2018.10.30 06:44/ Jun
研修やセミナーの効果測定として、あなたは「何」を測定していますか?
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今日の話は「研修の効果測定」についてです。「研修の効果測定」は、人材開発業界の永遠のテーマであり、これだけ語るだけで、おそらく15コマの講義ができちゃいそうな分野ですね。
というか、本当は、この内容自体が、そもそも「無理ゲー」なのです(自爆)。
1.企業は、研修の効果測定だけに人手やコストは避けない
(統計的な解析はできるひとがほぼいない)
2.実験群と統制群をつくることは、ほぼ不可能
(その研修が「よい」から導入している。よいなら全員にやれ、といわれる)
3.ランダムで被験者を割り付けできない
という状態で「効果を厳密に明示しろ」と言われても、「はー?何、言ってくれちゃってんの?そんなの、無理ゲーですがな」状態であるとは、少し学んだことのある人は、すぐにわかります。
しかし、それでも、「小うるさい上」はどこにでもいるものです。
「上から、やれ」と言われたらやらなければならないのが、サラリーマンの苦しいところ。こういう「無理ゲー」につきあわされて、困惑した方は、少なくないはずです。
そこで、おそらく注目されるのが「研修の満足度」です。
研修終了時にアンケートなどをとり、研修の満足度を5段階評定で把握する。これをもって、研修の効果測定を行ったとしているとします。
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しかし、僕は、この「満足度」というものには、疑問をもっています。
なぜか?
それは「満足度は、研修講師が容易に操作できるから」です。
5段階評定で測定している満足度なら、0.3から0.5くらいなら、いとも簡単にあげることができますので、ぜひ、試してみてください(笑)。
以下は、いわゆる「悪!?のマニュアル」としても読むことができます(笑)。
(本当は、下記は「悪のマニュアル」ではありません。研修講師は、研修終了時に、研修参加者の自己効力感(やればできる感覚)をあげることも求められます。なぜなら、研修終了時の自己効力感は、研修転移を促進するからです。ですので、下記に書いてあることは、自己効力感を高める努力と述べることもできます。本質的な問題は、自己効力感と満足度が、なかなか峻別できない指標である、ということでしょうか。よかれと思って、自己効力感を高めるために行っている努力が、研修満足度の操作に結果としてつながってしまうということかもしれません)
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研修の終了時を今から再現します。
アンケートを答える前に、10分程度の「ふりかえり」と称するワークを講師が入れます。
講師からのインストラクションは、下記のとおりです。
講師「今日はたくさん、学びましたね。皆さん、本当にお疲れ様でした。今日の学びを、より確かなものとするために、今から、ペアになって、今日学んでもっとも役にたったな、現場にかえって使えそうだな、とおもったことを共有してみましょう」
ーペアワークー
講師「それでは、皆さん、今日の研修で、何が役立ったのか。どんな点に満足なさったのか、を、何名かのひとに発表してもらいたいと思います。クラスで、今日の研修のお役立ちポイントをシェアしましょうね。そうですね、研修の最後に、せっかく発表をしてくれますので、皆さん、発表が終わったら、拍手でお願いします。拍手のコツはTKGです。しっていますか? TKGは、強く、細かく、元気よくですね。さぁ、一度だけ練習してみましょうか」
ー強く、細かく、元気よく拍手ー
講師「ありがとうございます。それでは、ぜひ、今日の研修、何がお役立ちのポイントであったかを発表してもらいましょう」
ー研修に満足してくれていそうなひとに、発言をもとめ、クラスで意見をシェアさせるー
ー発表が終わるごとに、拍手ー
講師「今日はこれで研修をおえます。皆さん、本当にありがとうございました。じゃあ、最後に、事務局からアンケートがあるみたいですね。今日の研修で役立ったかどうか、ぜひ答えてくださいね。ありがとうございました」
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いかがでしょうか?
これだけの操作で、満足度は、おそらく、上がると思います。
たった、これだけです。
講師からのインストラクションは「研修がよかったこと」「研修が役立った」と思われることを前提に行います。ペアワークを組み、お互いに「研修がよかったこと」「研修が役立ったこと」を交換させます。さらに、クラスで意見をシェアさせるだけで、おそらく、研修の印象は、少しずつ補正をしていきます。だめ押しは「強く、細かく、元気よくの拍手」です。これで、気分は「アゲアゲ」です。
「今回の研修は、自分としては、あまり満足できないな」と思えたひとでも「役だったのか?」「何が使えそうか?」をひたすら問われれば、「この研修はよかったな」と思ってきがちなものなのです。「3」をつけようと思っていたひとは「4」をつけるかもしれません。
このように研修の満足度は、いとも簡単に「操作」できます。 ですので、僕はあまり信頼していません。
(繰り返しになりますが、誤解を避けるためにもう一度申し上げます。研修講師は、研修転移(研修で学ばれたことが実践されること)を促すために、研修のクロージングで、受講生の自己効力感をあげることにつとめます。受講生の自己効力感は、研修で学ばれたことが実践されることに正の相関をもつことは、すでに、先行研究で繰り返し述べられていることです。ですので、研修後というものは、一般に、どうしても「ハイ」になりやすいのです。これは研修講師の仕事のひとつなので、やむをえないことです。
問題は、その直後のいわば「ハイ」の状態のときに、同時に「研修の満足度」というものを測定し、それを「研修の成果指標」としてしまうことにあるのだと思います)
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また、研修の満足度は別の問題も抱えています。こちらの方が、より本質的な問題かもしれません。
最大の課題は、「研修の満足度」を気にするあまり、「耳の痛いことを言えなくなる」ということです。研修の満足度をあげたいと思ったら、相手のためを思っていうべきスパイシーな指摘をなるべく少なくすることです。
研修のなかで「のどに小骨がつっかえたようなモヤモヤ感」・・・しかし、本当は、本人が向き合い、抱えていただかなければならない自分の課題のようなものを生み出しては、満足度はあがりません。そういうものは研修の満足度を下げるものとして排除されます。
ちなみに、だからこそ、僕自身が企画にかかわる研修では「満足度」は、僕自身は「把握」しません。
たとえば、美瑛で行われている地域課題解決プロジェクトでは、満足度は、1度もとったことはありません。
把握することに積極的な意味を感じないからです。
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今日は「研修の満足度」は、僕は疑問に思っている、という話をいたしました。
じゃあ、どうするか?
そこで出てくるのが「研修の転移を測定する」という視点です。
研修の転移とは、「研修で学んだことが、いかに職場で実践されたか」とい視点です。
具体的には1問ー3問程度でいいので、職場に戻ったあとの参加者ないしは上長に、「研修で学んだことを、実践したか」「研修で学んだ内容で、実務に何をいかしたか?」を問うことも、その一計です。
自動でメール配信を行い、ほんの1問ー3問程度であれば、お応えいただけるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。このあたりは、また研修転移の話題のときにでもしましょう。
あなたは、研修の効果測定として、何を測定していますか?
そして人生はつづく
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【重版御礼】新刊「研修開発入門ー研修転移の理論と実践」がダイヤモンド社から刊行され、重版が決定しました。研修転移とは「研修で学んだことを、いかに現場で実践し、成果を残すか」ということです。この世には「学べてはいるけれど、研修転移がない研修」が多々ございます。そのような研修の効果性をいかに高め、いかに評価するのか。「研修転移の理論と実践」の両方を一冊で兼ねそろえた本邦初の本だと思います。どうぞご笑覧くださいませ!
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