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2018.6.6 05:46/ Jun

「頑張れ!行けー!そこだー!」では人が成長しない、たったひとつの「理由」!?:あなたは「評価の言葉」をどの程度持っていますか?

 人材開発の観点からすると、
   
 評価とは「伸びる方向性を決めること」
  
 です。
  
「評価の基準を定める」とは、「どういう方向に、人が伸びていって欲しいのかを決めること」に他なりません。また実際に「評価をする」とは、「伸びている方向性の妥当性と将来性を、本人に通知し、その方向性を立て直すこと」でもあります。
  
 ところで、最近、たまに気になるのが、
  
 人が「他人の行動を評価を行うときに用いる言葉のプアさ」についてです。
  
 これは自戒を込めて申し上げます。
 どちらかというと、ネクラで口べたな僕は、あまり、他人の気持ちを動かすような評価ができません(いつもモンモンとします)。そうした自分の「へたっぴっぷり」をきちんと「ゲロ」ったうえで、この話題について、以下、お話ししようと思います。
  
  ▼
  
 評価とは「人が伸びていって欲しい方向性を決めること」であるのに、そこで用いられる「言葉」はあまりに「プア」ではないか
  
 今日の話題はこれです。
  
 まず、多くの場合、陥りやすい罠は
 
 「評価の言葉が曖昧である」
  
 ということです。
   
 そうね、なんか、さっきの、いいんじゃない
  
 とか
  
 うーん、そこで、バーンといったんで、悪くないんじゃない
 
  
 とにかく頑張れ、行け行け、そこだー
 
 では、「何がよかったのか」さっぱりわかりません(笑)。
  
 要するに、用いられている言葉かけの「評価の言葉が曖昧」すぎて、何がよかったのか、何が反省点なのか、さっぱりわからないのです。
  
「評価の言葉は、SBI(Situation:状況 – Behavior:行動 – Impact:成果)」とはよくいいますが、
  
 Situation:状況 どういう状況で
 Behavior:行動 どういう行動や考え方が
 Impact:成果 どのようによいのか、わるいのか?
  
 を明示しなければ、それを聞く人は、何を改善していいのか、何を継続してよいのかがわかりません。
  
 評価の言葉のプアさは、まず「曖昧さ」にあらわれる。
  
  ▼
  
 しかし、「そもそもの問題」として、
  
 僕たちは「評価する言葉の引き出し」をあまり持っていない
  
 というものがあります。わたしたちの評価が「曖昧」になってしまうのは、そもそも他人を評価する言葉を、私たち自身が持ち合わせていないのではないか、という仮説です。
  
 たとえば、ビジネスシーンでは、
  
 あいつは「ビジネススキル」足りてないね
  
 という物言いがよく聞かれます。
  
 でもね・・・「ビジネススキル」って言われても、何をどうしてよいかは、わかりません。
 戦略を描く力がないのか、部門間の調整を行ったり、交渉をすることができないのか。はたまた、メンタルを維持することができていないのか・・・それこそ「ビジネススキル」という言葉は、「まるっと」としていて、なにを指しているのかわからない。
  
 それは、英語に苦手意識がある子に
  
 あの子は「英語力」イマイチね
  
 と言っているように思うのです。
  
 「英語力」って言われても・・・何していいんだか、わからない。
  
 ライティングに課題があるのか、ボキャブラリーに課題があるのか、はたまたヒアリングが足りてないのか、スピーキングができないのか、そのあたりを改善するためには、具体的に、自分が「どんな課題を持っているのか」を明示しなくてはなりません。
  
 僕たちは、他人を評価する言葉の引き出しを、どの程度、持っているのだろうか?
 その引き出しの多さ、バリエーションについて、ちょっと思いを馳せてしまいます。
  
  ▼
  
 ご迷惑がかかる可能性があるかもしれないので、お名前は差し控えますが(いつも貴重なお話をありがとうございます)、スポーツに造詣の深い方から、せんだって、ある話を伺いました。
  

「中原さん、XXのスポーツで有名な「ほげほげ選手」が、そのスポーツの本場の「ちょめちょめ国」に行って、今、選手生活をしているのは、なぜだかわかる?」

  
 運動音痴で逆上がりは中2になってはじめてできた「体育2」の小生は、こんな風に答えました。
  

「それは、「ちょめちょめ国」は、そのスポーツの本場なのだから、ライバルになるような選手がたくさんいるからでしょう。選手の層が厚ければ、切磋琢磨してうまくなるんじゃないですか」

  
 その方は、こう答えました。
  

「それもあるかもしれない。でも、たぶん、それだけじゃない。スポーツの本場には、そのスポーツのプレーの出来、不出来を評価する言葉が発達していて、コーチや監督は、たくさんの言葉の引き出しをもっている。
  
同じプレーの評価でも、本場では、それを評価する言葉が、たくさんある。ちょうど、寒帯に住む民族が、「雪」の種類を、数十種類見分ける言葉を、もっているのと同じように。僕らは雪といえば、ひとつかもしれない。しかし、本場では雪は、数十種類に見える。
  
スポーツの本場には、言葉が発達している。僕らには、ひとつに見えるプレーでも、スポーツの本場では、数十種類のプレーに見える

  
 いつも、まことに興味深い話をありがとうございます。
 評価する言葉のバリエーションをもつ、ということのパワフルさとは、こういうことです。
  
  ▼
  
 今日の話題は、「評価する言葉のバリエーションとプアさ」についてでした。
   
 あなたは、他人を「評価する言葉の引き出し」をどの程度もっていますか?
 頑張れ! いいんじゃない? いけー を連呼し続けてはいませんか?
  
 そして人生はつづく
 
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