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2018.8.30 06:54/ Jun

「野ざらしにされたままの組織調査」が「もったいないおばけ」を呼び起こしてしまう理由

 この世には「野ざらしにされたままの組織調査」があふれています。
   
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 ここで組織調査とは「360度フィードバック調査」とか「多面評価」とか、マネジャーの管理能力を測定し、本人にフィードバックするようなものや、いわゆるES調査(Employee Survey)、従業員調査とかいった類いのものをさします。教育業界ならば、「学生による教員の授業評価」なども、これに含まれるでしょう。
  
 組織内の状況、組織内のメンバーの行動を「見える化」するために行われたはずの組織調査。ものすごく労力をかけて実施されたのにもかかわらず、この結果が「野ざらし」にされている。野外に放置されたまま、風雨にさらされ、朽ちかけている。
  
 ここで「野ざらし」というメタファを用いて語った状況は、「組織調査で明らかになった結果が、本人や関係者に適切にフィードバックされずに、放置されている」ということです。
 本来ならば、本人や関係者が、組織調査でわかった結果を見て、解釈して、自己の行動などを振り返り、将来・未来の行動計画づくりをするといったことが行われなければならないのですが、これが行われない。これが「野ざらし」です。
  
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 「野ざらし」の最悪の状況とは、結果は、本人には「手渡されない=通知されない」という状況です。これは組織調査を実施する側の人間が、結果を本人や関係者に手渡したときにおこるハレーションを恐れて、行わないことがほとんどです。
  
 じゃ、何のために調査するの?
  
 というツッコミをしたくなりますが、これに類する状況は、意外とあります。
  
 ここまではいかなくても、よくおこるのは、関係者や本人に「手渡す」だけにしてしまう、というものです。「会議で回覧するだけ」というものも、よく起こることですね。
  
 中には、調査結果の結果を解釈し、しっかりと振り返りを行い、今後の自分の行動補正を行う人も少なくないとは思いますが、多くは、そうはなりません。
  
 おそらく、問題のあるひとほど、
  
 へーほーはーふーん、ま、こんなもんだよね・・・
  
 といったかたちで、組織調査が示す結果に「華麗なるスルー」をかまします。
  
 よって、組織調査を行っても、問題の状況が、何も変わらない、何も変化しない、といったことが常態化するのです。
  
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 組織調査で明らかになった結果というものは、誤解を恐れずいえば「数字の羅列」でしかありません。
  
 そこにたとえば「平均値とのズレが1.3ポイントあった」ということがあったとしても、それをどのように「意味づける」かによって、今後が変わります。
  
 平均値とのズレが1.3ポイント「も」あったので、「行動を補正」しなければならない
  
 と考えるのか
  
 平均値とのズレが1.3ポイントは「あるけれど」、これは「誤差の範囲」だろう
  
 と考えるのか
  
 平均値とのズレが1.3ポイントは「あるが」、これは評定者が「アホ」だからしょうがない
  
 と考えるのかは、大きく差がでてきます。
  
 つまり、「数字の羅列」は、そのままでは「現実を変えません」。
  
「数字の羅列」は、本人や関係者に解釈され、意味づけられ、そのうえで、行動を振り返り、未来を構想したときに「のみ」、組織内に変化を生み出します。
   
 つまり、組織調査そのものは「変化」を生み出しません。組織調査からつながる変化とは「社会的に構成される」ということになるのです。
  
 だから「野ざらしにされた組織調査」とは、現実を何一つ変えませんし、将来をつくりません。
  
 組織調査は「やること」よりも「その後」が大切なのです。
「数字の羅列」よりも「数字をいかに意味づけるか」が勝負を握ります
  
  ▼
  
 今日は組織調査のお話をしました。
  
 この世には、多大なる労力をかけたのにもかかわらず「野ざらしにされたままの組織調査」があふれています。そして、野ざらしにされ、風雨にさらされ、腐りかけているものもある。
  
 まことに「もったいない」ことです。
 このままだと、「もったいないおばけ」でちゃうよ。
  
 
(もったいないおばけです。ドヘタすぎて、卒倒しそうです。図工2ですみません。)
  
 あー、もったいねー、もったいねー。
 でも、懐かしい(笑)。
  

   
 そして人生はつづく
  
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