2016.6.23 06:28/ Jun
先だって、あるマネジャーさんとお話をしているときに、こんな話題になりました。
「先生、コーチングって知ってますか? いや、会社から、研修を受けろっていうからね、研修を受けたんですけどね。
あれ、どうなんですかね。教えちゃダメだっていうんですね。相手に気づかせるんだって。
でも、教えちゃダメっていわれてもね。知識もスキルも何にもない新人の内面を「まさぐって」も何にも出てきやしませんよ。教えたらダメっていわれても、教えなしゃーないでしょうが。
仕事、覚えられないですよ、そんなんじゃ。教えたらダメっていわれてもねー。先生、どうしたらいいですか?」
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ICレコーダを持っていたわけではないので、一字一句同じではないですが、このマネジャーさんがおっしゃっていたことは、こうした趣旨のことでした。
現場のマネジャーさんの言葉は、いつだって生々しく、魅力的ですね。
「コーチング=内面をまさぐる」(笑)。
この言葉から、なんか「淫靡な感じ」が漂ってくるのは、「おれたち妄想族」のメンバーである僕だけでしょうか(笑)。
この方のおっしゃりたいこと、ご主旨はよくわかります。
そして、このことは、僕が日々思っていた問題意識に近かったので、その方とは意気投合して、その後、どうしたらよいかを一緒に考えさせて頂きました。
素敵な時間をありがとうございます。
▼
僕は、研究柄、現場でヒアリングをさせていただくことが多々あります。
そのとき、この方に限らず、一般の現場のマネジャーさんから「コーチング」という言葉がでるとき、たいていでてくるのは、こうしたお話です。そして、こういう瞬間が出る度に、僕は思うことがあります。
それは日本の経営教育においては、
コーチングを「説明」するときに、「ティーチング」を「仮想敵」において語られることが多いのですが、そのロジックには「弊害」が多いのではないか? 現場に「呪縛」を生み出しているのではないか?
ということです。
典型的なコーチング導入の「ロジック」はこうです。
まず、
ティーチングは「一方向的に教えること」である
とする。
それに対して
コーチングは「相手に気づかせること」である
とします。
そのうえで、
ティーチングは「時代遅れなもの」「だめなもの」とおき、コーチングを「よきもの」として「価値」づけるロジックが展開されます
つまり、ティーチングとコーチングを「対極」にして、「コーチング」の有効性を主張するということですね。
要するに展開されているのは「振り子的ロジック」です。
それをやる「気持ち」はよくわかります。
「わかりやすい」し、説明もしやすい。
「わかりやすい」から「売れる」(笑)
しかし、このような「論証のロジック」が本当に、これでよいことなのかは、僕は、かなり疑問があります。
もちろん、それにかかわる多くの賢明な識者の方々は、こうしたロジックや演習のあとで、「ティーチング」の重要性も、同時に述べていらっしゃるのだと思います。
しかし、現場の方には、先ほどの「二極化された論証」がだけがどうしても「頭に残る」。
つまり、
ティーチングは「教えること」であり「ダメ」なもの
コーチングは「気づかせること」であり「よい」もの
という二極化された論証だけが頭から離れなくなるのです。
そして、冒頭に紹介された、件の現場マネジャーさんがそうであるように、そのことが「呪縛」になって部下指導の際に、とまどってしまう、ということが起こりえるのだと思います。
僕は「コーチング」の有効性を認めたうえで、「ティーチングが適しているか」か、「コーチングが適しているか」なんてケースバイケースだと思います。
「ティーチング」が「ダメ」で、「コーチング」が「よい」とは僕は思いません。
そんなものは「ケースバイケース」です。
大切なことは「コーチングという武器」をもつときに、「ティーチング」を放棄することじゃない。
しかし、多くの現場では「コーチングという武器をもたせる」ときに「ティーチングという道具を放棄させる」ロジックを展開している。
僕はこれが、ずっと疑問でした。
むしろ僕の主張は「逆」です。
むしろ、「教えなければならないとき」には、自信をもって、しっかりきっちり「教えきっていただきたい」と僕は思います。
そのうえに「コーチング」はあるから。
そのことと「コーチング」は矛盾しないから。
▼
実は、これによく似たロジックは、教育業界にも存在します。それは「アクティブラーニング」という言葉にまつわるロジックです。
一般に、
アクティブラーニングも、その導入に際して、「一斉授業」を「仮想敵」にして、自らを価値付け、その有効性を主張してしまう場合が多い
要するに
一斉授業は「教えること」であり「ダメ」なもの
アクティブラーニングは「ともに学ぶこと・発信すること」であり「よいもの」とする
ということです。
しかし、懸命な読者の方ならおわかりのように、「ともに学ぶこと・発信すること」を効果的になすために、堅牢な知識ベースが必要です。
要するに
「よいアクティブラーニング」を生み出すためには、「よい一斉授業」がなされなくてはなりません
それなのに、アクティブラーニングの導入の際には、「アクティブラーニング」という武器をもたせるときに、これまで慣れ親しんだ「一斉授業」という武器を放棄させてしまう。
こうした事例があとを立ちません。
だから、最近、現場でこんな言葉をよくききます。
「先生、これからは、一斉授業やったらダメなんですよね?」
「先生、これからは、僕が喋っちゃダメなんですよね?」
「おかしな話」だと僕は思います。
「アクティブラーニング」を売りたい側の「二極化ロジック」が、過剰に変なかたちで、現場を呪縛している。
そういうときは、そもそもに戻りましょう。
まず、大切なことは「目的」でしょう。
目的は、子どもや生徒を「脳がちぎれるほど、ともに、考えさせること」でしょう。
それが必要な「学び」でしょう。
そのための武器や道具が「一斉授業」であるか、「グループワーク」であるかは「ケースバイケース」だとぼくは思います。
ただし、これまでの道具は「一斉授業」にかたより寄りすぎていた。だから他の方法も、試行してみましょう。これまで持っていた武器と組み合わせて、「脳がちぎれるほど、ともに考えさせる」という目的を達成すればよろしいのではないか、と思いますが、いかがでしょうか。
この国には、今、「教えること」を「ダメ」とする呪縛が蔓延している。
そのことから、ぜひ、自由になっていただきたいな、と思います。
「教えなければならないとき」には、自信をもって、しっかりきっちり「教えきっていただきたい」と僕は思います。
そのうえに「アクティブラーニング」はあるから。
そのことと「アクティブラーニング」と何ひとつ矛盾しないから。
▼
今日はコーチングとアクティブラーニングの「導入」をめぐるロジックについて、少しだけ考えてみました。
誤解を避けるために申し上げますが、僕は、コーチングやアクティブラーニングがダメといっているわけではありません。
また、その有効性を疑っているわけではありません。むしろ、個人的には、アクティブラーニングやコーチングの「かなり味方」だと思います(笑)。
しかし、そのうえで申し上げるのは、「導入のためのロジック」にまつわる疑問です。
もちろん、それぞれの導入者の多くは、注意深く、それらを論証しているのかもしれません。
しかし、二極化の論法は、わかりやすい反面、現場に多くの疑問と呪縛を残してしまうことも、また「事実」です。
自戒をこめて申し上げますが、「極」にふった「振り子的議論」をするときには、ぜひ、気をつけていきたいものです。
今、日本の全国いたるところでは、
ロールプレイングゲーム(RPG)の中で、敵の面前で、「ナイフ」という武器がよいか、「槍」という武器がよいかを、口角泡をとばして、論じているようなこと
がおこなわれているように僕には思います。
そして「ナイフ」を手にした人は、「槍」を放棄させるみたいなことが平気のへーちゃんでおこなわれています。
しかし、一般に、RPGゲームの中で、新たな武器を手にした場合、古い武器は放棄しないですよね。
また、敵の面前で、武器の優劣を口角泡飛ばして論じるプレーヤーもいません。
あのね、そんなことしてると、やられるよ、あんた(笑)。
武器は、敵(目的達成)にあわせて、プレーヤーが選べばよいのではないでしょうか。
大切なのは、RPGゲームをクリアすることであり、目的を達成することです。
地に足をつけて、前をむいて「ラスボス」を倒すことに集中しましょう。
あのね、ラスボス、手強いんだよ。
(図工2が描くラスボス)
そして人生はつづく
ーーー
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