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2018.1.15 06:11/ Jun

多様性の時代をサバイブできない「擬音語上司」にご用心!

「そこんとこは、まるっと、やっといてよ」
「あの件は、どかーんと、もっといてよ」
「あの仕事、パシッとやっといてね」
「あの数字をさ、しれっと、いれといてね」
   
  ・
  ・
  ・
  
 擬音語や擬態語を多用する上司やリーダーというものがいます。ここで「まるっと」「どかーん」「ぱしっと」「しれっと」とここで述べているのは、それです。
  
 まー、ここまで極端な場合は少ないでしょうが(笑)、「擬音語上司」「擬態語上司」は、必要な言葉をはしょり(省略化し)、なんとなく伝わるかもな、という「擬音語」や「擬態語」で、曖昧な指示をだします。
  
 こうした会話は、実際問題、わたしたちの日常会話では、あふれています。そして、「これまで」はよかったのです。
 わたしたちは、いわゆる「高文脈文化(High Contextual Culture)」を生きているため、指示が不明瞭であっても、そのあたりは「忖度」をおこない、「ノリ」や「空気」を読みながら、「まるっとやり」「どかーんともり」「パシッとやり」「しれっといれとく」ことができたのです。
  
 何ら明瞭な指示はなされていなくても、これまでの経緯や、上司の好き好みを考えると、だいたいこんなものだろう、と高度な推量を行い、仕事をしていくことができるのです。
  
 しかしながら、こうした高度な推量や「忖度」が不可能な人がいます。
  
 すぐに思いつくのは、「経験の浅い入社・入職したての人」です。新入社員や入社した手の中途採用社員などが、これに該当するでしょうか。
 彼らは、そもそも推量や忖度を行おうにも、文脈をいまだ共有していません。ですので、「まるっと」「どかーん」「ぱしっと」「しれっと」という指示では、仕事を行うことが難しいのです。
  
 上司の方も、昨今は働き方改革の影響で、とてつもなく忙しい。「今、話かけんじゃねーオーラ」を出しながら、ひたすら仕事をしている人も少なくないでしょう。経験の浅い入社・入職したての人が、そんな上司に声をかけ、「まるっと」「どかーん」「ぱしっと」「しれっと」の意味するところを聞くことは、かなり難しいものです。
  
 もうひとつは、そもそも、日本文化を共有しない様々な文化背景をもった人々です。これらの人々は、「まるっと」「どかーん」「ぱしっと」「しれっと」というそもそも「語感」を共有していない可能性が高いものです。ですので、たとえ、彼らが文脈を共有していたとしても、「忖度」は行うことのできる可能性が減少します。
  
 あとは、文脈を共有できるくらい、上司とともに職場で一緒に仕事をしていない人です。短期間勤務を任された人人、スポットで職場に一定期間契約された人などが、これに該当するでしょうか。こうした人は、文脈を共有しようにも、そもそも職場での勤務時間が限られているため、それができません
  
 要するに、多様性の時代にはいっていけば、「擬音語上司」「擬態語上司」ではかなり厳しいのです。上司が「相手と共有できていると感じている文脈」は、もしかすると、もう「共同幻想」でしかないのかもしれません。
 多様性の時代にあっては、「擬音語」や「擬態語」をもちいて、あとは相手の解釈力にゆだねていた「曖昧な指示」を、より「具体的」に行っていく必要があるのかもしれません。
  
  ▼
  
 今日は、多様性の時代を生きる、これからの上司やリーダーが必要とする「言語能力」について、敢えて「擬音語」や「擬態語」というものを持ち出してお話をしました。擬音語や擬態語をここまで多用する人もそう多くないでしょうから、今日の話は、「たとえ話」です。

 要するに、言いたいこととは、
  
 多様性の時代とは、文脈に甘えることができないということ
 また、忖度にゆだねることはできないということ
  
 というシンプルなことですね。

 言うのはかんたんですが、これはなかなか難しい。しかし、望むと望まないとにかかわらず、わたしたちは、大変な時代を乗り越えていかなければならないようです。
   
 今週も、一週間、頑張りましょう!
 そして人生はつづく
  
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