2019.1.30 07:00/ Jun
「お恥ずかしい話なのですが・・・うちの学校では、ここ最近、離職が立て続けにおこって、来年度の授業のめどが立たないのです」
「副校長先生のなり手がいなくて・・・来年度のこの地域は、副校長先生なしでスタートせざるをえない学校もでてくるかもしれないのですよ」
「若手の離職が続いてましてですね・・・でも、人手不足で、新たな採用の目処も立たないのです」
「来年度の人繰りのめどが立ちません・・・何人、新たに配属されるか・・・もしかすると、管理職のわたしも教壇に立たなくてはならなくなるかもしれません」
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仕事柄、多くの教育機関の先生方(小中学校高校の先生方、教育委員会の方々)にお会いすることがあります。ここ1年で、よく耳にすることになったのは、上記のような言葉です。
お話の真偽までは責任をもてないですが(教育現場の人的資源管理は僕の専門ではないのでデータを持ち合わせはありません)、上記のような人手不足問題(離職問題、採用難問題)が、教育現場を襲っているようです。
こうした話題で、僕がお話をうかがう相手は、特定の教育委員会、地域、学校というわけではないので、もしかすると全国的な問題かも知れません。
かつて小説家の村上龍さんは、自身の小説「希望の国のエクソダス(脱出)」にこう書きました。
この国には何でもある。
だが「希望」だけがない
この小説では、「ゆるやかに下降し、希望を失っていく日本」を、80万人の中学生たちが「エクソダス(脱出)」する出来事が鮮やかに描かれました。まことに不謹慎なのかも知れませんが、上記のような言葉をうかがって、ついつい脳裏をかすめてしまうのは、
「先生たちのエクソダス」
という深刻な事態です。
エクソダスとは「脱出」のこと。志半ばで、教育現場をあとにする先生方をイメージしてしまいます。
もしかすると
「ティーチャーズ・エグジット」
と呼称しても、よいのかもしれません。
ここで断じて誤解をしてはいけないことは、現場の先生方は、喜び勇んで、教育現場を「エクソダス」していくわけではないことです。多くの方々は、やむにやまれぬところまで追い込まれて、おそらく、その選択肢をとっているのだと推察します。
僕がいうのは変かもしれませんが、日本の先生方は、本当に真面目な方が多いと思います(もちろん、一定数、犯罪などをおこす先生はいます。しかし、それは他の職業についている人とて同じ事です)。僕は仕事柄、一年で千人以上の先生方にお逢いしていると思いますが、そのことを痛感します。
やむにやまれぬ状況が、現場を襲っていると考える方が、ハダカン(肌感覚)にあいます。
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ある現場における人的資源を量的に高めるためには「入口対策」として「採用増」を行うか、「出口対策」として「離職防止」を行うほかはありません(生産性をロボット、機械、ITなどを投入してあげないかぎりは、主たる対策は2つです)。
今、教育現場は「入口」が先細りしています。
好景気でもあるからでしょうか、あるいは、過酷な労働環境を嫌って教員養成系大学の人気に陰りが見えているといわれています。また教員養成系の大学にはいっても、教育実習などで現場を経験すると、その労働環境の過酷さからか、先生にならない人も一定数いるように思えます。要するに「入口」からの量的流入に陰りが見えています。
一方「出口問題」はどうでしょうか。過酷な長時間労働環境の噂がひろまることによって、そもそもの離職が増えているのかも知れません。冒頭のような状況が、もし日本全国で起きている、としたら、深刻な事態です。
経験上、
「離職は、次なる離職を生み出します」
そうです・・・よく知られているとおり、
「離職は、伝染るんです」
組織内に、少しずつ「離職」「転職」のハードルが下がっていくにしたがって、これまでの緊張のたがが外れてしまうことになりかねないのです。そもそもの組織がもっている課題を早期に解決しないことには、この問題は時間をへるごとに深刻になっていきます。
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数ある選択肢のなかで、一番すぐに対応ができるのは「出口問題」である「離職の防止」です。
長時間労働などの労働環境を「見える化」し、管理職同士、あるいは、先生方同士で「対話」を行うことで、次年度の業務の「何を見直し」また「何をすすめるか」を「決めていく」ことが求められています。そして、リソース問題を解決したあとでは、「将来の希望」のために、何を行っていくのか、カリキュラムの今後についての対話が必要になります。
このように、
「働き方のみなおし」と「カリキュラムマネジメント」は、セットになるものです(実際、中原研が関わっている学校では、両社が同時に結果として進行します)。
また、これを進めていくためには、保護者・生徒・地域の理解も必要不可欠です。持続可能な教育環境を守るためには、これまで学校に負担してもらっていたものを、自らの手に取り戻し、担っていく覚悟を持たなければなりません。
また「新規のリソース投入」を行うことなしで、教育現場に新たな教育内容を提案する行政も、今後は「覚悟を決めて」政策を提案してこなければなりません。
第一段階として、まず必要なのは、
働き方をみなおすための「組織開発」
です。まずは、これを学校レベルで進める必要がある。
そのうえで、さらに必要なのは
地域ぐるみ、国ぐるみの「先生方の働き方の見直し」
ということになります。
わたしどもがお手伝いしているいくつかの学校、会社組織では、第一段階として、自らの組織課題を解決する組織開発を実行しておられます。
個々の教員の気付きを促す 組織開発による働き方改革
https://www.kyobun.co.jp/commentary/cu20190117/
組織開発と人材開発の「あわせ技バーン」ですすめる「働き方改革」!?(来年度の研修実施内容が触れられています)
https://www.nakahara-lab.net/blog/archive/9839
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今日は「先生たちのエクソダス」について書きました。
この問題、ここ数日、お逢いした現場の先生方が口々におっしゃるので、なんだか、胸がソワソワしてきました。もしかすると、現場は本当に「待ったなし」の状況に追い込まれているのかもしれません。
今、研究チームの辻和洋さん、町支大介さんが「データから考える教師の働き方入門」という書籍を毎日新聞の久保田章子さんと緊急で編んでいます。わたしたちの知見が多くの現場に届き、課題解決のお役にたつのだとしたら、これ以上に嬉しいことはございません。
今日のような課題を解決するために、緊急で、勉強会をしてもよいのかな、と思い始めてきました。このあたりのことは、またご相談させてください。
かくも、また社会課題が生まれています。
中原研は「ひとと組織」の観点から「社会課題」と格闘することに貢献していきたいと思います。
そして人生はつづく
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