NAKAHARA-LAB.net

2005.6.18 10:44/ Jun

どうやって講義すればいいんだろう

 先日、ファカルティディヴェロップメントの「大家」のNIMEの田口さんと(今長崎にいるらしい・・・あとなにやら写真撮影のポーズを決めるのにとっても忙しいようだ)、「僕の授業」について話す機会があって、よいセルフリレクションになったので、下記に記しておく。
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1.話す内容が減った&プレゼンの枚数が減った
 僕はいわゆる初任者である。講義をはじめて数ヶ月たつが、何が自分に変わったことの最大の点といえば、「話す内容が減った」ということにつきる。
 もともと、僕は今回の授業で「ビデオの視聴」と「お隣さん同士での話し合い」を半分はいれるぞ、と明言していたわけだから、僕自身が講義している時間は、ふつの授業に比べて圧倒的にすくないわけだけれども、それでも、話す内容はどんどんと減っている。そのかわり、話し合いや、ワークシートが増えたり、ビデオ視聴が増えたりしている。
 むしろ、今から考えてみると、最初のうちにつくっていたプレゼンテーションは過剰であった気がする。枚数も多いし、内容がしぼりこめてない。
 ひとりの人間が、160名を対象に話す。そのことで伝えられる内容なんて、たかがしれている。講義で話したことは、その多くが忘れ去られる運命にある。それなのに、僕は語りすぎていたような気がする。
 どうして語りすぎるかっていうと、「この話で何分くらいかかるなぁ」っていう見積もりが最初の頃はできないからである。だから、「話すことがなくなる」のは、とっても怖いから、過剰につくりこむ。枚数が増える。だから準備にもとっても時間がかかる。
 でも、慣れてくると、これがだんだんとわかってくる。そうすると、このあたりでたぶん時間になるな、とわかるから、過剰につくりこまなくてもよくなるのだろうと思う。
 あとアドリブがきくようになる。3分話すことのできるようにつくったスライドで、10分話すことも可能になる。これでずいぶん楽にはなる。
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2.しかし同時に…フラストレーションが
 1のように書いたが、これでめでたしめでたし、ではないのだ。1のような授業で、僕は最近フラストレーションがたまっていることを自覚している。「話すことが少なくなっている」のは、一見よいことに見えるのかもしれんが、実は僕は大いに不満だ。
 どんなに一斉講義がつまらなくても、学生に知って欲しいこと、学生が知らなければならないことはあると思う。基礎的な知識という言葉が適当なら、そう言ってもよい。それはどんなにオモシロクなくても、どんなに難しくても、知るべきである。
 人間がより発展的にモノゴトをしったり、見たり出来るようになるためには、時に、基礎的な知識をがっちり詰め込むことも重要なのだ。
 エリクソンだったか、誰かの言葉に「All I can do is to provide a way of looking at things(わたしにできるのは、モノゴトを見方を教えることくらい)」というのがあったと記憶しているが、そういう「a way of looking at things」を獲得するには、土台が必要なのである。
 しかし、ビデオ視聴や、作業、話し合いでは、これがなかなか難しい。つまり、こうした作業を通して、そういう知識を獲得してくれればよいのだけれども、それは絶望的である。話して終わり、やって終わり、見て終わりになりがちだ。いわゆる「はい回る経験主義」そのものになってしまう。
 もちろん、これは僕の責任である。インストラクションが悪いのだろうし、問いかけも悪いのだろう。しかし、このあたり、どうやって教えればいいのだろう。僕は教育学が専門だが、正直に告白する。
 僕はどうやってよいかわからない
 僕は悩んでいる
 また「話すことを少なくする」ということは、意図的に、難しい内容を省いていることでもある。だから、授業の内容は、ほんと教育学のさわりを「撫でる」ところまでしか、教えられない。
 正直に告白するが、僕の授業は浅い。でも、もし、これを深いところまで教えようとすると、ドツボにはまることになる。今、160名の講義で、寝ているのはたぶん5名以下である。これが3分の1になることは容易に予想がつく。
 このところ、マイクを握りながら、いつも思うことがある。
「あー、この部分、オレは1分で説明しちゃったけど、これってウソだよなー。オレ、ウソ教えてるよ。それにしても、浅いよなー。この問題の奥には、本当はもっと深い世界があるんだけどなぁ・・・。」
 そういう内なる声がいつも聞こえてきて、とってもフラストレーションがたまっている。
 なんか授業自体は結構、作業あったり、話し合いあったりで、盛りだくさんなのだけれども、生徒に何が残っているのだろうか、いささか心許ない。こんな「心許ない」教師に教えられる生徒さんが、一番、心許ないのだろうけど。
 —
 ということで、悩みは続く。
 あと2回で前期は終わるけど、後期、どうしようかなぁ・・・。
 アタマが痛いよ。

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