NAKAHARA-LAB.net

2015.12.8 06:06/ Jun

「働かないオジサン」に対していかに「スパイシーなフィードバック」を行うのか?

 先だって、某社で、若手マネジャー候補生の方々に、
「部下に耳の痛いことを告げて、仕事を立て直す対話=フィードバックの技術」
 を教える研修をもたせていただきました(担当のSさん、I課長、お疲れ様でした!&貴重な機会をありがとうございました)。
「鉄ははやいうちに打て!」ではないですけれども、某社では、管理職候補生の方々に、管理職になったら起こることを「事前にプレビュー」させ、そこで必要になることを「前倒し」て学習していただく機会を、昨年からもっておられます。「マネジャーになるための準備学習」です。
 拙著「駆け出しマネジャーの成長論」をさまざまな場所でご活用いただき(感謝です!)、「鉄ははやいうちに打て!」を実践なさっているのです。そして、フィードバックは、その中の「ひとつのコンテンツ」です。
 こちらは20名限定のワークショップだったのですが、全社から110名をこえる応募があったそうで、こちらも身が引き締まる思いで、4時間半のワークショップを終えました。
 ご参加いただいた20名弱の管理職候補の若い皆さんには、心より感謝をいたします。本当にありがとうございました。
  ▼
 昨今は、職場のメンバーも非常に多様化しているせいでしょうか。会社によっては、若い管理職で、年上の部下などを抱える可能性が非常に高まっているような気がいたします。もちろん、別に「年上の部下」が悪いわけではなくて、そのなかに、ごくごく希に「まったく働く意欲のない中高年」が含まれることが問題のようです。
 部下がみな成果をだしてくれればそれでよいのですが、中には、そうではない人もいます。だからこそ「耳の痛いことをつげて」、いかに「立て直すのか」。ここに注目があつまります。
 立場上、先輩には、なかなか言いにくい。いや、ちょっと、元部長にはなかなか言い出せない。そんなときに重要なのが、正しくフィードバックする技術であり、態度です。
 態度とは、敢えて書きました。なぜなら、フィードバックには「腹をくくること」が必要になる局面があるからです。生半可にフィードバックをおこなえば、「立て直す」どころか「返り血」を浴びます。
 さて、フィードバックとは、さまざまな定義がございますが、要するに、要素にわけますと下記の2点です。
 1.パフォーマンスに対する結果の通知を行うこと
   (スパイシーメッセージング)
 2.パフォーマンスの立て直し、学び直しを支援すること
   (ラーニングサポート)
 世の中的にはフィードバックと申しますと、1の要素、すなわち評価面談での「結果の通知」というイメージが強く、あまり2の側面には焦点があたりません。
 これまでいくつかの企業で、同様の研修を行ってきましたが、フィードバックのイメージを参加者の方々にきくと、
「ほらよ、と結果を通知すること」
 とか
「傷口に塩を塗り込むこと」
 
 だと思っている方が多いような気が致します。しかし、そうではなく、フィードバックとは、むしろ「立て直すための対話」です。
 腹をくくって「スパイシーなリアリティ」を提示したあとは(これもいくつかのプロセスから成立します)、
 いかに立て直すか?
 いかに学び直してもらうか?
 それに対して
 いかに伴走するのか?
 が問われます。
 こちらに関しては、以前、フィードバックを「エンジンロケットの比喩」で説明させて頂いたことがあります。
 エンジンロケットには、エンジンのほかに、様々なセンサー類がついていて、つねに、自分が正しい方向・角度でとんでいるかを検知しながら、推進力を調整しているそうです。このセンシングの部分にあたるのがフィードバックです。
rocket2015.png
 この世の中に「まっすぐ飛べるエンジンロケット」は存在しません。空気抵抗、さまざまな理由で、大げさにかけば、ジグザグを繰り返しながら、エンジンロケットは飛んでいきます。
 エンジンロケットってのは、飛んでいるうちに傾いてくるので、そうしたら自分の傾きを検出して、ジェットの吹き出し口の傾きをかえるためのフィードバック機構がついてます。
 正しく飛ぶために、補正が必要になる。
 これは、人間も同じで、正しい方向にすすみ成果をだすためには、時に、外的な「働きかけ」が必要になります。これがフィードバックです。
 研修では、参加者の方々からいただいた「リアルなケース」と「バーチャルケース」をいくつか用いながら、様々な演習を行いました。
 なかなかスパイシーな内容にもかかわらず、参加者の方々の何名から
「マネジメントをしていくのは大変だいうことがわかりました。
 でも、今日は楽しかったです」
 という感想をいただいたのは、個人的には嬉しいことでした。
 まぁ、、、わたしに対する本格的なフィードバックは、これからです。その結果は、まだ蓋をあけてみないとわかりませんが(笑)。
  ▼
 今回のワークショップでは、フィードバックの演習をさせてもらいましたが、もっとも興味深かったことは、ある管理職候補生の方々と、帰り際に雑談していた内容でした。
「いやー、Bマイナスの評価を通知するって・・・・わたし、全くイメージがつかないんです・・・。自分では、そういう評価をもらったことはないので、何と声をかけていいかすら、わからないんですよね」
「面談で、かなり長くなる場合がありますよ、と先生はプレビューしてくれたじゃないですか。それが想像できません。自分の場合、面談も3分で終わるから、何を、そんなに長く話して良いかわからない」
 そうですよね。ここが多くの管理職候補生の方々が、フィードバックが苦手なひとつの原因でもあります。
 つまり、、、自分はソロプレーヤーとして「優秀」だったので、そもそも「スパイシーなフィードバック」を受ける可能性が低いのですね。
 そして「自分が体験していないもの」は、なかなか「実践すること」は難しいものです。まして、それが「働かないオジサン」であった場合には、さらに事態は深刻になります。それが日本全国4万6000カ所で起きているような気がします。
 ともかく、今回のワークショップは終わりました。僕は、いつものように研修終了後は、燃え尽きてシオシオのパーになりましたが、僕にとっても学びの多い機会でした。
 最後になりますが、このような機会をいただきありがとうございました。今回議論をさせていただいた事務局のSさん、Iさん、そして、参加者の皆様に心より感謝いたします。
 そして人生はつづく
 ーーー
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