NAKAHARA-LAB.net

2016.2.27 08:34/ Jun

「議論の修羅場」を乗り切るためのプロセスコンサルタントになるためには、いったい何が必要か?:

 今週、僕は、プロセスコンサルテーションについて学ぶワークショップに参加させていただいておりました。
 プロセスコンサルテーションの開祖、マサチューセッツ工科大学のエドガー・シャインによれば、「プロセスコンサルテーション」とは、
「コンサルタントが、クライアントとの関係を築くことをベースにして、クライアントが自身の内部や外部環境において生じている出来事のプロセスに気づき、理解し、それに従った行動ができるようになること」
(エドガー・シャイン「プロセスコンサルテーション」より引用・一部改)
 です。
 もう少しわかりやすく説明を足していくと、先日のブログにも書きましたが、
 プロセスコンサルテーションの仕事場とは「議論の修羅場」
 です。
 より具体的には
1.利害関係の異なるようなステークホルダーたちが集まって行われる「議論の修羅場」に
2.彼らを支援することを目指しながら、ニュートラルな立場で立ち会い、
3.そこで起こっている出来事(プロセス)を、議論の参加者に伝えながら(ミラーリング)しながら
4.ステークホルダーたちの議論が「成果」につながるように
5.インタラクションをガイドする役割を担う
 というイメージをお持ちになるとよいのかな、と思います。
 すぐにおわかりになるかと思うのですが、ある組織のメンバーが自分たちの独力で「議論の修羅場」を何とか乗り切れる力があるならば、多くの場合、外部の人に「プロセスコンサルティング」を依頼したりはしません。
 要するに、
 プロセスコンサルテーションの仕事の現場とは、「もはや、自力では、にっちもさっちもどうにもブルドック?的な会議の場所
 であることが多いものです(笑)。
 別の言葉を借りれば、プロセスコンサルタントの活躍の舞台は「焼き畑的にもうすべて焼き払われていて、もはやペンペン草すらもはえないような場所」です(笑)。
 そして、多くの場合、
 プロセスコンサルテーションの仕事には「火中の栗」をひろうようなシンドサがついてまわる
 と思います。
 くどいようですが、「組織が上手く回っている」ならば、プロセスコンサルテーションをわざわざ外部の人に依頼する必要はありません。それが「できない」から外部に依頼することが多くなるのでしょう。
 ま、ブログなんで、多少は大げさかもしれないけど(笑)、そんなイメージでプロセスコンサルテーションを捉えていただければと思います。
   ▼
 かくして、プロセスコンサルタントは、このような「議論の修羅場」を乗り切り、そこで交通整理をしなくてはなりません。
 今回、わたしたちはメアリー・アン・レイニーさんというNTL(National Training Laboratory)の先生から、そのスキルを学びましたが、この数日を過ごしていて、つくづく考えたことがあります。
 それは
 プロセスコンサルタントになる(Becoming a process consultant)には何が必要か?
 
 ということです。
 もう少しひらたく述べるならば、
 プロセスコンサルタントになるためには、どのような個人的資質、知識、経験が必要なのか?
 を僕はずっと考えていました。
 やはり、小生、一応、人的資源開発が専門(キリッ!なんつって)でございますので、何をみても、「育成」に関するネタが気になって気になって仕方がありません。
 今出先で手元に文献がございませんので専門的な議論は差し控えますが、この1週間、レイニーさんと過ごしていて、僕は、少なくとも下記に関する知識や専門性は、この仕事には必要だと感じました。
1.とにもかくにも観察力
2.グループや人間行動に関する知識
3.倫理
4.場数
5.分厚い皮膚(メンタルタフネス)
 下記では、それらを1つずつ論じてみましょう。
  ▼
 まず1は「とにもかくにも観察力」です。
 会議に対して効果的な働きかけを行うためには、とにもかくにも、その会議で何が起こっているか、を正確に把握することが求められます。これが「観察力(Observation)」です。
 会議で話されている内容(コンテント)の流れはあたりまえとして、その会議のテーブルの下では、どのような人間関係や権力関係、そして意志決定のルールが「渦巻いて」いるのか。そうしたもの「観察力」を駆使して「データ」を収集しながら、ある「意図」をもち、適切な打ち手をうっていくことが求められました。
 メアリーさんは、私たちが行うプロセスコンサルテーションに対して繰り返し、
 何を観察したのか? どんなデータを収集したのか?
 どんな意図で行ったのか?
 何を行ったのか?
 を繰り返しフィードバックされてました。彼女の観察眼と解釈の確からしさは、すごいもので、時には「へー、そんなとこ、見てたんだ」と思ってしまうことがありました。
 また、彼女は言葉にも敏感で、
 「このセッションでは・・・という言葉は18回でてきていました」
 とカウントしていました。
 いずれにしても、おそるべき観察力だな、と思いました。
 わたしも大変ありがたいフィードバックをいただきました。心より感謝です。
  ▼
 2の「グループや人間行動に関する知識」は5つの要素の中で最も知識に近いところだと思います。
 特にこの講座で重視されていたのは、
 グループが形成されてから解消されるまで、グループのなかで、人は、どのような行動をとりやすいのか? 

 グループの中で、逃避・闘争・葛藤が生まれやすいのは、どのようなときか?

 に関する知識でした。
 僕たちは、これらの知識をいわばテンプレートとして使いながら、今グループの中でおこっていることを解釈することを求められました。知っているのと知らないのでは、グループに対する働きかけは変わってくるものと思います。
 
  ▼
 3つめは「倫理」です。
 これは特にこの講座で重視されていたことではないのですが、僕が個人的には非常に痛感したことです。
 人々の相互作用に時に介入するプロセスコンサルタントは、時に政治的謀略、政治的罠に巻き込まれます。また、そもそもが利害が渦巻く場面で介入を行いますので、悪意をもってコンサルタントが働きかけを行えば、人を傷つけたりしてしまう可能性がゼロではありません。
 特に非構成の会議体やそこで行われるプロセスコンサルテーションは「セラピー的な効果」を意図せずあたえてしまう可能性がありますし、そうであるならば、そこには「高い倫理綱領」があってしかるべきです。
 海外の組織開発のハンドブックや専門書には、必ず、倫理に関して論じるチャプターや教えるセッションが含まれているものです。
 あとで伺ったところによると、海外では、この仕事は大学院レベルの知識・専門性を有した人がつく仕事で、そこには倫理綱領が含まれているとのことでした。
 この仕事には、倫理に関する高い意識と、場合によっては、それらを再確認するリカレント教育(再教育)が、この分野には必須なのではないかと感じておりました。
  ▼
 4つめの「場数」と5つめの「分厚い皮膚」は、実際は「ひとつ」につながっている内容です。
 要するに、
 プロセスコンサルタントになるために絶対に必要なのは「場数=経験」であり、その経験を通じて「分厚い皮膚=メンタルタフネス」を鍛錬していくこと

 だと僕は思います。「分厚い皮膚(Thick Skin)」とは、メリーさんの言葉で、プロセスコンサルタントが身を守るための強靱さ、タフネスを表しています。
 もちろん「場数=経験」の中には、思い出したくもないような経験、身の毛もよだつ経験、修羅場の経験も含まれるでしょう。プロセスコンサルタントは、これらの経験を通じて、少しずつ少しずつ「分厚い皮膚=メンタルタフネス」を身につけていかなければなりません。
 メリーさんはいいます。
 プロセスコンサルタントは、どんなことが起こっても、話しあいの場所をキープする役割をもつ。何があろうとも、バウンダリーを守らなければならない。だから、分厚い皮膚を持ちなさい(コンテナとは組織開発の用語で相互作用がおこる場のことをいいます。バウンダリーとは、ここでは安全な場所のこととお考え下さい)。

(Process consultant has to stay here to keep the container. No matter what happened to you, you should keep the boundary. So that’s why you need the thick skin!)
 いかがでしょうか。
 プロセスコンサルタントとは、こんな仕事ですが、皆さんはなりたいですか?
 ▼
 今日の日記は、この1週間のリフレクションをかねたものでした。
 最後になりますが、ともに学んだ参加者のみなさま、主催者であられる南山大学人間関係研究センターの中村和彦先生、講師のDr.Mary Ann Raineyさん、通訳のMikikoさん、Megumiさん、事務の石川さんに心より感謝いたします。また一週間オフィスをあけて迷惑をかけた職場のみなさま、家をあけることを許してくれた妻、息子達にも感謝をいたします。
 本当にありがとうございました。
 今日、シャバにかえります。
■関連リンク
「議論の修羅場」をいかに乗り切るか!? : プロセスコンサルテーションを学ぶにはどうするか?
https://www.nakahara-lab.net/blog/2016/02/post_2564.html
 ーーー
※メリーさんの動画をYoutubeで発見(ただし英語です)。なぜチームに着目しなくてはならないのか?
Dr. Mary Ann Rainey: Group Dynamics in Teams

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