2017.4.10 06:46/ Jun
教員にとって、学生から学ぶことは多いものです。
僕の場合は、大学院生指導を通して、学びを得ることが本当に多いと思います。僕にさまざまな知的刺激を与えてくれる大学院の指導学生には、心より感謝をしております。
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せんだって、ある大学院生さんの博士論文審査のあとで話題になった本がこちらです。
抱井尚子著「混合研究法入門ー質と量による統合のアート」(医学書院)です。早速、僕も注文して読んでみることにしました。
混合研究法(Mixed Method Research)は、近年、量的研究法と質的研究法という従来の二分法を超える研究法として注目されているものです。
かつてこの国には、質量論争というものがありました。
僕が学部時代だった、20年頃前は、そのまっただ中であったような気がいたします。
ポスト実証主義と共振する量的研究の研究者、そして、解釈学的アプローチに類する質的研究の研究者がするどく対立して、学会などで口角泡を飛ばしていたような気がします。
「量的研究では、リアルを救えない!数字屋に何がわかる!」
「質的研究なんて、エッセイにすぎない! 研究者が小説書いてどうする!」
といった具合にね(笑)。
僕は、当時としては、かなり珍しかったのかもしれませんが、質的研究もやらせてもらう機会もありましたし、量的研究にも触れるような機会がありました。なので、この手の論争は「僕は与しない」と決めていました。
僕は「研究アプローチを研究する研究者」ではなく「研究アプローチを使って研究する立場」の研究者なので、「どのように見るのか?(HOW)」は「何を見るのか?(WHAT)」とに応じて決めればいいんじゃない、と思っていました。
というよりも、正直にいうと、実際に自分がそのまねごとみたいのをしてみて、両方の方法の「いいところ」も「危なっかしさ」もひしひしと感じていたからかもしれない(笑)。
しかし、当時、そうした量的研究であるか、質的研究であるかは、「踏み絵」のようなものでした。
「パラダイム」という言葉が珍重され、両方を混ぜて研究することは「パラダイムコンフュージョン」として揶揄されました。
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それから20年・・・。
量的研究と質的研究をめぐる論争は、もはや色あせた感があります(少なくとも僕の目にはそう見えます)。
そこで10年くらい前から登場したのが「混合研究法」です。
本書によれば、混合研究法とは
混合研究法とは哲学的前提および調査方法を兼ねそろえた研究デザインの一形態である。方法論として、研究プロセスの多くの段階において質的・量的アプローチによるデータ収集、分析、および、混合の方向性を導く哲学的前提を備え、方法として、単一もしくは一連の研究において、質的・量的データを収集、分析、統合することに焦点をあてる。
混合研究法がもつ重要な前提は、量的・質的アプローチを組み合わせて使用することで、どちらか一方の研究アプリー知を使用したときよりも、研究課題に関するよおい理解が得られる、というものである
(Cresswell and Plano Clark 2007、同書 p54より引用)
ということになります。
混合研究法の特徴とは、
1. 量的・質的データを収集・分析する点
2. 厳密な量的・質的研究法を使用する点
3. 混合研究法デザインに基づき、データを統合する点
4. 場合によっては哲学的・理論的枠組みを利用する点
だそうです(Cresswell 2015、同書 p55より引用)
量的・質的研究法を両方用いるといっても、何の思慮もないかたちで混ぜ合わせては、あまり建設的な論理を生み出せそうにありません。それぞれのデータを収集し、統合するためには、それらを行うための研究のグランドデザインが必要になります。それが混合研究法であると思いました。
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これまで混合研究法に関しては、翻訳書がいくつか出されていましたが、本書はそれらを「メタ」に俯瞰し、コンパクトに論じた書籍だと思います。
混合研究法に興味をお持ちの方に、おすすめできる一冊だと思いました。著者には、よい学びの機会をいただき、この場を借りて感謝します。ありがとうございました。
今週一週間、新年度がはじまり、また怒濤のような生活になりそうです。
心穏やかでいられますよう。
そして人生はつづく
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