2018.6.18 05:57/ Jun
「あの潮田(うしおだ)さんが、定年後に、もうひとつプロジェクトを実行しているらしい。それも、20代の現役大学生たちと一緒に、学校で、子どもたちに勉強を教えているそうだ。それに本もでるらしい。」
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そんな噂を耳にしたのは、たしか、今から5年くらい前のこと。
潮田さんとは「潮田邦夫さん」・・・元NTT東日本取締役法人営業副本部長、NTTドコモ常務取締役法人営業本部長、日本コムシス専務取締役ITビジネス事業本部長などを歴任なさったビジネスパーソンだ。
潮田さんをはじめて耳にしたのは、ちょうど今から20年前くらい。まだ潮田さんが、NTTにおられるときであったと思う。10年くらい前から、様々な機会でおつきあいがある。
思い起こせば、20年前。当時は、「知識創造経営」が真っ盛りの時分で、潮田さんは、様々な人々の知恵が交わり、出会いが生まれる「フリーアドレス制のオフィス」を、NTT東日本内につくっておられた。
「オフィス」を単なる「仕事場」としてとられるのではなく、「人と人が出会い、知恵が生まれる場所であり、能力を高めあう場所」であると再定義なさっているところが、最高に興味深かった。
道を歩けば「シェアオフィス」にあたる「今現在」のことではない。今からおおよそ20年くらい前のことである。潮田さんのコンセプトが、当時、いかに「新しかった」か。その先見の妙には、尊敬の念を禁じ得ない。
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その潮田さんが「定年退職」だという。
あの潮田さんのことだから、定年後に、おとなしく家にいるわけはない、と思っていたが、やっぱりそうだった。
忘れた頃に、一年に一度くらい研究室を訪れる潮田さんが、定年数年後に、口にしたのは、意外なことに「学校教育現場の支援」だった。
「先生、おれさ、こんど、新しいことやりはじめててさ。ちょっと聞いてくれよ」
僕は、潮田さんが、まさか「学校教育にかかわり」をもたれるとは思っていなかった。それも、20代の若者とともに。
潮田さんが、若い大学生らと取り組んだのは、「地域」と「学校」をつなぐ試みであり、子どもたちへの「学習支援」だ。企業の一線で活躍したビジネスパーソンと、大学生がコラボレーションをしながら、子どもたちに向き合う。
潮田さんは「地域学校協働活動」として、2012年から「東京江東区・三砂中支援の会」に参加し始めた。平成28年度には「地域学校協働活動」推進に係る文部科学大臣表彰を受賞もなさっている。
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興味深いのは、「三砂中支援の会」の活動は、子どもたちだけが「学ぶ」のではない。子どもたちだけが「メリット」を享受するわけではない、ということだ。メリットや学びは、企業退職者や、かかわる大学生にもある。
企業退職者からすれば、後世の育成につくすという「新たな活躍の舞台」を得ることができる。
就職や進学などに悩む大学生にとっては、企業退職者と出会うことによって、人生の先輩から様々な経験を聞くことができる。
要するに「三方よし」なのである。
もちろん、「子ども」にとっても、日々、「子ども」と相対している先生にとっても、メリットはある。
このことは、かつて、僕のブログでも紹介したことがある。
数学につまづきを感じる中学生をサポートする「シニア隊」と「ヤング隊」!?
https://www.nakahara-lab.net/blog/archive/7182
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「地域学校協働活動」は、今現在、多くの自治体、多くの学校で実践されている。
しかし、自治体や学校によっては、支援そのものが継続されなかったり、支援する住民側と学校側に齟齬が生まれたり、さまざまな課題を抱えているようだ。
潮田さんは、ヤング(ヤングと潮田さんがいうので、死語だとは思うが、敢えて使う)である中野綾香さん(東大大学院)という共著者をえて、このたび、本を書くことになった。
本書が、多くの企業退職者、就職や進学に悩むヤングたち(?)、そして地域学校共同活動、学校支援活動に悩む人々に読んでいただけることを願っている。
定年後、ビジネスパーソンには「永遠とも思えるような時間」がある。
カミサンと温泉にはいってゆっくり暮らす
庭いじりをして、ゆっくり暮らす
気の置けない仲間とゴルフにでかける
そんな時間もいいだろう。
しかし、そういう時間は「一瞬」だ。定年後の長い長い時間を考えれば「一瞬」であることに気づかされる。
2日も3日も、カミサンと風呂にはいっていては「ふやけて」しまう(第一、多くのカミサンはいやがる)。
庭いじりだって、毎日していれば、手入れをする枝はなくなる。ゴルフだって、費用もかかるので、毎日はいけない。
要するに、定年後の人生は、まことに「長い」。試算によれば、人が会社でオフィスでいる時間の3倍以上の時間を、定年後、過ごさなくてはならない、という試算もある。
あなたは、定年後、何をしますか?
新たな人生を「地域」で進められる人々が、増えていくことを願っている。最後になりますが、本書の執筆の機会を与えてくださった学事出版の二井豪さんにこの場を借りてあつく御礼を申し上げます。潮田さんと中野さんの本が、より多くの方々にお読みいただけることを願っています。
そして人生はつづく
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地域×学校×退職者×大学生×…=∞
地域学校協働活動参加のすすめ
潮田邦夫・中野綾香 編著
地域と学校が連携すればみんな楽しくなる! 元NTTドコモ役員と東大院生が中心となって進めた三砂中の実践を中心に、地域と学校の連携の新たな在り方を提案する。
目次
まえがき
プロローグ 学校支援活動「スタートチェック」
第1章 「らしくない」学校支援活動―従来の枠を越えた「三砂中支援の会」の魅力―
1 にぎやかで自由な学びの空間―新しい学習支援の在り方―
2 自分が活躍する場としてのボランティア活動
3 子どもの笑顔の秘密―あふれる笑顔が学びにつながる―
4 ボランティア参加者がボランティアを続けたくなる理由
5 ボランティアへの一歩を踏み出そう
【コラム1】学校支援組織立ち上げから現在まで
「子どもの居場所を大切にする学校支援組織の立ち上げ方」
第2章 「らしくない」学校支援が学びを変える
1 「らしくない」とは?
2 「教育委員会発」ではない「地域発」の活動―地域住民が主導する学校支援地域本部の立ち上げ―
3 常識にとらわれない地域コーディネーター・ボランティアの構成
―地域住民×大学生×企業人という今までにない多様性―
4 学習支援の場が居場所となる
【コラム2】管理職が語る学校支援活動の魅力1
「地域と共にカタチづくる学校の在り方」
第3章 学校支援活動は難しくない―学校支援地域本部設立のための13のギモン―
1(地域から)「学校支援を一から始めるにはどうしたらよいでしょうか」
2(学校・地域から)「興味はありますが、新しいことを始めると拘束時間が増えそうで不安です」
3(地域から)「卒業以来、学校とはかかわりのない人生でしたが、
学習支援に興味があります。学校支援地域本部に立ち上げに向けて、学校への相談はどうすればよいでしょうか」
4(地域から)「学校支援地域本部を設置した後、学校との活動の擦り合わせをどうすればよいでしょうか」
5(学校・地域から)「相手方の意見に賛成することができません。その場合どうしたらよいでしょうか」
6(学校・地域から)「学校支援ボランティアを入れることで、誰でも学校に入ってきやすくなり、子どもの安全管理が難しくなるのではないでしょうか」
7(地域から)「取り組みたい学校支援活動がありますが、学校の要請があるまでは提案を待ったほうがよいでしょうか」
8(学校・地域から)「地域コーディネーターは、学校と地域とをつなぐ役割を担うと聞きますが、この人材をどのように確保すればよいでしょうか」
9(地域から)「地域コーディネーターになりましたが、何をしたらよいか分かりません」
10(学校・地域から)「学校支援ボランティアはどのようにして集めればよいでしょうか」
11(地域から)「学習支援の内容はどうすればよいでしょうか」
12(地域から)「昔の教え方や学習指導要領しか分かりませんが、学習支援に参加することは可能でしょうか」
13(学校・地域から)「学校支援活動中に生じたトラブルには、どのように対処すればよいでしょうか。また、責任の所在はどうなりますか」
【コラム3】管理職が語る学校支援活動の魅力2
「参加者全員にメリットのある学校支援活動」
第4章 みんなが得する「三方よし」のカタチ―学校支援活動が各々にもたらすメリット―
1 「三方よし」
2 学校と子どもが得するカタチ
3 地域コーディネーターとボランティア参加者が得するカタチ
【コラム4】地域コーディネーターが語る学校支援活動の魅力
「子どもと共に学びの楽しさを味わう」
第5章 「地域×学校」は大きな教育効果をもたらす!
1 アンケート調査からみる「地域×学校」の効果
2 学校・保護者の協働活動の促進
【コラム5】実践者が語る学校支援活動の魅力1
「家庭と学校をつなげる情報の役割」
第6章 もう一歩発展させたい方々のために
1 学校支援活動の道のりはステップ・バイ・ステップ
2 図書室開放で居場所づくり
3 考査前学習でテスト対策
4 「英検・漢検チャレンジ」で発展問題に挑戦
5 キャリア教育で勉強の意義を知る
6 地域イベントで地域住民と交流
【コラム6】実践者が語る学校支援活動の魅力2
「無理なく、楽しく活動する」
第7章 「地域×企業」が学校の刺激になる―企業退職者が「地域×学校」の効果を促進させる―
1 企業退職者がなぜ必要なのか
2 なぜ企業退職者が注目されるのか
3 企業退職者がかかわるとこんなに変わる!
4 企業退職者はどうやって活動に参加していくか
【コラム7】
「振り返ったらそこに『地域』がある」
エピローグ オリジナルの学校支援の場をつくる―新たな学校支援活動への4つの提案―
【提案I―企業退職者へ】退職、第二の人生、ゴルフ三昧ではもったいない!
【提案II―大学生へ】大学生は暇? 活躍する場はたくさんある
【提案III―先生方へ】「勉強だけが子どもの仕事? たくさんの経験から視野を広げてみよう
【提案IV―学校へ】「地域×企業」による学校支援活動が、多忙感解消の糸口となる
あとがき
付録 学校と地域の連携を知るための資料とキーワード
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