2014.9.8 07:16/ Jun
ここ数日、青山学院大学大学院で集中講義「組織行動論特論」という授業をしています。この授業は「採用」「研修開発」「OJT」「マネジメント開発」「リーダーシップ開発」の5つの領域のもっとも基礎的な文献を読んで、議論をするというものです。
授業には、大学院学生、14名の皆さんが参加し、英語文献を読みつつ、議論をなさっていらっしゃいます。まことにお疲れさまです。
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大学院生の皆さんとの議論は、どれも興味深いものですが、先日なされた「手離れの科学」に関する議論は面白いものでした。
「手離れの科学」とは、ここではさしずめ、
「経験の浅い若手社員へのOJT、上司・上位者からのサポートを、どのようなタイミングで、どのように”解除”していくのか?」
ということだとお考え下さい。当日は、Academy of Management Journal に掲載された「上司からのサポートの消失(手離れ)」に関する論文を読んだうえで、様々な職種には、どのような「手離れのタイミング」がありうるかを話し合いました。
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たとえば、ある製薬会社におつとめの方は、製薬業界の若手、すなわち「経験の浅いMR社員」の「手離れ」が、従来よりも、格段に遅いタイミングでなされていることを指摘なさっておりました。
各種関係法令の整備等、そして、「薬」という安全が第一の商品を扱うことのクリティカルさから、従来、半年くらいであったサポート期間が伸びて、今では1年半くらいたっても、上司からの営業同行を受けるのだそうです。結果として、手離れは2年目の夏以降ということになります。
ある看護師さんは、看護師にとっての「手離れの瞬間」が「夜勤を1人で担当すること」にあると報告なさっていました。診療報酬の関係で、現在では、4月に入職した看護師さんは、数ヶ月後には「夜勤を自分1名で担当すること」になるのだそうです。その瞬間がもっとも緊張感のある一瞬だそうです。
あるコンサルタントの方は、ひとつのプロジェクトを自分ひとりで回せるようになるまで熟達しなければ、「手離れ」することはできない、と語ります。その期間はながく最低でも2年ー3年はかかるのではないか、と指摘されていました。
このように「手離れの瞬間」は、職種、仕事の内容、置かれている競争環境・社会的状況に応じて変わってくることがわかります。それ自体はあたりまえのことなのですが、それがモデリングできたとしたら興味深いですね。面白がっているの、僕だけ?(笑)
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ひるがえって考えるに、自分自身も、自分の仕事について考えます。すなわち、研究者にとっての「手離れ」はいつなのかな、と考えます。
研究者の場合、「手離れの瞬間」のひとつの契機として「博士論文執筆と博士号取得」がありうるかと思います。
「博士論文執筆と博士号取得した大学院生」は、「自由な存在」であり、僕にとって、もう「一人前の研究者」です。自律した、自由を享受するひとりの研究者に、少なくとも僕の感覚では、言うべきことは何一つありません。
「道に迷った」としても、「自ら迷うこと」を選択していると考えます。「何にも挑戦していない」ようにみえても、そういう道を自ら選択しているのだと考えます。
思うに、少なくとも僕の領域では、「博士論文執筆と博士号取得した一人前の研究者」が次になすべきことは、「指導教員と相談してテーマと方法論と対象」を決める状態ことからの「早期の離脱」です。
駆け出しの研究者は、まずは「指導教員」ときっちり「別離」することが大切だと考えます。指導教員を相対化したり、別離できない研究者は、いつまでたっても「半人前」なのではないでしょうか。いつまでたっても指導教員を崇め奉り、その影響下にいて、威光を借りることができるのだとすれば、それは「心地よい」でしょう。しかし、僕は少なくとも、そうういう状態をリスペクトできません。
博士号取得までは、「登るべき山と、その高さ、装備品と、登山チーム」を指導教員と相談のうえ、決めたかもしれません。しかし、これからは、「登るべき山と、その高さ、装備品と、登山チーム」」自ら組織し、探究を行わなくてはなりません。リスクはすべて自分で負います。
思うに、それが「手離れ」ということです。
そして「自由」ということです。
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少し話が長くなりました。
思うに、これまで経営学習研究・人材開発研究は「どのようにサポートをなすか」ということに関して「饒舌」でした。
今後は、それらに加え「どのようにサポートを解除するか」・・・すなわち「手離れの科学」が必要になっているように思います。どのような環境にいる人が、どのようなタイミングで、どのように手離れを経験するか。こうした問いを面白がりながら、そろそろ授業は佳境に入っています。
皆さんは、どんな「手離れ」を経験なさりましたか?
御社の若手社員はいつ「自律のとき」を迎えますか?
そして人生は続く
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