2018.7.3 06:00/ Jun
※7月4日(水曜日)のブログは所用のため、お休みいたします。明日またお逢いしましょう!
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「この本は、長く読み続けられる本になるだろうな」
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これが、本書を読んだあとに真っ先に思った「直感」です。
組織開発の泰斗であるブッシュさん、マーシャクさんが編著にたずさわれ、このたび南山大学の中村和彦先生が翻訳を進められた「対話型組織開発」を読みました。この本は、2015年の大学院中原ゼミで、大学院生と、一部の章を読み進めていただけに、ざっと読み終えることができました。
本書は、対話型組織開発(Dialogic Organization Development)について論じた大著です。
前半部では、対話型組織開発を支える哲学的基盤・理論的基盤(書籍の中ではマインドセットとされています)を議論しつつ、後半部では、その実践について実務家が様々な角度から論を展開している構成になっています。
本書を読み進めるうえで、キーワードになってくるのが「診断型組織開発」と「対話型組織開発」という2つの対照的な概念です。
診断型組織開発とは、
1.モダニズムの思想(実証主義)を理論的背景としつつ
2.客観的な組織のデータ把握とそれに基づいた対話こそが
3.組織変革にとって重要であると考える組織開発のあり方
をいいます。これは、1960年代から伝統的に継承されてきた「組織開発」の考え方ともいえるでしょう。古典的で、伝統的な考え方です。
対して、対話型組織開発とは、
1.解釈主義や社会構成主義などのポストモダニズムの思想を哲学的基盤にもち、
2.組織メンバーによる対話や交渉のプロセスこそが、「組織の現実」を構成しており
3.組織変革とは、そうした人々の語り方が変わることによって成し遂げられる
と考える、新たな組織開発のアプローチをいいます。
うーん、難しいかなぁ(笑)。
もしよろしければ、下記の解説もどうぞ。余計こんがらかるかもしれませんけれども。
この世には「やりっぱなしの組織調査」があふれている!?:現場に1ミリの変革も生み出さない「残念な組織開発」
https://www.nakahara-lab.net/blog/archive/3172
このあたりは、1980年代ー1990年代に人文社会科学をおそった「ナラティブターン」や「ポストモダンの思想」についての背景知識を必要とするかも知れません。ただ、本書では、それらを比較的平易に論じております。
とりわけ編者のブッシュさん、マーシャクさんがお書きになった1章「対話型ODのマインドセット」、2章「対話型ODの実践」はおすすめです。
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本書「対話型組織開発」は、深遠なテーマを扱いつつも、極力読みやすくする努力がなされている「良著」であると感じます。
しかし、一方で「対話型組織開発」という「概念」そのもののについては、なかなか考えさせられました。
「ポストモダンの思想を旨とする伝統的な組織開発」に対して、新たなアプローチを表象する概念に「対話型」という接頭語をつけてしまったことで、「対話型組織開発」そのものへの「誤解」を「誘発」しやすい構造になっているのです。これは、編者ら自身も理解していることと思います(あくまで概念自体の問題です・・・本書の内容を毀損するものではありません)。
書籍を一読して「問題の根源は何か」と考えたとき、その問題とは、いみじくも翻訳者の中村和彦先生が「訳者あとがき」で「ひと言」で述べておられるなと思います。
中村先生によれば、
診断型組織開発とは、組織開発の実践者がクライアントを「診断」するアプローチで、対話型組織開発は「対話」するアプローチである
というのは「よくある誤解」だといいます。
しかし、これは本当に「よく耳にする誤解」であり「間違い」です。そのことを端的に中村先生は下記のように指摘します。
中村先生によれば、(「診断型組織開発」であろうと「対話型組織開発」)であろうと、
「対話が行われない組織開発」は「存在しません」
つまり、診断型組織開発であろうと、サーベイを行ったあとで、それらの知見は、組織メンバーに返され、メンバーの間で「対話」がなされます。もちろん「対話型組織開発」もしかりです。
しかし、ここで伝統的な「診断型組織開発」に対して、新たなアプローチを「対話型組織開発」と名付けてしまったことで、「診断型組織開発には対話がないのだ」という誤解を生み出すもとになってしまったのではないか、と思いました。
また「対話型組織開発」という概念にはさらに難しさもともないます。「対話が行われない組織開発は存在しない(組織開発は対話である)」というのであれば、「対話型+組織開発」とは「対話型+対話」とでも解釈できるものになってしまいます。
だって、組織開発というものがそもそも「対話」なのだとしたら、
対話型の組織開発=対話型の対話による組織づくり
でしょう。
つまり、「対話型組織開発」という概念に「トートロジー(同語反復)」が含まれてしまうのです。これが、おそらく「対話型組織開発」という概念が誤解されがちなところかと思います。
おそらく、「診断型組織開発」は「モダニズムの組織開発」、「対話型組織開発」は「ポストモダンの組織開発」といいかえれば、しっくりくるのですが・・・でも、それじゃ、あんまりか(笑)。
いずれにしても、「対話型組織開発」という概念自体には、いろいろ「再考の余地」は残されているようにも感じますが、しかしながら、それは本書の問題ではありません。
むしろ、本書では、それらの誤解に読者が陥らないように、用意周到に議論が積み重ねられており、そこで指摘されているのは、とても示唆にとむと思います。
ややマニアックな指摘かもしれませんが、もうひとつ「圧巻」なのは、「猛烈に気合いのはいった参考文献」です。
参考文献には「英語文献」が並んでいるのですが、そのうち「日本語訳が存在する英語文献」に関しては、翻訳書の紹介もしておられるのです。これは、中村先生は、猛烈に気合いを入れて、おつくりになられたのではないでしょうか。
参考文献を読んでいると、「組織開発を日本に広めたい」という先生のまっすぐで、熱いパッションが伝わってきて、熱いものがこみあげ、目にうっすら熱いものがこみ上げてきました。
参考文献リストを見ながら、涙を浮かべるひとも、珍しいとは思いますけれども(笑)。
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「対話型組織開発」、おすすめの一冊です。
この本は、長く読み進められる本になるかと思います。翻訳の労をとってくだった、南山大学の中村和彦先生に、心より御礼を申し上げます。貴重な書籍をありがとうございました。私自身、もう一度、学び直すことができました。
そして人生はつづく
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追伸.
なお、ポストモダンの思想や理論に関しては、敢えて敢えて選べば、下記の4冊をおすすめします。スルメのように何度も何度も味わいながら読むのがよいかもしれませんね。
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