NAKAHARA-LAB.net

2018.12.21 07:13/ Jun

進路や仕事の選択を「自動化」してニュルッと押し出す「トコロテン的社会」!? : 自分で決めて、自分を取り戻せ!

トコロテンになるな!

昨日、今年最後のゼミで、こんなお話を中原ゼミの学生の皆さんにさせていただきました。
トコロテンとは、天草を煮出して寒天を加えてつくる、夏の風物詩のトコロテン。その最終製造過程においては、冷やし固められた寒天を「突き出し」と言われる棒で「押し出し」て、みなが口にする細長い麺のトコロテンをつくります。トコロテンは「冷やし固められた寒天が、押し出されて製造される」というところがポイントです。

なぜ、このような話をするのか、というと、こんな理由があります。

僕のような仕事をしておりますと、学生やビジネスパーソン、それぞれから自分のキャリアに関する話を伺うことがおざいます。
彼らは、それぞれに自分のキャリアを語っていただけますが、そのなかで、最も多いのが「トコロテンのように、押し出されて、過ごしてきた」というメタファで形容できそうなキャリアなのです。

学生はいいます。

「先生は、わたしは、大学選びのとき、高校の先生に言われるままに偏差値だけで、大学と学部を決めました」

若きビジネスパーソンはいいます。

「先生、わたしは、就職のときに、就職ランキングの上から面接を受けて、企業を決めました」

初老のビジネスパーソンはいいます。

「先生、わたしは、自分の仕事で、一度も自分で決めたことがありません。気がついたら、シニアと呼ばれる年になりました。今まで、自分で決めたことがないのに、この前受けたキャリア研修で、自分でキャリアを切り拓け、と突然言われたのです」

この3つのケースに共通するのは何か?

1.自分のキャリアを「他人任せ」「他人がつくった物差し任せ」にしていること
2.自分で「決めていない」こと
3.時間に「押し出される」ように過ごしてしまってきたこと

です。

この状態を僕は「トコロテン」に喩えて申し上げました。まことにこのような喩えが適切かどうかはわかりませんが、冷やし固められた物体が一様に「押し出される」という1点において、このような喩えを選択しました。

それでは、トコロテンにならない生き方とは何か?
逆の立場とは、

1.自分のキャリアを「自分事」として引き受けること
2.自分で決めること
3.時間に「押しだされず」、折りにふれて「振り返ること」

なのかなと思います。

一教員として、学生には、ぜひ、そうした生き方をして欲しい、と願っています。

最近、よく思うのですが、どうも日本社会は、「自分事として引き受ける」とか「自己決定する」とか「振り返る」とか、そういうことを「自動化」してしまう傾向があるように思えてなりません。

大学選びも「偏差値」という「ひとつの物差し」で自動的に決まり、就職も「就職ランキング」の上から面接を受けて決める。新卒一括採用という仕組みは、若年層の失業を押さえるとか、企業の採用コストを下げるとかのメリットもございますが(その効用はよくわかっています)、一方で「就職を自動化」してしまう・・・トコロテンを製造するように、突き出し棒で「学生を一様に押し出して」しまう、という意味において、「自分のキャリアを考えること」を放棄させてしまう、というネガティブな点もあるように思います。

すべての場合がそうではないですが、日本の進路選択、仕事選択の仕組みは「自分で悩み、自分で決めていない側面を持ちやすい」ように思えます。

ひいては、働き始めてからも、その傾向がつづきます。
「ひとつの組織にある、ひとつのものさし」のうえで、上司をみながら仕事をする。そして、ある日、突然「自分のキャリアを自分できり開いてくださいね」と言われて途方に暮れてしまうのです。

かくして、「自分で決めてこなかった仕事人生」が完成します。

昨日は、中原ゼミの今年最後の年でした。
みなでこの1年を振り返り、来年をどのような年にするかを話し合いました。来年、初代の学生たちは、いよいよ3年生になり就職活動にのぞみます。「社会」という名のドアは、もう「半分」にひらいています。いよいよ来年は、そこに手をかけ、「キャンパスの外」にでる準備をすすめなければならないのです。

むろん、何ら恐れる必要は1ミリもございません。
多くの先達は、勇気をもって、「社会」というドアに手をかけ、旅立っていきました。
必ずできます。大丈夫。僕は自信をもってそう言える。

ただ、気をつけて欲しいポイントは、その際なのです。

トコロテンを製造するように、「時間」に押し出されるのではなく、「自分でしっかり決めてほしい」「自分のキャリアを自分事としてとらえる学生になっていただきたい」そんな思いで、こんな話をさせていただきました。

ま・・・たぶん、話半分しか聞いてないけどね(笑)。

また、先生の、暑苦しい説教がはじまったよ・・・
もう、いっつも、おうちの「お父さん」みたいなんだから・・・

と言われてると思いますけど(笑)。

自分の人生は、自分で引き受けなさい
そして、自分で決めなさい。
自分を他人に任せてきたのなら、自分を取り戻しなさい。

アタリマエのことですが、社会というドアに手をかける、皆さんに申し上げたいのは、この点につきます。

そして人生はつづく


(1年生と2年生・・・中原ゼミ、43名になりました)

ーーー

新刊「残業学」重版出来です!(心より感謝です)。AMAZONの各カテゴリーで1位を記録しました(会社経営、マネジメント・人材管理・労働問題)。長時間労働はなぜ起こるのか? 長時間労働をいかに抑制すればいいのか? 大規模調査から、長時間労働の実態や抑制策を明らかにします。大学・大学院の講義調で語りかけられるように書いてありますので、わかりやすいと思います。どうぞご笑覧くださいませ!

ーーー

新刊「女性の視点で見直す人材育成」(中原淳・トーマツイノベーション著)が、ついに刊行になりました。AMAZONカテゴリー1位「企業革新」「女性と仕事」。女性のキャリアや働くことを主題にしつつ、究極的には「誰もが働きやすい職場をつくること」を論じている書籍です。7000名を超える大規模調査からわかった、長くいきいきと働きやすい職場とは何でしょうか? 平易な表現をめざした一般書で、どなたでもお読みいただけます。どうぞご笑覧くださいませ!

ーーー

新刊「組織開発の探究」発売中、重版3刷決定しました!AMAZONカテゴリー1位「マネジメント・人事管理」を獲得しています。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!

ーーー

【注目!:中原研究室のLINEを好評運用中です!】
中原研究室のLINEを運用しています。すでに約9900名の方々にご登録いただいております(もう少しで1万人!)。LINEでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記のボタンからご登録をお願いいたします!QRコードでも登録できます! LINEをご利用の方は、ぜひご活用くださいませ!

友だち追加

ブログ一覧に戻る

最新の記事

2024.12.8 12:46/ Jun

中原のフィードバックの切れ味など「石包丁レベル」!?:社会のなかで「も」学べ!

なぜ「グダグダなシンポジウム」は安易に生まれてしまうのか?

2024.12.2 08:54/ Jun

なぜ「グダグダなシンポジウム」は安易に生まれてしまうのか?

2024.12.2 08:12/ Jun

【無料カンファレンス・オンライン・参加者募集】AIが「答え」を教えてくれて、デジタルが「当たり前」の時代に、学生に何を教えればいいんだろう?:「AIと教育」の最前線+次期学習教育課程の論点

2024.11.29 08:36/ Jun

大学時代が「二度」あれば!?

「人事界隈」にあふれる二項対立図式の議論は、たいてい「不毛」!?

2024.11.26 10:22/ Jun

「人事界隈」にあふれる二項対立図式の議論は、たいてい「不毛」!?