2015.2.9 06:59/ Jun
「今、自分のところに配属された若手の育成に悩んでいます」
とおっしゃる方が、ちょっと前のことになりますが、研究室にお見えになり、対話の時間をもつことができました。最近、「自分の部下の若手が、自分の判断で動けないこと」に、モヤモヤを抱えておられるそうです。「もうそろそろ一人前になって、手離れしてくれないと困る」段階に入っているそうで、正直、どうしてよいかわからないとのことでした。
もちろん、自分もその時々ごとに「指導」はしているのだけれども、どうも「自分の伝えたいことが伝わっていない気がする」とのこと。
興味深かったのは、
「何をお伝えになりたいのですか?」
と僕がおたずねしたときの、その方のお答えでした。ICレコーダを持っていたわけではないので、そのまま再現できているわけではないのですが、下記のようなことをおっしゃっていました。
曰く
「身体でわかっていることを、言葉できないんですよね。そのシチュエーションがきて、その状況になったら、こうしたほうがいい、と言えるんだけど。それとは別のところでは無理。全体を網羅して、自分の伝えたいことを、言葉にまとめて話すのは難しいんです」
なるほど、お気持ちはよくわかります。
本当に大切なことは、その場の状況(in situ)にならないと伝わらないということ
そして
伝えたい内容は「身体でわかっていること」なので、言葉にすることは難しいということ
まして
全体を網羅して仕事を語るなんてことは、一度もやったことがないということ。
おっしゃる気持ちは痛いほど、よくわかります。その場の状況に応じて、全人格的に指導を行うことが、いかにパワフルか。そして、その実態を言葉にすることが難しいことは、理解できました。
しかし、一方で、その状況下では、もともとの問題である「部下の若手が、自分の判断で動けないこと」の解決をできるだけ速くなすことは、なかなか難しいだろうなとも思いました。
なぜか?
それはこのやり方だと、指導は「その場の状況でなされ」、かつ「言葉をあまり使わずなされる」ので、若手がその方の技を盗むためには、「長期にわたって、一緒に仕事をともになすこと」が条件になるからです。
また、このやり方だと、「指導」は常に「ある状況が生起したとき」に「事後的」になされることになってしまいがちです。事前には何も聞かされていないので、何かをやらかしたあとで、それに関するフィードバックが上司からなされることになります。それはパワフルではあるけれど、やはり長い時間がかかります。また、この時間に耐えるだけのモティベーションが若手に存在しなくてはなりません。若手の方からすれば、「事前に全体像を教えて欲しい」と考えるはずです。
職人などの徒弟制で、意欲ある若者が人生をなげうち、親方の家に住み込みで、生活をともになし、四六時中一緒にいて、親方の一挙手一投足を観察学習できる環境なら、それは奏功するかもしれません。しかし、それが不可能な状況では、それとは異なる指導のあり方を考えなくてはならないような気もします。
その可能性のひとつは、
なかなか、言葉には表現しにくいことを認めたうえで、
一度、仕事の全体像を言葉にしてみること
それを、仕事の状況とは離れた場面で、
若手に説明し、対話すること。
必要に応じて、言葉でフィードバックを与えること
であるような気がします。
かったるくて、面倒くさくて、気乗りはしないとは思うけど、やっぱり一度は、伝えたいものを整理して、言葉にしなければならないのかな、と考えていました。
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今日は若手の育成の問題について書きました。くどいようですが「本当に大切なことは、状況に埋め込まれて、全人格的にしか伝わりえ得ない」というのは、なるほど、そのようにも思います。しかし「言葉による伝達の可能性」を疑う前に、いったんは、自分の仕事をできるところまで言葉にすること。それを共有して、対話をすることに時間をかけてみても、よいかもしれないなとも思います。
最近、本当に心の底から思うのですが、この国の育成は「徒弟制」をモデルに語られすぎているような気がします。「徒弟制ロマン」っていうのかな。徒弟制的な育成を、手放しで望ましいものとして語ってしまうような雰囲気です。もちろん、それがパワフルであることは認めるのですが、それには奏功する諸条件がいくつか存在します。
現在の会社・組織が、それにマッチした育成を可能にする環境であるのなら、それもよいのですが、僕のみるかぎり、そこには一定の限界もあるような気もしています。
そして人生は続く
ーーー
追伸.
ダイヤモンド・ハーバードビジネスレビューの最新号「オフィスの生産性」に、「オフィス改革とはコミュニケーション改革である」という小論を掲載して頂きました。
オフィス改革を成功させるための組織力学含めたステップを論じたつもりです。もしよろしければ、どうぞご笑覧いただけますよう、お願いいたします。編集等をご担当いただいた前澤さん、井上さんには大変お世話になりました。心より感謝をいたします。
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