Communities of practice(CoPs):
Leveraging your organizaion's tacit knowledge
Debra Price-ellingstad(Dept. of education, U.S.)
Patricia Adelstein(Dept. of education, U.S.)

概要
 アメリカの連邦政府、教育省の特殊教育部門で試行されたCommunities of practiceを報告する。「どうやって障害のある子どもを教育したらよいだろうか」「一般の子どもとどのようにインクルージョンを果たせばよいだろうか」など、様々な教育的課題に対して、ダイアローグを続ける。
 一般に、CoPsが試行されているのは、民間企業であることが多い。本事例は、連邦政府で行われているという点において、非常に希有である。


□CoPsとは
 ・重要なのは下記の3点
  1. Domain(What)
    →何を、全員でディスカッションするべきか?
    →何が全員でPassionをもって共有するべき話題か?
  2. Community(Who)
    →誰が学ぶ必要があるのか?
  3. Practice(How)
    →どのようにしてそれを行うか?


□OSEP(Office of special education program)の挑戦
 ・目的
   1. 障害をもった子どもに対する教育を改善したい
   2. 研究成果を実践に反映させたい
   →「障害児に対する法律」の実行者=Teaching Assistant
     たちのTacit Knowledgeを、どのように支援できるか?
 ・背景
   5年間のグラントがでて、テクノロジースタッフを確保


□OSEPのCoPs
 ・メンバー
   →6コミュニティ(1コミュニティ20名から50名)
   →特殊教育部門長を含む
     →リーダーシップをきってくれる
     →CoPs的な活動に対して理解がある


中原の雑感
 本研究は「コミュニティ」を「物象化」・「実体化」し、それをテクノロジーで支援するという場合にたどる研究のプロセスを、そのまま忠実に再現している。そこでどのような出来事が生まれ、メンバーにどんなメリットが生まれたのかはわからなかったことが残念。


Developing future leders at hyundai Motor Company
through blended learning
Hyundai Motor Company

概要
 韓国に本社をかまえる「現代自動車」は、従業員62000人をかかえ、年間20.8billion $を売り上げる巨大企業。現代自動車の目標は、2010年までに世界で5番目以内の自動車メーカになることにある。そこで、HR、ファイナンス、マーケティング、オペレーションマネジメント、テクノロジカルマネジメントの5領域に次世代のリーダを養成することにした。
 この次世代リーダー教育は、ブレンド・ラーニングの手法を用いて行われた。その結果、コストを400000$削減しつつも、カリキュラムの量を30%向上させ、90%以上の学習者満足度を達成した。
 なお本事例は、2002年の結果をフィーマティブ・エバリューエーションした結果から生まれた。


□次世代リーダー教育のプラン
 ・5年間で900名のリーダーを養成
 ・グループ企業含め
 ・選考の基準は下記のとおり
   1. 仕事の経験
   2. パフォーマンス
   3. パイオニア・スピリット
   4. 社会的関係


□実は2002年には完全オフキャンパスで実施していた
 ・115名が参加
 ・1年間のプログラム
 ・地元の大学を活用
 ・学習の形態は、講義とディスカッション
 ・結果(学習者からのフィードバック)
  1. 基礎的スキルのトレーニングが必要
  2. 仕事の勉強の両立がムズカシイ
  3. 仕事を抜けて授業に出席するのは不可能
  4. よりRealな場での経験を重視した方がよいのでは?

  ↓(そこで2003年の実施にからみ、プログラムを前面改訂)
  ↓(HMC Group MBA Program 2003と命名し、名誉感を演出)

□HRC Group MBA prog. 2003
 ・ブレンディッドラーニングで実施
   →最初の3ヶ月はオンラインで学習(100時間)
   →ビジネスの基礎
  ・最後の7ヶ月は下記の活動に従事(300時間)
   1. ベンチマーキングトリップ
   2. アクションラーニング

 ↓(気になる結果は...)

□結果
 ・達成率
  →オンライン 98%
  →オフライン 94%
 ・満足度
  →オンライン 4.1/5.0
  →オフライン 4.5/5.0
 ・カリキュラム量 30%増
 ・コスト削減 400000$の削減


中原の雑感
 「オンラインでの学習は、オフキャンパスでの学習の事前学習に最適」というコンセプトのもと、実行された非常によい事例。2002年の失敗を、振り返り、新しい研修スタイルを「フォーム(Form)」しているところが参考になる。


Drilling to the core competencies and mining for emplyee learning
Mary Ann Bopp(IBM)
Sharon Arad(IBM)

概要
 ビジネス戦略と人事戦略の乖離を克服するため、次第に普及し始めているコンピテンシーマネジメント。
 本事例では、IBMが自社のコンピテンシーモデルをどのように作成し、どう評価を行ったかを解説している。またつくったコンピテンシーをどのように使うかについても言及している。非常にスタンダードでありながら、なかなかできない好事例。
 特に参考になるのは、多国籍企業におけるコンピテンシーのつくりかた。文化の差をなるべく少なくし、ユニバーサルに活用されるコンピテンシーモデルをつくるにはどうしたらよいか。世界各国に従業員をかかえるIBMならではの挑戦である。


□なぜ、今、コンピテンシーなのか?
 ・ビジネス戦略と人材育成の乖離
 ・IBMにとって何が成功か、不透明な状況にあること
 ・クラスルームのトレーニングに注目が集まっていること
 ・コースがカリキュラムになっておらず、バラバラ

 ↓(IBMのコンピテンシーモデルをつくろう)


□コンピテンシーモデルの作り方
 1. 他社のモデルをレビューする
 2. エキスパート(好業績者)のフォーカスグループを組織
   ・10ヵ国で4日間、30回のミーティング
   ・250名のトップ業績者、マネージャを対象
   ・重要なコンピテンシーを同定してもらう
   ・リストにしてもらう
     →具体的な行動を対応させる
 3. エキスパート(好業績者)に電話インタビュー
   ・7ヵ国、19人の従業員
 4. グローバルのコンピテンシーモデルのたたき台をつくる
   ・しかし、これをそのままは使えない
    →異文化のカベがある
    →高文脈文化の国(日本)と低文脈文化の国(米国)では
     商習慣が全く異なる
 5. たたき台を全世界にとりあえず配布して、妥当性を検証
   ・11カ国語に翻訳
   ・28ヵ国に送付
   ・45000人におくった(56%から返事がかえってくる)
   ・満足度を調べる
   ・結果は写真のとおり
 6. ファイナライズ

 ↓(ようやくコンピテンシーモデルができたので・・・)

□現在、様々な方法で活用中
 1. 自己学習の際に利用
 2. マネージャ、メンター、コーチ
 3. 人材開発ガイド(イントラのWebアプリケーション)
   ・Web delivery component
   ・Planing aid component
    →自分に重要なコンピテンシーをIdentifyしてくれる
    →Learning pathをアドバイスしてくれる

追伸
 ちなみに、コンピテンシーには様々な定義がある。が、ぶっちゃけ簡単に言ってしまえば、「能力」のことだ、もちろん括弧付きの。コンピテンシーマネジメントの実際は、まず「高い業績をだしている人が、どんな能力をもっているか」を調べることからはじまる。ほんでもって、能力リストをつくる。で、その能力リストとビジネス戦略をてらしあわせて、人材を配置したり、採用したりするってことです。
 ちなみに、一応、状況的認知アプローチの知見をかじったことのある者としては、こうした普遍的な「能力」など存在しないと思っているし、このマネジメント手法の有効性もあまり信用はしていない。だからさっきは「括弧付きの」と述べたのです。というよりは、むしろ、ビジネスで人材を語る際の共通言語として機能するくらいものだと思う。このことは、「はじめての人材育成:ワークプレイス・ラーニング・デザイン入門」の中で述べてさせていただきました。


Creating enterprise-wide transformational learning initiatives
that drive strategic business priorities
Drew Morton(IBM)

概要
 本事例は、IBM社のマネジメント教育の概要を述べたものである。IBM社のマネジメント教育といえば、Blendedアプローチを採用した教材として非常に有名である。今後は、これをさらに発展させ、マネージャが使用するポータルサイトを構築し、そこに1)カレンダー等の仕事関係のツール、2)マネージャ教育のツール、3)部下管理のツールなどを実装していくとのことであった。

 本事例は、写真を用いて説明するのが適当だが、それはWebでは公開しない。ゆえに、省略する。


Exploring connected leadership:
Frameworks and tools for developing organizational capacity
Patricia M. G. O'connor (CCL)
Christopher Ernst (CCL)

概要
 CCL(Center for creative leadership)は、リーダーシップを育成する非営利組織として、非常に有名。その名声は、ビジネススクールの開催するExecutive educationを凌駕するほどである。
 このセッションでは、彼らが行っているワークショップの規定をなすリーダーシップの考え方を説明する。彼らは、Connected leadershipとよばれる概念を提唱している。この概念は、非常に深い。
 僕の言葉で説明するならば、リーダーシップとは個人の属性や専門性に依存するのではない。リーダーシップが発揮される(可視化)される状況には、他者との社会的関係がある。つまり、リーダーシップは個人が他者と「Connectedな状況」に埋めこまれているのであり、その中で達成され、可視化されるということになる。
 セッションの途中では、Visual explorerとよばれるリーダーシップ開発の手続きを紹介した。全員でVisual explorerを体験した。


□従来のリーダーシップ概念
 ・リーダーシップ=個人の属性と思われている
  →権威や専門性は個人にあると思われている
  ↓(だから)
 ・通常、リーダーシップは下記のように開発される
  1. チャレンジを見つける
  2. 個人がリーダーの専門性をつける
  3. よく知られたソリューション
  4. 実装する

 ↓(これに対してCCLではConnected leadershipを提唱)

□Connected leadershipを提唱
 ・リーダーシップとは組織のメンバーによる集合的な活動
  (Collective activity)
 ・何をするときに、リーダーシップは発揮されるか?
   ↓(みんなで下記を行うとき)
  1. Setting direction
    ・どこに自分たちは向かい、なぜ、何をなそうとしているか
     ...を考えるとき
  2. Creating alignment
    ・どのように自分たちの状況を理解し、共有すべきか?
    ・どのように自分たちの活動が調整可能か?
     ...を考えるとき
  3. Building commitment
    ・どのように一緒にいられるか?
    ・どのようにしたら一緒に働けるか?
    ・何が協力関係をよりよいものとするか?
     ...を考えるとき

 ↓どうやって上記を開発するか?

□開発法
 1. チャレンジを発見する
 2. リーダーシップは、わかちもたれた専門性によって達成される
 3. 意味をシェアし、納得してもらう
 4. ナビゲートする
  
 ・専門性は複数のリーダーたちの関与によって開発される

 ↓(具体的な方法は? たとえば)
  
□Visual explorer
 ・Discovery excercise & the star model

ASTD2004
   
  

  

Visual exprolerでは、まずね、自分の会社の経営課題を述べるんです。で、そのあとで、こういう絵を各自渡されます。で、その会社の経営課題を、この絵をもとに、説明する。次に、それを聞いていた人に、絵をわたして別の解釈を述べてもらうのですね。で、最後に自分でいろんな人たちから聞いた解釈をふまえて、再解釈をするといった感じです。これがね、Star modelという名前で呼ばれている、手続きです。

  

エキスポで僕が心惹かれたもの

エキスポ点描
   
  

  

LEGOのSerious Playがありました。要するに、Legoブロックを使ったマネージャ教育です。左の写真は、1人に4つのアタマがついている。右の写真は、いわゆる知識の伝達モデルですね。

  

おまけ

おすすめホテル
   
  

  

あのね、僕の今回とまったホテル、これはおすすめです。 ワシントンで、わずか95ドルです。信じられません。すばらしい。 きれいだし、部屋は広いし、従業員教育は行き届いているし、いうことは何もありません。夕方6時には、シャンパンのサービスもあります。
 
立地条件がまた良いのです。徒歩3分圏内に、なんと、スターバックス、リカーショップ、ホールフーズ(非常に有名な有機野菜のスーパー)、サブウェイなどがあります。

ちょっと内装は変わっているけど、これだけ安くて満足できるホテルは、久しぶりだったので、つい紹介してしまいました。
  
---

Hotel Helix
1430 Rhode island Ave., NW
Washington DC 20005
202-462-9001
http://www.hotelhelix.com/

  

2004/05/27 どこが無罪か

 今日、昼食にあるレストランに入ったら、デザートメニューの中のカテゴリーの中に「Guilty Free Dessert(罪悪感のないデザート)」というものを発見した。

 そのカテゴリーに並んでいたのは、フレッシュなフルーツを使ったデザートが多い。要するに、いわゆるアメリカちっくな「クリームどっぽり、チョコレートだらけ、カロリーこの上なし系のもの」ではなく、いつ食べても太らないよー的なデザートということなんだろう。

 国民の60%が肥満と言われているこの国で、ダイエットはみんな共通の願いである。でも、ダイエットはしていても、やはりデザートは食べたい。でも、デザートをたべてしまうと、「罪悪感(Guilty)」に苛まれてしまう。そんな乙女チックなココロを満たしてくれるのが、「Guilty Free」である。

 ちなみに、いつもはデザートなど食べない僕ではあるが、ちょっと試しに注文をしてみた。5分後、やってきたデザートを見てびっくり。たしかに、フルーツが満載ではある。しかし、それと一緒に「生クリームとあえたヨーグルト」がついてきている。どうやら、これをフルーツの上に、かけるらしい。

 しかし、このヨーグルトクリームの甘いこと、甘いこと! 思わず、「オマエはどこのどいつの乳からできたんだ!」と投げ出したくなってしまう。

 どこが無罪やねん! これでは、せっかくの「Guilty Free」が、「Guiltyたっぷり」である。でも、もちろん、そんなことをアメリカ人は気にするわけがない。遠くの高校生らしき2人組をみると、おいしそうに「Guiltyたっぷりフルーツ」を食べている。

 いいんだ、いいんだ、別にそれで、この国は・・・。
 細かいことを気にしてどうする、アメリカで。


2004/05/24 ASTD2004

 ワシントンDCで開催されているASTD2004に参加している。ASTDは「企業の中の人材育成、Human Resource Development」に焦点をしぼった学会。

 今年のASTDは、60周年の記念大会。ということで、何だか学会全体にお祭りの雰囲気が漂っている。

 参加者は、圧倒的にアメリカ人が多い。が、アジア系では、中国、台湾、韓国からの参加も目立つ。何人かの人たちと話したけれど、「数年前から参加しはじめた」といっていた。

 日本からの参加はあまり多くはないように思える。そうでもないか・・・時々、日本語が聞こえるからね。

 でも、そうそう「聞き分ける」なんてことをしなくても、見ただけで日本人を確実に見分けるひとつの方法があります。それはね、「レクチャーの最中に寝るかどうか」です。別に責める気持ちは毛頭ありません。時差ボケもあるだろうし、「他人が寝るかどうか」なんて、僕にはどうでもよい。

 でもね、こちらにきて、わかったことなのですが、日本人ほど「どこでも寝られる人種はいない」ように思います。電車の中であろうと、講義の最中であろうと、コンサートの演奏中であろうと、日本人は眠れますね。電車の中なんて、「歯医者さん状態」で、口開けて寝てる人いるよね、うちのカミサンみたいに。

 だけど、他の国の人たちはそうでもないみたいです。特にアメリカ人とかは、なかなか寝ないんです。体質的なものなのか、文化的なものなのかはわからないんですが。たとえば、電車の中で寝るなんて、危険すぎるっていう社会的な理由もあるような気がするけど。

 というわけでした。

 朝早くからのセッションもあり、眠たいのもあるんだけど、何とか頑張ろうと思います。


2004/05/23 原点 & お願い

 自らも3ヶ月渡米するため、自宅を掃除していたカミサンが、あるものを見つけた。僕が大学院の頃、大阪の小野原に住んでいた頃の写真である。

原点
   
  

  

本棚って、ふつう「本をたてる」っていいますよね。違うんだな、「本を差し込む」。右は、若い頃の僕。まだタバコを吸っておる。

  

 僕の部屋の広さはわずか4畳半。フトンは万年床。そこに寝る以外、部屋の中で何をすることのできない部屋だった。

 コンロは電気。ちなみに、この電気コンロは、パワーがあまりに弱く、お湯を沸騰させることのできない「冗談」みたいなシロモノで、おかげで、この部屋で一度も料理らしいものを作れたことがない。

 テレビは壊れて数チャンネルしか映らない。ビデオは再生はできるが、録画はできない。カーテンは上の方が破れていたけど、むりやり紐でしばって、使い続ける有様。

 本の量だけは人並み以上。しかし、4畳半の部屋に収納するスペースなどあるわけもなく。多くは研究室に持って行ったが、それでも収納できず。自宅に背の高い本棚を買って、その本棚のあらゆる「隙間」に本を「差し込んで」いた。読みたい本をすぐに探すことすらできなかった。

 今から考えれば、この頃の僕は、一生で一番ハングリーだった気がする。大学受験の頃よりも、大学院生の頃の僕は、僕は勉強したのではないだろうか。いろいろ大変な時期で、ホントウにお金もなかったし、このままやっていて、自分がどうなるかもわからなかったけど、いちいち悩んでいても前に進めなかったら、とにかく研究するしかなかった。

 ここが僕の原点である。
 忘れることはない。

---

お願い.

 今年の日本教育工学会「若手の飲み会」開催のため、望月君@神戸大学(プロジェクトリーダー)らが忙しい中(今、彼は死ぬほど忙しい)、会場を探してくれている。今日は、目黒あたりの会場を自らの足で探しに行ったそうだ・・・たしか前回は新宿だった・・・。ちなみに、全くのボランティアワークである。

若手の飲み会の会場探しに奔走してくれている人たち
(Project jset2004)
  
望月さん@神戸大学(プロジェクトリーダー)
北澤さん@東京工業大学
山田さん@東京工業大学
北村さん@東京海上HRA
松河さん@大阪大学
酒井さん@東京大学

 100名が収容できる東京の会場なんて、そうあるわけじゃない。手伝えないことを申し訳なく思っている。そして、本当に感謝している、ありがとう。

 今年も皆さんのご参加をお待ちしております。

 そして、この場を借りてお願いがあります。

 会場への移動や広報や会計など、是非、望月君たちを手伝っていただけませんでしょうか。100名の東京での移動、会計作業には、もう少し手伝っていただける方が必要です。できれば、全国各大学から、そういう人たちがでてきてくれると、連絡がスムーズに行きます。こちらからご連絡させていただくこともあるかもしれませんが。

 どうぞ、ご協力のほど、よろしくお願い致します!
 もし、ご協力頂ける方は、中原までご連絡いただければ幸いです。

 このメンバーで今年で3年目になる、この会が長く続くように。


2004/05/22 ブライアン

 今日、ブライアンとあった。

 彼は、今年、MITの大学院を卒業し、某外資系銀行の日本支店で働く予定である。これまで、ランゲージパートナーとして、彼が僕に英語を教え、僕が日本語を彼に教えていた。

 今日は最終日である。日本の地図、レストラン情報、不動産情報など、ありったけのことをWebで調べて教えてあげた。彼がその情報を使うかどうかはわからないが、一応、できるかぎりのことはしようと思った。ブライアンと別れ際、「また日本で会おう」と約束した。

 彼と別れ、MIT9号館のオフィスに戻る最中、少し考えた。

「もしかしたら、留学前の僕が彼とあっていたら、結構な時間をかけて、彼のために情報を調べてあげることはしなかったかもしれないなぁ」

 言い訳がましいかも知れないが、決して意地悪だったわけじゃない。無関心だったわけでもない。もちろん、忙しいというのも理由としてある。しかし、忙しいといっても、たかが2時間程度。眠る時間を少しだけさけばできないことじゃない。しかし、たとえそうだとしても、おそらく「留学前の僕」は、それをしなかっただろうと思う。否、確実にしなかった。

 こう書いてしまえば、とても月並みなのだけれども、こちらにきて、僕は、「異国で暮らす人の気持ち」が少しだけわかるようになったのかもしれない。

 ブライアンが「ロスト・イン・トランスレーションの国」で、これから抱えるであろう不安や葛藤、そして戸惑い - 僕自身もこの数ヶ月で体験したこれらの感情 - が、何となく予想がつくのである。

 今の彼は日本で暮らすことを夢見ている。しかし、「彼が知っている日本」と「彼が暮らす日本」は大きくかけ離れていることが多い。そうしたギャップを完全に避けることはムズカシイにしても、若い彼には(僕よりもずっと若い)、日本をエンジョイして欲しい、と思った。

 僕の今回の留学を実現してくれたのは、日米両政府が運営している「フルブライト奨学金」である。毎年5月の公募に自ら応募して、このチャンスを与えられた(もちろん、現在の職場もこの重要な時期にチャンスを与えてくれた。コスト意識に敏感になれば、僕に支払われている給料、および、人一人が抜け、みんなでその分を穴埋めしなければならないことで発生する機会損失は莫大な費用になる・・・)。考えてみれば、「海外で学ぶこと / 研究すること」は、僕の長年の夢であった。先日、母から、「あなたは高校のときから、ぬふぉふぉ、オレは将来MITにいくのだ!」とことあるごとに言っていたわよ、と教えられた。僕自身としては、忘れていたことだったが、そんなことを言っていたのかも知れないと思った。

 ちなみに、「フルブライト奨学金」の創設に尽力した、「J. ウイリアム・フルブライト上院議員」は、こんなことを言っている。

教育交流は、「国家を人々に変える」、すなわち国際関係を人間的にすることができます。それは他のどんなコミュニケーション手段もできないことです。私は教育交流が人々の間に必ず友好的な感情をもたらすものだとは思いませんし、またそれを目的とすべきだとは思いません。ただ、人間として共通の感情を喚起できること、言いかえれば、他の国々に自分達が恐れる教条があると理解するのではなく、自分達の国で育った人々と同じように喜びや悲しみ、残酷さや優しさを共感できる人々が住んでいる、ということが実感できれば充分だと考えます。

(下記Webサイトから引用)

J. ウイリアム・フルブライト上院議員のメッセージ
http://www.fulbright.jp/j1/menu.html

日米教育委員会
http://www.fulbright.jp/

フルブライト交流計画について
http://www.fulbright.jp/j3/menu.html

 未だに英語も満足に話せず、戸惑いまじりの生活をしている僕が言うのは何だが、上記のフルブライト議員の言いたいことが、今の僕には、少なくとも以前よりは、わかるようになってきた気がする。

 フルブライト奨学金で渡米した人は、「フルブライター」とよばれる。フルブライターには、「日米間の相互理解と交流」を促進することが、生涯期待されているという。

 僕には「フルブライター」としての資格があるだろうか。

 否、それは、今後の僕の振る舞いにかかっている。
 この国で僕に優しく接してくれている人々と同じように、僕も振る舞える人になりたい。日本にくる外国人が、日本をEnjoyできるように、僕にできるかぎりの、ほんの少しの手助けをしよう。

 オフィスへの廊下を歩きながら、そんなことを考えていた。

 ブライアン、東京でまた逢おう

---

追伸.
 先日、ある学生さんから「Jun、最初より随分、発音がよくなったね」と言われ、ちょっと調子をこいていたが、本日、ついに撃沈。会議室にいくあいだ、3名のネィティヴ・スピーカーの学生さんたちと一緒にいったんだけど、彼らの話していること、僕に尋ねていることが、全然わからない。考えてみれば、僕がよく話す人たちは、英語がネィティブ・ランゲージじゃない人たち、それも大人(研究者)ばっかりだったんだ・・・。そういう人たちは、しゃべるのも遅いし、僕の話もよく聞いてくれる。しかし、ネィティブの学生は容赦ない。そもそも話すのが早いし、スラングはがんがん入るし、省略するし。そして、英語が苦手とわかると、自然と避けていく・・・。完全に撃沈だ・・・少し鬱である。世の中、そんなに甘くない。


2004/05/21 MITスローンのExecutive Education

 マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology : MIT)のスローン経営大学院(スローンスクール)で、Executive Educationのディレクターを行っているトビーに、田口さんと一緒にインタビューにでかけた。

 インタビューは、合計2時間半におよび、トビーにはとてもお世話になってしまった。今度、お昼にスシを食いにいく約束もしました。とてもよい方で、非常に助かった。

 MIT スローン経営大学院
 http://mitsloan.mit.edu/indexflash.php

 MIT スローン経営大学院 Executive Education
 http://mitsloan.mit.edu/execed/index.php

 ご存じ、スローン経営大学院は、全米でも指折りのビジネススクールのひとつ。全世界から、次世代の企業幹部候補生が集まってくるので、とても有名。

 最近では、ちょっと前に書いたけど、スローンのうりのひとつであった「Master of Technology : MOT」を発展的に解消するので、ニュースをつくった。

 下記はその際のメモ。田口さんと僕とでラップアップしてつくった。

 ----

■スローンスクールのExecutive Education
・スローンでExecutive Educationがはじまったのは、今から7年前
 →ハーバードや、ウォートンから比べると、遅いスタート
 
・Executive Educationの学習者
 →CEO、Managerレベルを主に対象にしているが、コースによって
  違う
 
・B-schoolのCash Cow
 →Executive Educationは、B-school(ビジネススクール)の
  ドル箱(英語ではCash Cow)である
 →「高い」ということを言われるが、1名のファカルティを
  コンサルタントとして雇うよりは、ものすごく安い
 →それに、HRDの人たちがラインマネージャを動かそうとするとき
  に、何のセオリーや事例も知ってないと、マネージャは動かない
  →「これは○○など多くの企業で使われてます」
   「これは○○教授の提唱したセオリーです」
   という具合に説得するとうまくいくことが多い
  →そのための道具立てを提供している
 →しかし、Executive Educationは変革のひとつの手段でしか
  ないことも十分認識すべき
 
・MITの場合、収益はファカルティの給与にも還元される
 →下記にあげるようなメリットがあるので、ファカル
  ティはExecutive Educationに関与したがる
  1. サラリーが増える
  2. 企業のExecutiveたちへの自分の知名度があがる
  3. 自分のセオリーをSpreadするチャンスである
  4. 個別のコンサルティングをあとで依頼されることが多くなる
  5. 自分のリサーチのフィードバックが得られる
 →ちなみに、ハーバードは全くのボランティアでやる
 
・現在、3つのプログラムがある
 1. Open Enroll Course
   →http://mitsloan.mit.edu/execed/epp/index.php
 2. MIT Sloan Fellows Program
   →http://mitsloan.mit.edu/execed/fellows/index.php
 3. Custom Course
   →http://mitsloan.mit.edu/execed/epp/custom.php
 
 ↓(各コースの詳細は?)
 
■Open Enrollment Course
・概要
 →最もトラディショナルなコース
 →誰でも参加できる
 →1人のプロフェッサーが平均20名〜45名程度の生徒を教える
 →主に2日間のコースと5日間のコースがある
  1. 2日間のコース
    ・主にマネージャを対象
    ・授業料は2600$(27万円)程度
    ・ある特定の領域を深く勉強する
  2. 5日間のコース
    ・主にCEOを対象
    ・授業料は7700$(78万円)程度
    ・浅く広く現代のビジネス状況を学習する
 
・トビーのおすすめ
 →一人の会社から1人だけでくるのではなく、複数がくるか
  あるいは、長期間にわたって1名ずつ来て欲しい
  →変革(Change)は一人で起こせない
  →似たような経験とマインドをもつ人が複数必要である
 
・実際の学習の進め方
 1. プロフェッサーからの講義
 2. エクササイズ、グループトーク
 3. ファイナルレポートの提出
 
 ↓(次に2つめのプログラムを説明)
 
■MIT Sloan Fellows Program
・Sloan Fellows ProgramはレジデンシャルのMBA学位取得
 プログラム
 →1年間でMBAを取得することができる
 →30歳後半の幹部候補生を対象にしている
 
・日本には5つのパートナー企業がある
 →Mutual Commitmentを重視した制度である
 →毎年多くの日本人がくる
 →1つのクラスに日本人があまりにも増えないように配慮
  が必要である(均衡が必要)
 
・このプログラムは、他のB-schoolはやっていなかった
 →MITが先行して開始、他のB-schoolがマネ
 →現在は、StanfordやLondon Business schoolなどにも
  設置されている
 →最も成功しているプログラムのひとつである。
 
 ↓(最後のプログラムは...)

■Custom program
・企業から寄せられたニーズをもとに、個別にコンサルティ
 ングを行い、カスタムメードの教育プログラムを提供する
 →すべての企業からのオファーを引き受けているわけではない
 →「丸投げされても」、絶対にうまくいかない
 →企業とMIT双方が、変革に向けて相互に努力できることが重要
  
 ↓(BPのCuston programの事例)
 
■BP Project Academy
・概要
 →朝8時から夜9時までの、6週間の教育プログラム
  →2週間×3セッションで行う
 →4名×13グループの学習者、25名のファカルティが参加
  →BPの役員も8名から10名参加
   1. 彼らは教育プロセスをオブザーブする
   2. 講義を行う
  →アクションラーニングを実施するためには、MITのファカルティ
   とBPの役員の関与が不可欠
 
・学習内容
 →学習内容には、Generalな教育内容とBP Specificな内容がある
 【Generalな内容】
  1. Leadership
  2. Technology
  3. Business
 【Specificな内容】
  1. BPのChinaでの事業について
 
・教育プログラムは、下記のひとたちのチームで開発
 1. トビー
 2. 3名のファカルティディレクター
   →このファカルティディレクターが、他の22名のファカルティ
    をリクルートする
   →内容がわかる人でなければ、適任者をセレクションできない
 3. BPの役員、スタッフ
 
・テクノロジーの使用
 →Sloan spaceとよばれるコースウェア管理システムを利用
 →コースの表示、リソースのダウンロード、ファイルの交換ぐらい
  しか敢えて使わない
 →オンラインディスカッションも行わない
 →理由 No tolorance technologyを追求すべき
  1. とにかくクライアントの人たちは忙しいのでテクノロジー
    が障害になることを避けたい
  2. とにかくテクノロジーはシンプルに
    →そうしなければ顧客を確実に失う
 
 ↓(メリルリンチの事例)

■メリルリンチのInvestment教育プログラム
・概要
 →最新の投資理論が学習内容
 →1名のファカルティがディレクション
 →参加者は20名から25名
 →100時間の教育プログラム(16週間のレクチャーを含む)
 →教育プログラムの開発・実施は、下記のメンバーで行う
  1. トビー
  2. MITプロジェクトマネージャ
    ・ビデオプロダクション
    ・印刷会社
  2. MITファカルティ(1名のプロフェッサー)
    ・プロフェッサーのアシスタント
    ・ティーチングアシスタント
  3. メリルリンチ側のLearning director
    ・メンバーのリクルーティングなどを担当
 
・学習教材(テクノロジーを少し使う)
 1. Initiative workbook
   ・CD-ROM(16週のレクチャーが収録)
   ・シラバス
   ・レクチャーノート
   ・アサインメント
 2. シンプルなWeb(blog)
   ・オンラインディスカッション
   ・ファイル共有用
   ・レクチャーのストリーミングは敢えて行わない
    →トラブルが多くなる
    →全世界に散らばるすべての社員がHi speed internet
     を利用できるわけではない
 3. カンファレンスコール
   ・グループの共同作業、相談などに使用
    →最初は、テキストチャットを利用したが、結果は悲惨
    →電話が一番(テクノロジーはシンプルに)

・なぜテクノロジーを使うのか?
 1. They are so busy that they can't leave the desk!
  (非常にシンプルでいて深刻な理由)
 2. blogは、受講者の世代にとっては、新規なテクノロジー
  ではない。blogのインタフェースには慣れている。
 3. ちなみにファカルティの拘束は経るので、費用は抑えられる

  ↓(そうであったとしても)

・PCは、Preconfiguredなものを一斉に配布
 →必要なプラグイン、ソフトなどはすべて入れておく
 →インストラクションが容易になる
 
・実際にどのような学習を行うか?
  1. NYでオリエンテーション(対面)(28th May)
  2. 16週間にわたって個別&協調学習
    ・講義の視聴
    ・オンラインディスカッション
     →オンラインディスカッションボードには、要約役
      (編集役)のスタッフがいる
     →1週間に一度、ディスカッションのサマライズを行う
  3. セミナーでのプレゼンテーション(8th July)

----

追伸1.
 最近、GREE.JPを利用している。調子にのって、いろいろな人をご招待してしまった。お忙しい方ばかりなのだが、もし迷惑だったらごめんなさい。でも、Orkutよりはなぜかオモシロいなぁ。

 GREE.jp
 http://www.gree.jp/

追伸2.
 「はじめての人材育成本」のゲラが到着。現在、編集作業続行中。結構直すところあるな。荒木さん、ゲラのご送付、お忙しいところ、ご送付ありがとうございました。

追伸3.
 このところ、長い間にわたって、「ある薬」を「ある時間」に飲み続けなければならなかったのだが、すべて飲みきった! この開放感。症状が直っているのかどうかは、もうどうでもよくなってきた。本末転倒、でも嬉しい。

追伸4.
 ホントウに一瞬だけ、NIMEの自分の研究室(511)に戻りたくなった・・・。なぜだろう、一瞬、懐かしさがこみあげた。


2004/05/20 スタタ・センター

 今、ボストンで話題になっている「建物」といえば、MITのSTATA CENTER(スタタ・センター)です。このセンターは、MITの卒業生である、レイ・スタタという人と、奥さんのマリア・スタタの莫大な寄附を中心として、それに加えビルゲイツなどからも寄附をつのり、建設されたMITで最も新しい建物です。ここには、人工知能などのコンピュータサイエンスと言語学などのデパートメントが入っています。

Joyce, N. E., Gehry, F. O. and Sobol, R. M.(2004) Building Stata: The Design and Construction of Frank O. Gehry's Stata Center at MIT. MIT Press.

 建築家はフランク・ゲイリーという人で、世界で最も有名な建築家のひとりです。その斬新で開放的なデザイン - これまでの大学の建築に最も欠けていた部分かもしれません - は、見ているだけで愉快になれます。

 もう三年前になりますが、同じように非常に開放性と透明性の高いビルディングをもつ、はこだて未来大学を、このホームページのエッセイのところで紹介したことがあります。外観は全く違いますが、この両者、似ているところもあるような気がします。

 はこだて未来大学のこと
 http://www.nakahara-lab.net/doctoressay12.html

 以下、僕が撮影した、スタタセンターの外観、そして内部の写真を公開します。

STATA CENTER(スタタ・センター)
   
  

  

スタタセンターの全景です。何だか、奇妙なかたちのビルディングが集まって構成されていますね。

  
STATA CENTER(スタタ・センター)
   
  

  

今度はKendallの駅の方から見てみました。右の写真には入り口が見えますね。この入り口からは、コンピュータサイエンスのラボに入れます。

  
STATA CENTER(スタタ・センター)
   
  

  

ぐるっとまわってみました。言語学のデパートメントへは、この入り口から入れます。

  
STATA CENTER(スタタ・センター)
   
  

  

なかに入ると、吹き抜けです。なんだか迷路みたいになっています。階段を上っていても、下で何をやっているかが常に見えます。右の写真は、オモシロイ椅子だなぁと思いました。「く」の字になっているところにすわると、ちょうど人と人が45度に座れますね。話しやすさを考えているのでしょうか。

  
STATA CENTER(スタタ・センター)
   
  

  

左の写真は講義室です。まだ工事中なんですね。右は、スタタセンターの内部にあるフィットネスセンター。

  
STATA CENTER(スタタ・センター)
   
  

  

MITライブラリーの司書さんがつめる場所です。これを上の階段から眺めると、右の写真のようになります。いろいろな場所から、人の行為が見える。

  
STATA CENTER(スタタ・センター)
   
  

  

多くのオフィスはガラス張りになっています。

  
STATA CENTER(スタタ・センター)
   
  

  

ここは言語学デパートメントへの入り口です。中はこんな風になっています。

  
STATA CENTER(スタタ・センター)
   
  

  

上の階からも、下の階のオフィスが見えますね。この部分を外から見ると、左の写真になります。

  
STATA CENTER(スタタ・センター)
   
  

  

言語学のデパートメントの内部です。階段の上から写真をとっています。右の写真は、カンファレンスルームです。いずれも吹き抜けですね。

  
STATA CENTER(スタタ・センター)
   
  

  

左がスタタの1Fと2Fの地図です。右は、3Fの地図になりますね。

  
STATA CENTER(スタタ・センター)
   
  

  

スタタの壁面には、掲示物を自由につけることのできるボードがそこらじゅうにあります。上の写真は、歴代のMITの著名な教授たち、研究の様子を紹介したボードでした。もちろん、左の写真はノーム・チョムスキーそのひとです。

  
STATA CENTER(スタタ・センター)
   
  

  

探検終了です。スタタ・センターの正面にやってきました。うーん、それにしても、奇妙なかたちですね。もし興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、是非、ボストンに行った際は、MITにお立ち寄りください。

  

2004/05/19 小さな木の実

 数ヶ月前、雪解けのボストンを散歩しているとき、なぜか理由はわからないが、いつも僕はこの曲を口ずさんでいた。おそらく、秋の曲であるはずなのに、なぜ思いついたのだろう。理由はわからない。

 小さな木の実(曲がMIDIで聞けます)
 http://www.mahoroba.ne.jp/~gonbe007/hog/shouka/chiisanakonomi.html

 おそらく、小学校の音楽の時間に聞いて以来、おおよそ20年ぶりくらいだろう。なぜか一度、メロディが思い浮かんでしまうと、頭から離れない。

 小さな手のひらに ひとつ
 古ぼけた木の実 にぎりしめ
 小さなあしあとが ひとつ
 草原の中を 駆けてゆく

 パパとふたりで 拾った
 大切な木の実 にぎりしめ
 ことしまた 秋の丘を
 少年はひとり 駆けてゆく

 小さな心に いつでも
 しあわせな秋は あふれてる
 風と良く晴れた空と
 あたたかいパパの思い出と

 坊や 強く生きるんだ
 広いこの世界 お前のもの
 ことしまた 秋がくると
 木の実はささやく パパの言葉

 作詞:海野洋司「小さな木の実」

 歌詞、とても美しい。

 作曲者はカルメンで超有名なビゼーである。原曲は、「美しいパースの娘」のセレナーデという曲である。

 カルメン(歌:マリア=カラス、ビゼー作曲)

 オトナになったら、どこで何をしているのかも、全く知らなかったあの頃に聞いた曲を、20年後に思い出すこともある。よもや、チャールズリバー沿いを歩きながら、口ずさむことになるとは。

 遠くにきたものだ。


2004/05/18 OCW(オープンコースウェア)のファカルティリエゾン

 今日、田口さんと一緒に、MIT Open Course Ware(オープンコースウェア)のFaculty Lieson(ファカルティリエゾン)をつとめるタミーにインタビューを行った。

 タミーは、マネジメントとテクニカルコミュニケーションの2つのマスターをもつ29歳の女性。

 大学院修了後、会社に就職し、現在はOpen Course Ware(オープンコースウェア)で、ファカルティとOCWのパブリッシングスタッフをつなぐ仕事をしている。とてもキュートな女性だった。

 下記に、田口さんと僕でラップアップしたインタビューのメモを公開。

 -----

■タミーの仕事
・ファカルティリエゾン(FL)である
 →FLとは、ファカルティへの交渉をマネジメントし、
  各デパートメントに常駐するデパートメントリエゾン(DL)
  、インテレクチャルプロパティースペシャリスト(IPS)
  プロダクションチームを指揮して、コースの出版を行う
  いわば、プロジェクトマネージャ的存在である。
 →FL、DL、IPSのグループを「マイクロチーム」と呼んでいる
  1週間に一度のミーティングがある
 詳しくはhttp://www.nakahara-lab.net/2004diary02.html参照
   
・タミーの仕事の範囲
 →現在、48コースのコース開発をマネジメントしている
 →タミーが責任をもつデパートメントは下記のとおり。
  1. スローン経営大学院
  2. Department of architecture
  3. Department of urban studies
  4. Department of comparative media studies
   
・FLは全員で4名いる
 →各FLは、それぞれ下記のように各デパートメントを指揮
  1. Department of Engineering(2名のFL)
  2. Department of Humanities(1名のFL)
  3. Department of science & chemistry(1名のFL)
  
    
 ↓(実際にどのように仕事をするか?)
  
    
■仕事の詳細
 1.毎年9月にファカルティをリクルーティングする
  ・デパートメントヘッド(学部長)に会う
  ・その際には、MIT学長チャールズベストのお口添えがある
   →学長がコミットメントを示すことが重要
   →学長のリーダーシップが不可欠
  
 2. 学部長にファカルティをリコメンドしてもらう
   →コアコースなどをすすめられることが多い
   
 3. ファカルティにMailでコンタクトをとる
   →その際には、ベネフィットを強調する
   →1度で返事がこなかったら、もう一度かく
    →「2000ドルが研究資金として獲得できますよ」と書く
   →あんまりひつこくすると嫌がられるので難しい。
   →しかし、「大変なのは、ドアに入るまで」
    それが成功すれば、ほとんどが断られない。
   
 4. パケットをもってファカルティを訪問する
   →デパートメントリエゾンも連れて行く。
   →30分から1時間くらいのミーティングになる
    一番緊張する瞬間である
   
 5. 合意に達したら、コースマテリアルを集める
   →何回かに分けてファカルティにリマインダーを出す
   →デッドラインにあわせる
    →DLはビデオを撮影したり、実際に講義を聴講し
     ノートをとったりする
    →ファカルティが持っているTAとの連携が不可欠
   
 6. 4週間かけて、コースを開発
   →開発担当者は6名
   →SAPIENT社に開発のコンサルティングをアウトソーシング
  
 7. 開発されたコースをファカルティに見せる
  
 8. ファカルティのオッケーをもらったら、OCWで出版
  
 9.OCWでの出版に際し、契約書は交わす。
   →コースの著作権はファカルティにある
   →OCWは公衆送信権をもつ
  
  
 ↓(このサイクルで仕事をしていく中で苦労した点は何?)
  
  
■タミーの苦労
・OCW開始時(2年前)は非常に仕事が大変だった
 →しかし、知名度・インパクトが知れるに従って、
  仕事が楽になってきた
 →ファカルティの理解を得るのが大変だった
  
・OCW開始時(2年前)は、FLが2名しかいなかった
 →DLはいなかった
 →当時は、自分たちだけでWebの開発までやっていた
  
・OCWは急成長をとげている
 →常に仕事のプロセスをカイゼンしていく必要がある
  
・ファカルティにとってOCWはボランティアワーク
 →ファカルティはデッドファインを守らないことが多い
 →それをマネジメントするのが大変
  
・コピーライトの処理が大変
 →ファカルティは自分の授業で使っている素材を、
  どこからとってきた図版か覚えてないこともある
 →ISPと連携して処理を行う
  →安いものについては著作権料を支払うこともある
   たいていは、高いから支払わない
  →使えないものは、使おうとしない
 →図版を抜くとコースの重要な部分が抜け落ちるときは、
 似たような絵をわざわざ描いてもらうこともある
  
・学部によって、ファカルティによって温度差がある
 →一般にサイエンスは交渉がムズカシイ
 →ファカルティのパーソナリティもある
  →自分のノートをみせたがらない教官はいる
  
  
 
↓(ところで、タミーはDLのリクルート・トレーニングもやる)
 ↓(DLに必要な能力を聞いてみた
  
  
■DLという仕事
・DLは、MITの卒業生からリクルートする
 →契約は1年から1年半、インターンとして位置づけている
 →年収400万程度
  
・DLに必要な能力
 1. 自分が担当するデパートメントの内容知識
  →だからMITの卒業生を使う
 2. ファカルティと話すことを怖がらない
  →コミュニケーションスキルが必要
 3. デッドラインを守る
  
・DLにはトレーニングの機会を提供する
 →1ヶ月に1度、トレーニングセッションをやる
  1. コピーライトの知識
  2. OCWの出版の際に使っているテンプレートの知識
   →キャプションをどういれるか
   →写真の引用の方法


2004/05/17 号外:ゲイマリッジ

 ご存じかもしれないが、ここ数ヶ月ほどのアメリカで、ずっとホットな話題であり続けているのは、ゲイマリッジである。

 イラク人捕虜の虐待の問題、それに続く国防長官ラムズフェルドの辞任をめぐる攻防、そして最も最近では、米国人捕虜の処刑風景の公開。

 確かに、現在のニュース番組をにぎわしている問題は多数ある。しかし、「同姓同士、つまりは愛し合う男と男、女と女の結婚を認めるべきか、どうか」という問題は、いまや大統領や宗教家までを巻き込んだ大論争になっている。

 ところで、アメリカは州の自治がすべての国である。ゲイマリッジを認めるか、どうかに関しても、連邦法とのからみはあるものの、基本的には州できまる。

 ちなみに、僕が住むマサチューセッツ州は、アメリカで最もリベラルな政治風土で知られる場所のひとつである。古くは、ケネディがこの地の出身である。そして、民主党の大統領候補であるジョン=ケリーもマサチューセッツの出身である。

 実は、僕の住んでいるアパートから10件ほど隣のケンブリッジシティホールでは、今晩0時(ボストン時間5月17日午前0時、日本時間5月18日午後1時)、マサチューセッツでのゲイマリッジの「結婚受付」がはじまるのである。

 野次馬根性をだして、ちょっくら取材に行ってきた(正確には、1時間ほど前、田口助教授から「取材にいく」ように命令された)。今から30分前の様子である。

 下記がその写真。低解像度ではあるが、ビデオも撮ってきたので、是非、見て欲しい。

ゲイマリッジ
   
  

  

いつもは静かなケンブリッジ。カウントダウンがはじまって、人々から歓声があがった。

  

ゲイマリッジが認められた瞬間のビデオ
※ rmファイル

 マサチューセッツアーベニューは完全封鎖。通りには1000人はゆうに超えるであろう人々が、午前0時の結婚受付を待っていた。カウントダウンとともに、ライスシャワーと人々の歓声。まわりの何人かにゲイマリッジをどう思うか、聞いてみたら、みんなおおむね「それを認めるのはいいことだ」と言っていた。もちろん、ここに来ている人がそういう人たちだけかもしれないけれど。

 自由の国、アメリカ。その中でも最もリベラルな土地と言われるマサチューセッツ州、ケンブリッジ。その自由は、所与のものとして、この地に「あった」ものではない。様々な人々の努力によって、「つくられた」ものである。

 今夜、またひとつこの地の自由が増えた。

 ---

 なんだか、KNNの神田さんみたいだな・・・。神田さんには、一度、NHKでバイトしたとき、お逢いしたことがあるが、とてもエナジェティックな方だった。

 Kanda News Nerwork
 http://www.knn.com/


2004/05/17 #4 洋モノ小説

 僕は洋モノ小説に弱い。カナカナの登場人物の名前が全く覚えられないのである。

 クリスティーヌだの、マスューだの、スタコラサッサだの、洋モノの名前がガーッとでてくると、わけがわからなくなってしまうのだ。

 「あれ、コイツ、何やってるヤツだっけ?」

 という感じで、何度も何度も、もどって読み直さなければならなくなってしまうのだ。

 今日、本屋である洋モノ小説を見つけて(ボストンの本屋で売っている小説が洋モノなのはアタリマエだ)、まぁ、薄かったので買ってみた。で、早速読んでみたんだが、まぁ、本当にわけがわからない。しばらく読み進めているうちに、キャラが重なっていってしまうのである。

 「やっぱりダメか、どうしよう」、と思って、ひとつ名案がうかんだ。カタカナの名前を、よく知っている日本人の名前におきかえたらどうだろう、と思ったのである。クリスティーヌ=花子、マスュー=太郎・・・という風に。

 で、試してみたら、まぁ混乱はするんだけど、カタカナよりは具合がよいようだ。「クリスティーヌ」と「マスュー」の関係を思い出すよりも、「太郎」と「花子」の関係を思い出す方が楽なのである。もちろん、「クリスティーヌ=花子」を思い出すのも、認知的資源を必要とするから、これは僕だけに言えることなのかもしれないが。

 やっぱり、僕はカタカナに弱い。


2004/05/17 #3 今週がヤマ

 周知のように、日本の大学と違って、アメリカの大学は9月にはじまり、翌年の5月に終わる。賞味9ヶ月。それが終わると、長い長い夏休みになる。

 MITは、先日、春学期が終了した。学生には、まだテストやレポートが残っていると思われるが、めっきり大学にくる人の数が減ったように思う。僕も、授業は、先日で終わり、既にレポートを提出した。めでたし、めでたしである。

 とはいえ、喜んでばかりもいられない。実は、僕にとっては、今週が最高の「ヤマ」なのである。

 MITでの関係者へのインタビューが何件かあるばかりか、1日をのぞいて毎日、日本とのテレビ会議が入っている。インタビューのための資料づくり、日本との会議のための下準備など、非常に忙しい。

 ---

 まぁ、仕事ばかりで忙しいわけではない。

 週末には、CECIのアドミニストレーション・スタッフのパムさんの「卒業おめでとう会」がある。なんと、彼女は、日中MITで仕事をし、夜間は密かに大学(アカウンティング)に通っていたのだという。もちろん、今回がはじめての大学進学ではない。既に修士号はもっている。

 実は、こちらに来る前、こんなことをカミサンに言われていた。彼女は、大学時代、ボストンに1年間留学した経験をもつ。

「ボストンにいったら、まわりはみんな学生。また、大学とか大学院で勉強したくなると思うよ」

 なるほど、ここに確かに「学生」は多い。

 昼、「社会人」として仕事をしていても、実は「学生」であったりする。また、「学生」であっても、学びながら仕事をしていたりすることもある。いわゆる「あなたは社会人なの、学生なの?」という図式は、通用しない。

 カミサンの言っていたこと、わかるような気もする。確かにそういう人たちを見ていると、大変だなぁと思いつつも、僕も何かチャレンジしてみたいな、と思ったりもする。もう一度、今までとは全く違ったことを、ゼロから学んでみたい気がする。

 ボストン、そんな人たちが、ここにはたくさんいる。


2004/05/17 #2 ボストンポップス

 先日、ボストンポップスオーケストラにいってきた。

 ボストンポップスオーケストラは、キース・ロックハートという非常に若く有能な指揮者のもとで、毎年この時期に、ボストンシンフォニーホールで演奏を行っている。

ボストンポップス
   
  

  

左の写真は、ボストン・シンフォーニー・ホールの近くにあった綺麗な建物。このあたりは、なかなか雰囲気がよい。ちょうど、プルデンシャルタワーの裏側になる。右が、シンフォーニーホール。

  

 キース・ロックハートがボストン・ポップス第20代指揮者の座についたのは、35歳のとき。ET、ハリッポッター、ジュラシックパークなどの映画音楽を手がけるジョン=ウィリアムズが指揮者からのバトンタッチであった。

 ボストン・ポップス・オーケストラ
 http://www.bso.org/

 今年は、5月11日から7月4日の独立記念日までの演奏だそうだ。

 かつて小澤征爾がひきいていたボストンシンフォーニーオーケストラが、正統派のクラシックならば、ボストンポップスが対象にするのは、ハリウッドの映画音楽や、ガーシュウィン、リチャード・ロジャースなどの現代クラッシック、あるいはフランクシナトラやポールサイモンなどを含むポップス音楽である。要するに何でもありだ。

 ボストンポップス「アンコール」ベスト版CD

 ボストンポップス リチャード・ロジャーズ特集CD
 「そうだ京都へ行こう」のCMで有名な「My favalite things」
 「王様とわたし」の「Shall we dance?」を含む

 ベスト・オブ・ジョン・ウィリアムズ&ボストン・ポップスCD
 ハリウッドの映画音楽が勢ぞろい

 ガーシュウィン&ボストンポップスCD

 うちからシンフォニーフォールまでは、バスでわずか10分。散歩をすれば35分。夕方、仕事を終え、MITから歩けば、丁度よい20分の運動になる。

 入場料は、一番高い席で47$、安い席なら19$の安さである。ボストンポップスは、たまに日本公演を行うが、その場合は1万程度払うことを覚悟しなければならない。以前にカミサンと言ったことがあるが、ふたりでいくと、しばらく「ヒモジイ生活」を余儀なくされる。

 先日行った公演は、ガーシュウィンの特集だった。僕の大好きな作曲家のひとりである。ディズニー映画「ファンタジア2000」の「ラプソディ・イン・ブルー」のアニメーションがよほど強烈だったのか、彼の音楽を聴くと、どうしても、ニューヨークなどのエネルギッシュなアメリカの都市を思い出してしまう。

 ファンタジア2000

 喧噪の中で人々が日々感じる喜びや悲しみ。そういったものを、なぜだか感じてしまう。先日ニューヨークにいったときも、アタマの中はガーシュウィンだった。あっというまの2時間だった。とにかく、感動した。

 来週には、ジョンウィリアムズがくるので、また行こうと思う。そして、7月4日の独立記念日には、有名な野外無料コンサートがある。8月には、ボストンシンフォニーオーケストラの聖地「タングルウッド」にでかけよう。今年のタングルウッドには、小澤征爾が例年のようにくる。

 小澤征爾&ボストンシンフォニーオーケストラ「白鳥の湖」

 小澤征爾 ニューイヤー・コンサート 2002

 研究は「楽しい」。しかし、どうも僕は「研究」だけに明け暮れる人生を送れそうにない。それ以外のことも、時間をみつけてとことん「楽しみ」たい。きっとその方が、研究をより「楽しむ」こともできるような気がするから。

 僕は貪欲である。


2004/05/17 HRスクール

 ちょっと前の日記に、僕はこんなことを書きました。

---

 2004/03/26 プロフェッショナル

 アメリカの大学院の中には、企業内の人材育成担当者を育成する教育プログラムをもうけているところがあります。要するに、企業内の学習戦略、教育戦略を構築するプロフェッショナルを養成する大学院教育ということですね。
(中略)

 この領域、研究者の数も限られているので、それほど数は多いわけではないです。たとえば、下記のようなものがあります。

(中略)

 コーネル大学
 http://www.ilr.cornell.edu/

 ここでどのような学習が行われ、それでどのようなExpertiseがつくのか、とっても興味がありますが、ホントウのところ詳細はわかりません。もしどなたかここを卒業した方がいらっしゃって、お話など聞けるととても嬉しいのですが。

---

 先日、この日記をお読みいただいた方で、コーネル大学のSchool of industrial and labor relationsで戦略的HRM(Strategic Human Resource Management)を専攻なさっている「回谷(カイヤ)さん」という方から、メールをいただきました。また、これがきっかけで、「海外大学院でHRDを勉強したい/今勉強している人」のメーリングリストにも入れて頂きました。この場を借りて感謝致します。ありがとうございました。

 回谷さんによりますと、これらの大学では、HRD部門に勤務したい人たちを対象として、どちらかというと幅広く知識や技能を身につけさせているそうです。また、米国のエクセレントカンパニーとよばれる会社のHRD部門に入るためには、こうした大学院で修士号を取得することが求められているそうです。

 ふーん、なるほど。要するに、HRスクールは、エクセレントカンパニーで働くための資格証明になっているということでしょうか。いかにも学歴社会、アメリカっぽいなぁと思ってしまいました。

 回谷さんは、今年でコーネル大学大学院を卒業し、日本の某会社で戦略的HRM(Strategic Human Resource Management)を実践なさるそうです。僕は10月で帰国ですが、是非、一度飲みに行きたいですね、ということになりました。

 今から楽しみです。


 NAKAHARA,Jun
 All Right Reserved. 1996 -