2018.7.5 06:07/ Jun
「お地蔵さんワーク」というものがあります。よくコーチングや部下育成などを取り扱う管理職研修で、よく用いられるワークです。とてつもなく有名なワークなので、おそらくやったことのある人もいるのではないでしょうか。
お地蔵さんワークの内容は、下記のようなものです。
1.参加者を1対1の「ペア」にします
2.参加者1が、今週あったことを、参加者2に対して照会します
3.参加者2は、あいづちもうなずきもアイコンタクトもせず、腕を組んで参加者1の話を3分聞きます
4.3分たったら参加者1は、参加者2からどのような印象を受けたのかを、参加者2に対して話します
このワークの含意は、「お地蔵さん=あいづち+うなずき+アイコンタクトなしで腕を組んで話をきくこと」になると、相手にはまことにものすごい威圧感を与え、相手は「話す気が失せる」というものです。このことを「お地蔵さん的反応」をもって「体感する」というのが、このワークの含意です。
一方、上司やリーダーになる人は、部下やメンバーの「話を聞くこと」を行わなくてはなりません。
このワークでは、リーダーや上司たるもの、
「お地蔵さんになってはいけないよ」
ということを伝えようとします。別の言葉を用いるならば、「聞く」とは「相手に対する積極的な関心の提示」であるということですね。
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ところで、このワークはとてもよく行われるものですが、ひとつ「弱点」があるようにも思います。
それは、
「お地蔵さんワーク」が、研修の中での「ワーク」そのもので終わってしまう
というものです。
要するに、
「あー、そうそう、研修でお地蔵さんになったよね。相手にお地蔵さんになられると、キッチーよね」
「そうそう、あれ、キチー、キチー(きつい)」
が学ばれたものになってしまい、この学んだことが「現場の実務で、なかなか活かされない=現場では、相変わらず、お地蔵さんになってしまう」ということですね。もちろん、頭では「お地蔵さんになってはいけない」ということは、わかっているのです。
しかし、このワークだけで
「どんなときに、どんなシーンで、お地蔵さんになってはいけない」
か、具体的にイメージできる人は、そう多くはありません。
ということは、研修では「お地蔵さんになってはいけないこと」を学びましたが、実際に「どんなとき、どんなシーンで」お地蔵さんになってはいけないかを学んでいないので、結局、現場では「お地蔵さんになってしまう」ということになるのです。
要するに、
お地蔵さん、いっちょあがり!
です(笑)。
つまり、
「研修で学ばれたもの」が、実務の現場で「活かされない」=研修転移しない
ということになるのですね。
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これに対して、先日、慶應MCCの授業で御一緒させていただいた島村公俊さん、鈴木英智佳さん、関根雅泰さん(研修転移の理論と実践の著者陣)らは、有名な「お地蔵さんワーク」に改良を重ねて、より転移しやすいものに、変えておられたことがまことに印象的でした。「改良版お地蔵さんワーク」です。
改良版お地蔵さんワークでは、まず、参加者の役割を具体的に「新人指導を行わなくてはならない先輩社員」と「先輩に業務報告をしなければならない新人」の2つに設定します。このことで、学ばれたことを「転移」させたい場面を、具体的にいたします。
その上で、
1.指導役の参加者1は、PCないしはスマホで、座ったまま、ある短い文章をひたすら打ちながら、新人の話を聞きます。新人役へのアイコンタクトやうなづきは行ってはいけません
2.新人役の参加者2は、指導役に声をかけ、「立った」まま、指導役に、今年一週間の自分のスケジュールを話して、アドバイスをもらうようにします
3.3分たったら新人は、指導役の態度からどのような印象を受けたのかを、指導役に対して話します
もうおわかりですね。わからない場合は、すみません、お三方に、直接、聞いてみてください(笑)
「お地蔵さんワーク」の「活用シーン」をより「具体的」に設定することで、どのようなシーンで、これが用いられるのかを学ばせようとしているのです。
島村公俊さんらは、「研修開発入門ー研修転移の理論と実践」の著者ですので、こうしたことが「得意」だとは思うのですが、はたから見ていて「なるほどなぁ」と思ってしまいました。
面白いですね。
たった「ひと工夫」で、研修転移が促されるようになる可能性があがるとは。
▼
今日は「お地蔵さんワーク」のことを具体的な事例にしながら「研修転移のための工夫」についてお話をしました。
世の中には、研修で学ばれてはいるけれど、転移していない=現場で活かされていない内容が、3600万件くらいあるようです(笑)
ほんのすこしの工夫で、研修転移が増すのだとしたら、よいことですね。
あなたの研修で学ばれたものは「転移」していますか?
そして人生はつづく
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新刊「研修開発入門ー研修転移の理論と実践」がダイヤモンド社から刊行されました。研修転移とは「研修で学んだことを、いかに現場で実践し、成果を残すか」ということです。この世には「学べてはいるけれど、研修転移がない研修」が多々ございます。そのような研修の効果性をいかに高め、いかに評価するのか。「研修転移の理論と実践」の両方を一冊で兼ねそろえた本邦初の本だと思います。どうぞご笑覧くださいませ!
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