NAKAHARA-LAB.net

2018.5.21 05:56/ Jun

「仕事を減らして空き時間をつくっても、仕事がどんどん増えていく」ちょっぴり背筋が寒くなる理由とは何か?

「業務改善をして空き時間が生まれたら(≒残業を減らしたら)、何をしますか?」
「そうですね・・・仕事をしますかね」
  
  ・
  ・
  ・
  
 昨年度から、中原研究室では、横浜市教育委員会と、いわゆる「教員のみなさまの働き方」に関する共同研究(調査研究)を開始させていただいていました。
  
 せんだって、この調査結果の「第一報」を下記Webサイトから公開させていただきました。第一報は、まだまだ分析途上のものですが、もしご興味がおありでしたら、ご覧いただけますと幸いです。
  
横浜市教育委員会 × 立教大学 中原淳研究室 共同研究のページ(この後さらに整備がすすむ予定です)
http://www.edu.city.yokohama.jp/tr/ky/k-center/nakahara-lab/
   
教員の「働き方」や「意識」に関する質問紙調査の結果(PDFへの直接リンクです)
http://www.edu.city.yokohama.jp/tr/ky/k-center/nakahara-lab/txt/180514_hatarakikata.pdf 
  
  ▼
  
 週末、風呂にはいっていたとき(よく風呂場で思いつきます!)、ある質問項目を分析することを思い立ち、プロジェクトリーダーの辻和洋君に連絡をさせていただきました。本当は自分でやりたかったのですが、あいにく週末は出先だったので、できなかったのです。辻さんが機転を利かして、さっと分析してくれたのが、冒頭の内容です(感謝です!)。
  
 その分析とは、
  
「業務改善をして時間ができた場合(=残業を減らした場合)、あなたは何をしますか?」
  
 という質問項目に対するものです。
  
 我々の手持ちのデータによると、
  
「業務改善をして時間ができた場合(=残業を減らした場合)、あなたは何をしますか?」
  
 という項目に対して「仕事をします」と回答なさった先生方の割合は、就業時間が長くなればなるほど、多くなる傾向を確認することができました(まだ検定などは行っていません)。
   
 まだ確たることは言えないものの、ここに「長時間労働を是正することの難しさ」があるのがおわかりいただけるかな、と思います。
  
 だって、仕事を減らしたら、仕事を増やすんだから(泣)
     
  ▼
  
 すこし冷静になって考えればおわかりのとおり、
  
「業務改善をして空き時間が生まれたら、またそこに仕事をいれます」
  
 というのは、「せっかく減らした業務時間」を、「またもや増やしてしまう行為」です。
  
 本来ならば、この質問項目に対しては「余暇につかう」とか「家族と一緒に過ごす」とか「学び直しのために使う」とかいう項目が増えても、おかしくありませんが、実際はそうはなりません。就業時間の長い先生であればあるほど、「どんなに仕事を減らしても、新たに仕事を入れてしまう」傾向があるのです。
  
 論理的に考えれば、
  
「仕事を減らしたら、何したいですか?」という項目に対して「仕事をしたいです」と回答するのは、かなり「非論理的」なようにも見えます。
  
 しかし、就業時間が長く、そうした生活が常態化していくと、こうした「非論理的な回答」が、増えていく傾向が見えます。  

 さて、皆さんにご質問がございます。
  
 皆さんは、
  
 仕事を減らしたら、仕事をしますか?
  
  ▼
 
 ここ数年、僕は、横浜市教育委員会さんやパーソル総合研究所さんと「長時間労働と学び」などに関する研究を行っていきます。いま、それらの知見は鋭意分析を行っておりますが、いくつか感じ始めた確信のひとつに、「長時間労働の中毒性や依存症的傾向」がございます。
 
希望の残業学(パーソル総合研究所さんとの共同研究)
https://rc.persol-group.co.jp/zangyo/
    
パーソル総合研究所×東京大学 中原淳准教授 「希望の残業学プロジェクト」 会社員6,000人を対象とした残業実態調査の結果を発表
https://rc.persol-group.co.jp/news/201802081000.html
      
 さまざまな分析を通して、最近、なんとなく思っていることは、長時間労働は、ある種の「中毒」のようなものなのかもしれないなということです。
 長時間労働を続けていると、人は、だんだん「長い出口のないトンネル」のようなものに入ったかのようになり、周囲を見渡しリスクを勘案することや、論理的な回答を行うこと、などから遠のいていく傾向が見受けられます。
これは、横浜市教育委員会の研究チームでも、パーソル総合研究所の研究チームでも、共通して見受けられた症状です。
  
 いったん、トンネルビジョンにはまり込んだ場合、これを抜けだし、通常の視野に転換するためには、かなりの「解毒」が必要な気がしますが、いかがでしょうか。
  
 いずれのプロジェクトにおいても、志ある共同研究者の皆さんと、さらに分析を深めていきたいと願っています。
 そして人生はつづく
  
  ーーー
   
新刊「事業を創る人の大研究」(田中聡・中原淳著)、発売10日で重版決定、AMAZONカテゴリー1位(リーダーシップ、オペレーションズ)を記録しました。本書は、「人と組織」の観点から、「新規事業づくり」を論じた本です。新規事業に取り組む人をどのように選び、どのように仕事を任せ、そして支援していけばいいのかを論じています。イノベーション人材、次世代経営人材を育成している教育機関の方にもおすすめの内容です。どうぞご笑覧くださいませ!
  

  
  ーーー
  
【注目!:中原研究室のLINEを好評運用中です!】
 中原研究室のLINEを運用しています。すでに約7000名の方々にご登録いただいております。LINEでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記のボタンからご登録をお願いいたします!QRコードでも登録できます! LINEをご利用の方は、ぜひご活用くださいませ!
      
友だち追加
   

ブログ一覧に戻る

最新の記事

2024.12.8 12:46/ Jun

中原のフィードバックの切れ味など「石包丁レベル」!?:社会のなかで「も」学べ!

なぜ「グダグダなシンポジウム」は安易に生まれてしまうのか?

2024.12.2 08:54/ Jun

なぜ「グダグダなシンポジウム」は安易に生まれてしまうのか?

2024.12.2 08:12/ Jun

【無料カンファレンス・オンライン・参加者募集】AIが「答え」を教えてくれて、デジタルが「当たり前」の時代に、学生に何を教えればいいんだろう?:「AIと教育」の最前線+次期学習教育課程の論点

2024.11.29 08:36/ Jun

大学時代が「二度」あれば!?

「人事界隈」にあふれる二項対立図式の議論は、たいてい「不毛」!?

2024.11.26 10:22/ Jun

「人事界隈」にあふれる二項対立図式の議論は、たいてい「不毛」!?