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2018.9.6 06:49/ Jun

チームメンバーと「目標を握るんぢゃい!」と意気込んでいても、さっぱり「目標が握れない」理由!?

 プロジェクトチームや職場を率いていくためには、いったい「何」が必要か?
     
  ・
  ・
  ・
    
 ものの本を開いてみれば、おそらく、どの本にも、こう書いてあるはずです。
     
 チームワークには「目標を握ること」がとてつもなく重要です。
  
 へーほーはーふーん。
 ま、そうだよね。
 ま、わかる。
 だよね。
 わかるー。
  
  ・
  ・
  ・
   
 しかしよくよく考えてみれば「目標を握る」というのは、明らかに「比喩」です。
    
 まず「目標」は、手で把持できるような「構造物」ではありません。
 うそだと思うなら、メンバーで手をだしあって、目標を握ってみてください。目標が紙に書いてある場合は、握れることもあるかもしれませんが、多くの場合、実際は、「目標は握れない」でしょう(笑)。
 なぜなら、多くの場合、目標は、リーダーやメンバーの「頭の中」にあるからです。それは「心の構造物」であり「想像の存在」なのです。
  
 また「握る」の主語は、チームメンバーのようでもあり、チームメンバーとリーダーのようでもあります。えっ、握るって、おれが握るの? えっ、おれは握らせるの?
    
 ここで「目標を握る」というメタファには「怪しさ」がつきまとっていることがわかります。
 目標を握るって、本当は、誰が何をすることなんだっけ?
 つまり、そこには「曖昧さ」が残るのです。
  
  ▼
  
 何が言いたいか、というと「目標を握る」というメタファだけ聞いて、
  
 へーほーはーふーん。
 ま、そうだよね。
 ま、わかる。
  
 となってしまうと、
  
 実は「わかっていない事態」に陥りやすいです。また、その先にあるのは「目標の握ること」は頭ではわかっていても、「実践できない事態」になってしまいがちです。
  
 端的に申し上げれば、
  
 チームメンバー「目標を握るんぢゃい!」と意気込んでいても、目標が握れない事態にハマッちゃうよ
  
 ということです。
  
  ▼
  
 目標を握る
  
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  ・
    
 チームワークや職場を率いるために、とてつもなく重要なこの行動を、それでは、いかにとればいいのでしょうか。外的に観察可能なかたちで、より主語を明確にすれば、目標を握るとは、下記のプロセスなのかな、と思います。
 今回のゼミ合宿では、あるビジネスケースの検討を通して、学生たちとそんなことを話し合いました。なかなかよいケースディスカッションができました。それだけこの問題は、学生たちの身近にも、サークルやバイトや、授業のなかのグループワークで起こることなのでしょう。
    

      
1.握る前に「聞く」
・リーダーがメンバーに「現在のチームの成果とチームワークのあり方」を聞くこと
・リーダーがメンバーに「自分としては目指したい目標」を聞くこと
    
2.握る前に「思いを吐露する」
・リーダーがメンバーに「現在のチームの成果とチームワークのあり方」として思っていることを述べること
・リーダーがメンバーに「自分としては目指したい目標」として思っていることを述べること
    
3.目標を「すりあわせる」
・リーダーとメンバーの情報の「共通点」をさぐりつつ、「共通の目標」を見いだしていくこと
・リーダーが掲げる目標が必達であるならば、その方向にリーダーがメンバーの思いを「意味づけ・方向づけて」いくこと
・とにかくリーダーとメンバーで「時間をかけること」
  
4.目標を「繰り返す」
・メンバーはともすれば「目標」をすぐに忘れがちなので、リーダーがメンバーに何度も何度も目標を連呼し、常に同じ船に乗っている状況を保つこと
  
5.目標を「握り返す」
・リーダーとメンバーの目標がずれてきたら、何度でも目標のすりあわせをリーダーとメンバーで行い、共通の目標を設定すること
  
6.目標を「評価」する
・折に触れて、以前に設定した目標をリーダーとメンバーで振り返り、新たな目標設定を行うこと
  
 ざっと考えただけで、「目標を握る」とは、6つの要素に分解できます。このように目標をにぎるとは、「実に複雑で、実に泥臭く、実に地道で、地べたをはうような行動」だったんだよね。
  

  
 ここで、もっとも重要なことは、メンバーの視点にたつことです。
  
 メンバーの視点にたてば、
  
 目標は「忘れ去られ」がち
  
 だし
  
 目標からは「心が離れていき」がち
  
 なのです。悪気はないんだけど、「そんなもん、ありましたかいの?」とハナクソをほじりながら、聞いちゃうようなもんなのです・・・残念ながら、目標というものは(笑)。
  
 だから、リーダーは「目標をすりあわせる」「目標を繰り返す」「目標を握り返す」など、あの手この手を使って、目標を握らなくてはなりません。目標を握るとは、現場レベルで考えていくと、実に細かいプロセスなのです。
  
 目標を握れー
  
 とだけ連呼しても、
   
 目標は握れないよ(笑)
  
 目標を握るとは「メンバーと握手して、はい終わり」と言ったような単純な行動ではありません。
 目標を握るとは、実に複雑で、実に泥臭く、実に地道で、地べたをはうような行動プロセスです。
  

    
  ・
  ・
  ・
  
 ここからは自戒をこめて申し上げます。
  
 リーダーの皆様、メンバーと「目標」を握っていますか?
 今、握っていると思っている「目標」は、本当にメンバーにも「握られて」いますか?
 もしかすると、握っているのは「あなただけ」ではないですか?
  
 そして人生はつづく
  

  
  ーーー
  
新刊「女性の視点で見直す人材育成」(中原淳・トーマツイノベーション著)が、ついに刊行になりました。AMAZONカテゴリー1位「企業革新」「女性と仕事」。女性のキャリアや働くことを主題にしつつ、究極的には「誰もが働きやすい職場をつくること」を論じている書籍です。7000名を超える大規模調査からわかった、長くいきいきと働きやすい職場とは何でしょうか? 平易な表現をめざした一般書で、どなたでもお読みいただけます。どうぞご笑覧くださいませ!
  

  
  ーーー
  
2018年10月31日(水曜日)朝の10時あたりから夜の5時まで、【組織開発を1日で理解するための講義】を、都内(ベルサール神田)で開催することになりました。新刊「組織開発の探求」出版記念です。中村和彦先生(南山大学)とわたしが2人で登壇します。主催がダイヤモンド社さん、共催がODNJさん、経営学習研究所です。
  
 組織開発とは、いったい何で、どのような「とりくみ」なのか?
 どのような「事例」があり、どのような効果が期待できるのか?
 どのような歴史で発展して、どのような課題をもっているのか?
 そして人材開発と組織開発は、どのような関係にあるのか?
 企業の現場では、従来とは異なる、どのような組織開発が生まれているのか?
  
 について数百名の皆様と考えるきっかけになればと思います。
  
以前に行ったものと基本的に内容は同じですが、今度は、書籍を参照・読みながら、「組織開発を学びたい」と思います。もうそろそろ申し込みがはじまると思いますので、ご興味をお持ちの方は、どうかスケジュールの準備をお願いいたします。
  
  ーーー
  
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