2017.5.12 07:03/ Jun
研修やセミナーなどで「講師」として登壇する場合には、「ステータス管理」というものを行わなくてはなりません。
「ステータス」という英語の意味は、文字通り「状況・立場」ということになります。ここでは、その言葉を「ステータス=相手にあわせて、自分がその場で採用する相対的な社会的位置」と把握しましょう。
ワンワードでいうと「ステータスが高い」とは「自分の社会的位置>相手の社会的位置」であるjこと、「ステータスが低い」とは「相手の社会的位置>自分の社会的位置」ということです。
これじゃ、もひとつわからないので(笑)、もう少し具体的に考えますと、社会人を対象とした研修やセミナーの場合には、ステータスを二軸で考えると、よいと思います。一軸目は「有能さ」という軸。二つ目の軸は「親しみやすさ」という軸です。下記では、それを考えてみましょう。
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「講師」が、社会人を対象にして、何かを教えるとき、まず大切になるのは「相手に、自分を信頼してもらうこと」です。
すなわち「この人についていって学んでも、大丈夫な人物か=仕事ができる人物か?」ということを、まずは示す必要があります。つまり、講師は、自らが「有能であること=教えるに足る知識・スキル・経験を十分もっていること」をとにもかくにも、提示する必要があるということです。
だっていやでしょ。
「こいつ、アホちゃうか?」
という人に教えられるのは(笑)
かくして、たいてい研修の冒頭では、講師やファシリテータが、自らの業務経験や保有している資格などを語ることになります。要するに、自らが「教えるにたる業務経験・知識・スキル」をもっていることをディスプレイしているのです。つまり、このとき、講師は、自らのステータスを上昇させることになります。
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しかし、「有能さ」だけですむのでしたら、社会人を教えるのは、さほど難しくはありません。
「有能さ」と相反するようですが、もう一方で、講師は「親しみやすさ」というものをディスプレイしなければならなくなります。
要するに、「自分が相手に友好的態度をもっており、サポートをする人物」であることを印象づける必要があるのです。多くの場合、「有能さ」だけでは場をひっぱるのは難しいものです。参加者の中には「シャッターをガラガラと閉じてしまう人」も少なくありません。
かくして、そのような場合、講師はいったん提示した「有能さ」のイメージを、「親しみやすさ」のイメージで、アップデートすることが求められます。つまり、ステータスを下げます。
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ちなみに、こうしたステータスの乱高下は、研修やセミナーが進行していくなかで、何度も何度も行われます。親しみやすさを演じるためにステータスを下げてみたり、フィードバックをしなければならないのでステータスをあげてみたり。
登壇する人は、常に、自らのステータスを気にしながら、コンテンツのデリバーを行う必要があります。
しかし、これは「気疲れ」をも生み出します。
「ステータスを乱高下させること」、すなわち、「自らの社会的ポジションが、常に不安定で定まらないこと」は、精神的な疲労につながるのです。社会学者ホックシールドならば、この状況に、いわゆる「感情労働の地平」を見るかもしれません。
「ステータスを乱高下させなければならない」ということは「役割演技」をともなうからです。
そして、適切な役割演技をしなくてはならないということは「常に相手をモニタリング」していなければならないからであり、「相手の状況」におうじて「自分を変えなければならない」からです。
さらに、こうしたステータス管理は、「ただちに」行われなくてはなりません。なぜなら、多くの研修やセミナーは数時間、1日といった単位で行われますので、「ただちに」信頼関係を構築しなければならないからです。
気疲れもするわな、こりゃ。
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今日は、社会人を対象とした研修やセミナーなどで、講師が行っている行動のうち、特に重要な「ステータス管理」について述べました。
子どもを対象にした学習場面では、ステータスは「教師>子ども」で固定していることが(相対的に)多いので、これほど、自分の立ち位置に敏感にならなくてもよいかとは思うのですが、社会人教育では、なかなかこれではうまくいきません。
小中学校の先生方や、大学の先生のなかで、「社会人を対象に教えるのはどうも苦手だ!」という方も、ままおりますが、その原因は「ステータスの管理に慣れていない」というのもおありなのかな、と思います。
「教えるもの>教えられるもの」という「固定化したステータス」のなかで教授を行えるのと、「ステータスを乱高下」させる中で、授業を行うのは、同じ授業でも、ちょっと違うところもあるような気がしています。
そして人生はつづく
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