The Long & Winding Road - 2002/05


Photo by Miwa


2002/05/02 春の日

 先日、ふと、思い立って、自転車で、自分の住んでいる町を走り回ってみた。Tシャツ、の上にうすでのセータを羽織った。サクラはとうに枯れていた。

 この町に住むようになってからもう半年が過ぎているというのに、これまで駅から半径100メートル以内の生活をしてきた。

 いつもの風景を通り過ぎる、いつもの自動車を、いつもの人々を見ていた。

 テリトリーを超えてみる。
 自転車はかける。
 
 水溜りのまわりにいたスズメが、こちらに気づき、サッと二手にわかれ、自転車をよけた。ほんの一瞬だけ、飛んでいるスズメのスピードと自転車のスピードが同じになった。僕はスズメと並んだ。なぜだか急におかしくなった。

 いつもとは違った風景が目の前を通り過ぎ、いつもとは違った方向に自動車が進んでいた。しかし、そこには、いつもの人たちと同じような人々が、やっぱりいた。

 ここも僕の町なのだ。
 なんだか急に世界が広がったようで、オトクな気分だ。

 春の日は、モニタを離れ、自分の町を見つけよう。


2002/05/04 こんな世界に

 浜崎あゆみの歌には、現代のワカモノタチのアンビバレントな感情が歌われている。絶望と希望が共存してる。

 こんな時代に生まれついたよ
 だけど何とか進んでって
 だから何とかここに立って
 僕達は今日を送ってる
 wow yeah wow yeah wow yeah

 (中略)

 こんな地球に生まれついたよ
 何だかとても嬉しくて
 何だかとても切なくて
 大きな声で泣きながら
 wow yeah wow yeah wow wow wow yeah

「evolution」浜崎あゆみ

 「こんな時代」「こんな地球」というときの彼らは、確かに憤っている。そしてあきらめ、泣いている。でも、彼らは同時に「進み」「立とう」としている。そして、「今日」を生きている。

 ワカモノから見れば、僕はもう若くはない(?)けれど、そんな気分はよくわかる気がする。

 終末を語るほど、世の中捨てたもんじゃない。かといって、天地がひっくり返ることを夢想するほど、世の中を見くびってない。

 ところで、これは僕だけかもしれないんだけど、不景気どん底の社会の中で、何となくなんだけど、少しずつみんながゲンキになっているように、最近とみに感じる。

「さぁ、これからみんなでどん底からはいあがっていくぞ!」みたいなスッキリしたゲンキさではない。

 アンビバレントな感情をひきずったまま、ポジティヴな何かを生み出そうとする- 煮え切らない、そうであるが故に健全な明るさ、ぼんやりとした明るさ!


2002/05/07 創作和食

 創作和食というお料理のジャンルに、最近こっている。

 みんなが知っている和の食材を、みんなが思いもよらない方法で調理する、それが創作和食の醍醐味である。その料理は、ヘルシーであることが多く、ダイエット中の僕としては、大変ありがたい。

 先日カミサンと行ったのは、銀座にある和食とワインの店「なかなか」。

 http://www.masumoto.co.jp/nakanaka/index.html

 ここの「白身魚のトルティーヤ」と「明太子とじゃがいものサラダ」は、最近のスマッシュヒットだった。特に前者は、これはスゴイ作品だ、アートだね。

 とてもオイシイのに、値段はかなりリーズナブルです。かなり混んでいるので、予約をとっていくといいでしょう。


2002/05/08 柳宗理

 先日、大学院生時代、同じ研究室で学んだ浦嶋くんが、めでたく結婚した。当時の僕らは、週に一度ファミレスで互いの研究をケンケンガクガクとたたき合う、という研究会をつくって、切磋琢磨していた。

 当時の研究会メンバーのみんなからお金を集めて、僕とカミサンで浦嶋くん夫妻へのお祝いのお品を買いにいった。で、見つけたのが柳宗理である。

 http://www.japon.net/yanagi/
 http://www.fujimaru.co.jp/yanagi/yanagi_top.html

 柳さんと言えば、日本を代表するインダストリアル・デザイナーで、「バタフライ・スツール」は世界でも高い評価を受けている。浦嶋くんには、柳さんのデザインしたカトラリーなどなどをプレゼントした。

 で・・・なんだか人のプレゼントを選んでいると、なんだか欲しくなってしまうもの。結局、我が家も柳さんのカトラリーとか、クッションとか、いろいろ買った。

 浦嶋君のおかげでよい買い物ができた。


2002/05/09 近況

 近況報告です。

 http://www.nakahara-lab.net/research.html (プロジェクトリスト)

 Project eXは、その下に6つのサブプロジェクトが設定され、今日もゲンキに動いています。

 講義の視聴活動を変革するプレーヤーの開発を行うProject iPlayer、第二世代ケイタイを活用したe-Learning支援を行うProject inHand、アジアの大学との講義相互提供をめざすProject AEN、ディスカッションボードのレポーティング機能と評価を支援するProject Untitled、複数の大学でのポータルシステムの運用を行うxGate visionなどなどです。

 http://www.nakahara-lab.net/ex/exsubproject.html (Project eXのサブプロジェクトリスト)

 あと、iii onlineで公開されている授業もひとつ増えました。必修授業です。この授業は一般には公開されていないのですが、本郷の運営チームは、今、その準備に追われています。

 一方、開発チームは、GW中、プログラミングに追われました。GWにNIME出勤は、僕としてもかなり痛かったですが、これもシカタないですね・・・トホホ。とにもかくにも、第一期のバージョンアップが近づいています。これ、単純な作業じゃないです、今回はかなり大変。
 
 Project Mate2002は、東大のiii onlineを構成する基幹システム(xGate)を活用して、実践が開始されました。3つの授業がxGateを用いて実践されます。今週すべての授業が終われば、とりあえず、システム的にはヤマをこえたことになるでしょうか。

 今週・来週と、これらのプロジェクトがらみの出張・会議がバタバタと続きます。バタバタ、ピシピシ。ていうか、ブラックすぎる笑いです。

 NIMEの研修の方は、ようやく全国の大学に募集要項が配布された模様です。こちらの方も、どのように当日運営するか決めなければならないですね。

 http://www.nakahara-lab.net/2002NIMEkenshu.pdf

 是非、「Webを活用した学習環境のデザイン」に関心のある方いらっしゃってくださいね。なるべく多くの方々にご参加いただけることを、企画者の一人として願っています。

 そんな中で原稿もたまっています、うーむ。

 あれも書かなければなりません、これもやらなければなりません。
 しかし僕のカラダは3枚おろしにはできません。
 切り身で仕事はできません。

 ゆっくりとだが確実に

 (ゲーテ)


2002/05/10 京都大学訪問

 京都大学の高等教育教授システム開発センターと学術情報メディアセンターを訪問させていただいた。

 高等教育教授システム開発センターの田中先生、溝上先生、神藤先生、そして、学術情報メディアセンターの美濃先生には、お忙しいところお話を聞いていただき、本当にお世話になりました。ありがとうございました。

 高等教育教授システム開発センターが積み重ねてきた高等教育研究、FD実践の数々、そして学術情報センターが誇る最新鋭の講義アーカイヴシステム。これだけのマンパワーとノウハウ、さすが京都大学だと思った。

 夜は、田中先生、溝上先生、神藤先生、田口先生、京都外国語大学の村上先生と僕で、京都のオバンザイを食べにいった。川床(ユカ)の店だった、オシャレだった、オイシュウござった。皆さん、本当にありがとうございました。

 けだし、日本の高等教育研究は、これまで教育社会学をバックグラウンドにもった研究者がリードしてきた。その研究の多くは、マクロな社会現象としての高等教育や制度論、政策論に焦点化されていた。そうした研究の中には、思わずうなってしまうようなスゴイ研究が数多くある。

 が、テクノロジと教育という観点からすると、最近のe-Learningに呼応する研究も見られるが、評論的なものか、海外の実践紹介的なものが多い。

 語ることも大切だが、工夫次第で、その手でできることがある
 そうだ、目の前に広がるものがフィールドになる

 近年、高等教育における実践教育、システム開発研究は研究数が多くなってきている。

 そうした研究が受け入れられ、相互に認めあえる場があればいい、と心から思う。


2002/05/11 つながり

 最近、嬉しいことが2つあった。

 1つめは、iii onlineの学生ページの中の講義掲示板が盛り上がってきたこと。学生さんが会話調で議論しあう様子が少しずつ、少しずつ見えてきた。

 http://www.iii.u-tokyo.ac.jp/online/

 ideaとideaの<つながり>
 issueとissueの<つながり>

 2つめは、本年から2年間の期限付きで実施しているLOT研究会が、ホンネで議論しあえる場になりかけてきていることである。まさに「爆弾」が飛び交うように激しい議論が起こりはじめている。

 http://nakahara-lab.net/lot/lotmain.html

 LOT研究会は、所属機関をとわずして様々な人々が仕事や学業を終えたあとに集っている、いわばネットワーク型の研究会である。そこに<指導>する先生はいない。

 すべては<つながり>にある

 僕の嬉しいこと
 自分が<つながり>の創造に関与しうること


2002/05/22 近況

 ホントウに暇のない日々を過ごしてしまいました・・・。日記を書く気力さえ残らないほど、オンモを動き回ってしまいました。

 まずは、Project eXがらみ。iii onlineもヒソカにマイナーバージョンアップがありました。ツール群の開発も進んでいます。評価ツールに関しては、望月君が仕様を書いてくれました。

 また、iii onlineがアジアっちゃうサブプロジェクトというのが進行しています。先日、経済産業省で、プロジェクトのキックオフ会議が開かれました。はからずも、元・指導教官の佐伯先生にお逢いしました。とってもお元気な様子でした。

 Project mate2002です。東京大学情報学環iii onlineの基幹システム「xGate」を用いて、兵庫教育大学・滋賀大学が新たなe-Learning実践を開始しています。最初はトラブル続いていましたが、ようやく順調になってきました。

 社会人大学院本は無事に進んでいます。現在、インタビュー項目のリストアップを行っています。

 そういえば、今年のショートレター論文がとおりました。メデタシ、メデタシ。本日、昨年のプロジェクト成果をまとめた論文も、西森さん、投稿となりました、こちらもとりあえずは、メデタシ、メデタシ。結果が楽しみです。

 あっ、そうそう科研に続いて、松下視聴覚財団の助成金をゲットしちゃいました。松下さん、ありがとう。この助成金は、ステキなアプリケーション開発に使わせていただきます。

 最近は別に以前ほどダイエットを意識していないのですが、どんどんと体重が落ちていきます。17kgやせちゃいました。ハラにギョウ虫が住んでいるのかと思うことがあるのですが、どうもそうじゃないみたい。たぶん、豚肉とか牛肉とかで17キロとかって、すごい量なんだろうね。

 仕事のことばかりも何なので、最後にお遊び系も。

 先日、劇団四季の「コンタクト」をかみさんと見に行きました。ミュージカルらしからぬミュージカル。人生、swingです。第三幕のダンスは見ていて涙がでました。身体の動きに感動するとは。

 劇団四季「コンタクト」

 こんな毎日です、明日からも激スケジュール続きます。ちょっと体調を崩しているのですが、何とかかんとか、生き延びたいです。


2002/05/23 テレビ通販

 テレビをつけたら通販番組、やっていた。ボーッと番組を見ていたら、北海道の実家を思い出した。

 よく考えてみれば、通販の取り扱うお品、実は実家に満載じゃないか。

 足と手を交互に動かすやつ、正確な名前は知らないけれど、ゲンゴロウのような動きをする健康・運動器具、そういえば、実家にあった。

 先日電話をしたら、うちのオヤジが腹痛だというから、どうしたんだ?と聞くと、アブフレックス(ハラがプルプルするハラ引き締め器具)のやりすぎが原因らしい。アブフレックスのやりすぎで、下痢になるのはどうかと思うが、事実なので仕方ない。

 「はぁ、しょうもないもの買ってばっかりだな実家は」と思っていたら、見たことのあるものが、いきなりブラウン管にうつった。

 これは・・・ブラウン管にうつったのは・・・カミサンが先日、楽天市場で衝動買いした「背骨矯正ギブス」ではないか・・・。

 姿勢・スタイルをよくする、とか何とか言っていた。数日間、カミサンはイエの中でギブスをつけて暮らしていた。修行僧みたいだった。でも、買って1週間後、そのギブスを見たものはいない。肩がこるとか、何とか言っていた。

 通販のお品、実家に満載じゃないんだ。
 僕のまわりに、そいつは溢れてる。


2002/05/28 表現

 研究とは「表現」である。

 どんなにそれが泥臭く汗にまみれ、それにかかわる人の袂が常に乾ききることのない研究であったとしても、「表現」の美しさ、力強さ、そして優しさを追求しようとしない研究に、そもそもそうした志向性を持たぬ研究に、僕は惹かれない。僕は信じない。

 そういう研究は、研究者としての資格や価値さえ手に入ればよいと思って生み出された研究である。そういう研究は自暴自棄、やけのヤンパチである。当人の顔が曇る表現に、他人に伝達できるものは、何一つとしてない。

 芸術に完成系がないように、表現としての研究にも完成系はない。よって、それは砂漠に広がる地平のようなものである。

 力強く美しい、それでいて優しい表現をめざしたい。そのことが己のキャパシティを超えることを失意のままに承知していたとしても。

 それでも僕は表現者でいたい。


2002/05/29 封印されたリモコン

 数ヶ月前から宿題になっていたヴィゴツキー本の原稿を気が狂ったように書いている。ようやく構想はたち、ガシガシガシと書き始める。こんなに追い込まれるとは、僕としたことが。

 出張先のホテルで、オチャケを飲みながら、うんうんうなる。

 ヴィゴツキーの生み出した着想からすれば、比較するのはそもそも間違いと承知しながらも、「ホンマ、オレの研究はしょーもない」と反省しながら、Thinkpadをたたく。

 時に、隣のCS無料放送やってるテレビが気になったりもするんだけど、「イカン、イカン」と思い直して、またキーボードをたたく。

 リモコンは、ベッドの下に封印する。脳内麻薬が分泌されるんだろう、だんだんハイになってくる。

 あー、夜も明けてきた。原稿がようやくあがった・・・。そして、ベッドに倒れ込む。

 目覚まし時計に起こされ、気がつくと、次の〆切が迫ってゐた。今度はさらに難関だ。〆切は6月15日、ここ数年で一番大きな仕事になる。
 そして人生は続く。


 NAKAHARA,Jun
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