NAKAHARA-LAB.net

2014.9.18 06:00/ Jun

「なったつもりシンキング」と「現場のイメトレ」:マネジャーの意志決定を学ぶために実務担当者時代にできること!?

 先だって、ある会社の、非常に優秀な若手マネジャーの方に、ヒアリングさせていただいた際、その方がおっしゃっていたことが非常に印象的でした。
(御協力頂きました某社人事部の皆さん、特に本ヒアリングのアレンジに奔走してくださったSさん、ありがとうございました!)
「マネジャーになる前、実務担当者の時代に、ご自身は、どのように仕事をなさっていましたか? これからマネジャーになられる若い方に、何かアドバイスはございますか?」
 という僕の一連の質問に対して、その方曰く、
「(若いうちから)意識してできることは1つあります。自分が、課長だったら、部長だったら、どういう判断をするか。今のライン(のメンバー)は、そのマネジャーの判断に対してどうなるか(どういう反応)を示すか、ということを常に考えながら仕事をすることです」
(上記の語りは、読者の弁を考え、一部修正しています)
 興味深いなと思ったのは、「課長だったら」「部長だったら」という「なったつもりで意志決定の練習」をすることはよく言われることですが、「今のライン(のメンバー)は、その判断に対して、どのように反応するか」までイメージトレーニングをするということです。なるほど、そうした二重の予想トレーニングが必要だとおもっしゃるのですね。まことに興味深いことです。
  ▼
 これに関することは、拙著「駆け出しマネジャーの成長論」に一部論じています。
 拙著「駆け出しマネジャーの成長論」では、駆け出しの若手マネジャーが陥りやすいピットフォールのひとつに、「意志決定の課題」があることを指摘しました。

 一般に、マネジャーは、現場の担当者が把持しているよりも少ない情報量で、現場で起こっていることを理解し、白とも黒ともなかなか判断のつかないことに、ただちに意志決定を行わなくてはなりません。
 実務担当者時代は、迷えば、最終的には「マネジャーが決めてくれる」のですが、マネジャーになってしまえば、意志決定を「先送り」できなくなることが増えてきます。
 また、一般に、マネジャーのもとには「白黒はっきりするようなわかりやすい問題=判断が容易な問題」は持ち込まれません。なぜなら「白黒がはっきりしている問題」は、実務担当者のレベルで判断がすでに為されていて、マネジャーのもとにくるまでもないからです。
 かくして、マネジャーの日常は「白黒はっきりつかない意志決定」にまみれることになります。以前、どこかで申し上げましたが、マネジャーとして生きることは、「グレーを生きること」でもあるのです。
  ▼
 マネジャーの行う意志決定が、もともと「白黒はっきりするような意志決定」でないのだとすると、その修練のためには「経験を積むしか」ありません。
 白と判断しても、黒と判断しても、「それが本当に正しかったか」どうかはわかりません。さらに、どんな意志決定であっても、ともすれば「抵抗勢力」は生まれえるということを意味します。ここにマネジャーの意志決定の難しさがあります。
 たとえ、49%の反対があったとしても、わずか1%でも、メリットがあるのならば、51%の可能性に賭けざるをえないのがマネジャーの意志決定です。49%のネガティブな実態を見極め、リスクを可能な限り低減することが求められます。
 結局、こうしたの習得には「経験を積み、その結果とプロセスを内省すること」しかないと考えられます。
 究極をいうと、マネジャーはマネジャーになったあとで、
 マネジメントを学び(learn how to manage it)
 マネジャーになっていく(to become a manager)。
 のです。
 しかし、可能であるならば、マネジャーになる「前」、実務担当者時代から、この修練を「習慣」として行っていきたいものです。
 実務担当者の時代から「課長になったつもり」「部長になったつもり」で、意志決定をしてみる。同時に、その意志決定に対して、どのような反応が現場から生まれ得るかを、こちらも考えてみる。
 要するに「なったつもりシンキング」と「現場のイメトレ(イメージトレーニング)」です。これを習慣化しておくことが、マネジャーになる前に、せめてできる準備です。先ほどのヒアリングでは、そうしたことを、ある先達マネジャーから伺うことができました。
 一方、いつまでたっても、そうした準備ができず、マネジャーになりきれない人もいます。
 本来マネジャーになるべき年齢・発達課題が生じているのにもかかわらず、いつまでたっても「課長になったつもり」「部長になったつもり」の思考ができない。「自らの意志決定の結果、現場に何が生まれるか、現場の誰が白け、誰が喜ぶか」を想像できない人は少なくはありません。
 そういう思考がいつまでたってもできずに、「個人の思いこみ」や「べき論」だけで行動してしまう。発達課題をクリアできず、こうした残念な状況に留まる人もいます。誠に残念なことです。
  ▼
 今日は、マネジャーが行う意志決定のトレーニングについてのお話しをしました。
 月並みですが、マネジャーになる前から、
 【なったつもりシンキング】
 マネジャーになったつもりで考える
 
 【現場のイメトレ】
  その意志決定の結果
  現場メンバーにいかなる反応が生まれるかを考える
 こうした「習慣」をなるべく早いうちからもつことが、重要だとおもわれます。
 マネジャーの意志決定は、それだけの準備をしても、実際にその状況に置かれないと習得することが難しいのかもしれませんが、とはいえ、できることは早いうちから準備をしておいたほうがいいように思います。
 そして人生は続く。

ブログ一覧に戻る

最新の記事

2024.12.8 12:46/ Jun

中原のフィードバックの切れ味など「石包丁レベル」!?:社会のなかで「も」学べ!

なぜ「グダグダなシンポジウム」は安易に生まれてしまうのか?

2024.12.2 08:54/ Jun

なぜ「グダグダなシンポジウム」は安易に生まれてしまうのか?

2024.12.2 08:12/ Jun

【無料カンファレンス・オンライン・参加者募集】AIが「答え」を教えてくれて、デジタルが「当たり前」の時代に、学生に何を教えればいいんだろう?:「AIと教育」の最前線+次期学習教育課程の論点

2024.11.29 08:36/ Jun

大学時代が「二度」あれば!?

「人事界隈」にあふれる二項対立図式の議論は、たいてい「不毛」!?

2024.11.26 10:22/ Jun

「人事界隈」にあふれる二項対立図式の議論は、たいてい「不毛」!?