2016.11.11 07:15/ Jun
今学期の大学院・中原ゼミでは、「The SAGE Handbook of Organizational Research Methods」を皆で購読しています。
本書は、組織論、組織研究の「研究手法」に焦点をあてた論文をあつめた論文集です。
せんだっては、中澤さんに、同書の24章「Studying processes in and around organization(組織の内外でプロセスを研究することとは何か?)」をご報告いただきました。
こってりした内容だったので、大変だったのではないかと推察します。お疲れさまでした。
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今回みなで読んだ論文は「プロセスを見る」ということに焦点をあてた論文でした。
ここで、「プロセスを見る」とは
「質的な研究手法を用いて、組織の内外で、物事がうつりかわっていく過程や、そこで何度も出現するパターンを丹念にみていくこと」
であると考えられます。
多くの場合、量的研究手法では、局所的・共時的に切り取られた現実を「データ=要素」としながら、その要素間の「関係」を探究します(量的研究といってもいろいろありますが・・・)。
そこで見逃されるのは、「物事がうつりかわっていく過程」や「物事の移り変わりのなかで繰り返されるパターン」であることが少なくありません。本論文では、主に論じられていたのは、こうした問題です。
しかし、個人的に興味深かったのは、この論文の最後の方で触れられていた内容です。
本論文の最後には、
1.プロセス研究が「研究資金」の関係でやりにくくなっている
2.プロセス研究と研究者のキャリア形成の問題
など、かなり生々しい現実にも章があてられていたことでした。
曰く、現在のアカデミズムでは、
研究資金の出資期間が短くなっていること(=すぐに成果をださなくてはならない)
競争的資金が増えていること(基盤研究費というものが減少し、常に資金をとってこなくてはならない)
などから、プロセス研究がなかなか生まれにくい土壌が生まれつつあると思います。
これがどの程度、日本の現状にもあてはまるのか、興味深いところです。
また、指導教員の中には、プロセス研究をすすめない方もいらっしゃるといいます。
1.博士論文としてまとめるのは時間がかかる
2.そのそも学術論文にまとめるのは大変
だから
プロセス研究はやめたほうがいいのではいいのではないか
プロセス研究は、テニュアをとってからの方がやるべきではないか
と、自分の指導学生にアドバイスをする傾向があるとのことです。
中原研究室では、
1.見たいものによって研究方法論を決める
2.できれば質も量も、両方とも研究方法論を経験してもらうこと
を研究室の指導方針にしているので、そんなもんなんだな、と思って論文を読んでいました。
ちなみに、「プロセス研究はテニュアをとってからやるべき」といいますが、感覚的には「テニュアをとったら、日々の雑事に忙殺され、プロセス研究をする時間はなかなかとれないんじゃないかな」と思いましたが、いかがでしょうか。
ま、最後は、個々の研究者の努力と工夫の問題なんだろうけど。
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今日はプロセス研究を話題に、「研究者の仕事人生と研究方法論の関係」や「研究資金と研究方法論の関係」を考えてみました。世には、質的研究の書籍や論文は多々あれど、こうした視点で、生々しく問題の所在を論じているものは、そう多くはありません。
一般には、
研究方法論の選択は、「見たいもの」にあわせて合目的的に行われる
とされていますが、
実際は、研究を支える資金や、研究者のキャリアの影響を深く受ける、ということです。
この問題、彫り込んでいくと、なかなか香ばしい問題が噴き出してきそうです。
そして人生はつづく
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