NAKAHARA-LAB.net

2017.6.2 06:50/ Jun

「残業すんなよ、でも、〆切は明日の朝までな」という「働かせ方改革」に僕らがゲンナリする理由!?

「働き方改革」という言葉、聞けばきくたび、白けませんか?
「働き方改革」と叫ばれるたびに、なんか、皆さん、ゲンナリしませんか?
     
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 昨夜は慶應丸の内シティキャンパスでの授業「ラーニングイノベーション論」でした。ラーニングイノベーション論は全13回で「人材開発の基礎知識」をひととおり学ぶことのできるコースです。今年で第9期、おおよそ250名くらいの卒業生がすでに巣立っています。
      
 昨夜は、学習院大学の守島基博先生におこしいただき、「日本型戦略人事と人材開発のあり方」についてご講義をいただきました。守島先生におかれましては、お忙しいところご出講いただき、本当にありがとうございました。
    
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 守島先生のご講義は「企業の戦略」と「人材開発」のあり方に関する指針を短時間でまとめてくださる、素晴らしいものでした。先生のご講義は、私自身、毎年学ぶところが多く、楽しみにしているところです。今年は、昨今、人事業界で進行する「働き方改革」というコンテキストも踏まえての内容としてくださいました。心より感謝いたします。
    
 僕個人が非常に印象的だったのは、
   
 本当の「働き方改革」は、働く人の働きがい、ワクワク感、成長などに繋がるべき
 逆に、これらがない改革は「働き方改革」ではなく「働かせ方改革」
    
 というご指摘でした。
   
 これは、最近、僕自身が考えていることとまさに合致しており(恐縮です)、我が意を得たり、と思いました。
   
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 実は、僕は最近、パーソル総合研究所さんと共同研究で、「希望の残業学プロジェクト」というプロジェクトを行おうとしています(プロジェクトの正式名称はまだ決まっていませんが、僕が単に、そう読んでいるだけです)。
 これは、いわゆる「働き方改革」のプロジェクトで、まさに「はたらいて、笑おう」というパーソルさんの理念を底流にもつプロジェクトであると思っています。
    
「希望の残業学」プロジェクトは、「残業イコール希望」なのではもちろんありません。また同時に「労働時間を単純に一律カットすることイコール希望」というわけでもないところがミソです。
 
(キャッチーに)残業学とは名乗っておりますが、このプロジェクトの「希望」は、「長時間労働のその前後」にあるのです。
     
「希望の残業学」プロジェクトにおいて「長時間労働の抑制・時間の使い方」は見なくてはならないものの「ほんの一部」でしかありません。
   
 まず大前提として
   
0.組織的になされる(思慮のない)長時間労働の強制抑制策が、いかに組織と個人に影響を与えるか?をみます。ここで特にみたいのは「副作用」です(=これが、みんながゲンナリして、白ける理由のひとつだと思います)
      
 昨今進んでいる「働き方改革=働かせ方改革」は、
  
 残業すんなよ、でも、〆切は明日の朝までな
 早く帰らなきゃ電源落とすぞ、でも、仕事のやり方はこのままな
  
 と言われているものが多いように思います(思慮のある会社のそれは違うと思いますが・・・)。
  
「強制的に発動される長時間労働」は、たしかに必要なところもあります。しかし「強制的に発動される長時間労働」を行うのなら、それ以外の「職場のマネジメント」「個人の生産性の向上」などをセットで行わなくてはなりません。そうでなければ、単純に「労働強化」につながってしまうからです。

 しかし、一般には「強制的に発動される長時間労働」以外は、何一つ変わっていないのに、時間内に終わらせることだけを求められる(最近、あまり成果がでていない、金曜日休みなさい施策もこの延長上ですね)。この不条理な命令が、いかなる悪影響を個人と組織にもたらすのか。これをしっかりと探求します。
      
 その上で、
  
 「長時間労働の抑制・時間の使い方」の「前後」の要因をしっかりと探求するのです。本来変わるべきもの、追求するべきものは、その「前後」にもあるのです。
  
 具体的には、
  
1.長時間労働につながってしまう理由は、どのような職場マネジメントの機能不全によってもたらされるか?(=これは長時間労働の規定要因をさぐることです:長時間労働の「前」)
    
2.長時間労働の抑制(主観的水準、客観的水準の2つをもうけます)を行うことで、個人と組織にはどのような影響がもたらされるか?(=これは長時間労働の抑制の成果をさぐることになります:長時間労働の「その先」)
  
 といったものを見ようね、というお話をしています。
 1を見ていけば、職場のマネジメントの機能、管理職の管理行動を見直すことになります。また、個人の働き方の改善の問題もでてくるかもしれません。2を見ていけば、経営的にも、個人的にも、働き方改革に取り組む理由が見いだせるはずです。
  
 そして、2の要因の一部こそが、今回、守島先生から問題提起をいただいた部分、
  
 本当の「働き方改革」は、働く人の働きがい、ワクワク感、成長などに繋がるべき
  
 ということです。
  
 本当にめざされるべきは、長時間労働の「ずっとずっと先」にあるものなはずです。
「はたらいて、笑おう」は、おそらくその根幹をなすもののであるという思いを強く持ちました。

 そう、この問題は、結局、僕がこれまで探求してきた「職場におけるマネジメントと働きがい、成長実感の関係」に直結しているのです。そして、それこそが、私たちは「希望」だと思います。
  
 働き方改革をやらされるということに、抵抗のある人、少なくありません
 僕たちは、働いて、笑いたいだけなのに
  
  ▼
  
「希望の残業学」プロジェクトは、まだはじまったばかりです。今年度中には何とか研究成果はまとまるものと思います。来年度には、さらにこのプロジェクトの成果を現場、社会にお届けできるよう、努力していきたいと思います。  
   
プロジェクトでご一緒するのは、小林祐児さん、田井千晶さん、青山茜さんです。皆さんと、しっかりと話し合いながら(コラボ楽しみにしています&お声がけ感謝です!)、社会課題解決に資する研究を行っていきたいと願っています。
  
  一方、同時に、本年度、中原研では横浜市教育委員会さんとともに「子どもと向き合う時間づくりプロジェクト」も進めています(このプロジェクトの底流に流れている思いも同じですね)。こちらは、横浜市教育委員会・教職員育成課、立田順一さん、柳澤尚利さん、外山英理さん、根本勝弘さん、そして前育成課長の松原雅俊さんとでプロジェクトを進めています。
  
「子どもと向き合う時間づくりプロジェクト」がはじまります!:「教師 × 働き方改革」の先にひろがるものは何か?
https://www.nakahara-lab.net/blog/archive/7592
  
 両プロジェクトを通じて、多角的に、この問題に、チャレンジしていきたいと考えています。
 そして人生はつづく
   
 ーーー
   
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