NAKAHARA-LAB.net

2014.9.2 06:20/ Jun

多様化極まる「看護の世界」、ニーズが高まる「アンラーンの機会」:「獲得すること」への饒舌さと「捨てること」への沈黙

 8月・月末は、大学院入試に加え、学会等での講演を、いくつかお引き受けしておりました。おかげさまで、なかなか「充実」した時間を過ごすことができました。
 特に、この夏は「看護」の世界の方々、先生方にお声がけいただき、学会等でのお話する機会をいただいたことが非常に印象的でした。看護は全くの門外漢。「僕は看護のお話はできませんよ、組織一般のお話でよろしければ」ということでお引き受けさせて頂きました。
 というわけで、千葉県・幕張メッセ、愛媛のひめぎんホールで、いずれもお話させていただきました。「まったくアウェイ感満載」の講演でした。ありがとうございました。
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 ここ数週間の看護ウィーク!?のお話は、「看護の世界は完全アウェイ」の僕にとっては、どれも新鮮でしたが、最も印象的だったのは、済生会横浜市東部病院の熊谷雅美先生がおっしゃっていたお話です。
 熊谷先生は、
「看護師さんに対する社会的ニーズが増すにつれ、様々な教育機関、場合によっては民間企業を退職して看護師さんになるケースが増えており、人材マネジメント的には、その出自の多様性に対する対応が求められている」
 というお話をなさっていました。
 ICレコーダを持っていたわけではないので、一字一句同じというわけではございませんが、上記のようなご趣旨であったと理解しております。
 これは具体的に申しますと、たとえば、エスティシャンを辞めて看護師さんになる。一般の企業を辞めて看護師さんになる、ということでしょう。
 看護師さんになりたい、なろうとする人々、そして看護師になった人の社会的出自が「多様化」しているということだと思います。知る人ぞ知るように「超売り手市場」の続く看護師さんならではの問題のように感じます。
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 僕は医療は専門外なので、以下の話は、無責任に言い放ちますが、病院とはまことに「多様性のあふれる空間(ダイバーシティの高い空間)」のように思えます。
 そこに集う人々は「病いに向き合っている」という点では共通しています。しかし、その場に集っている人々の出自は様々。富めるものも、貧しいものも、そして、老いも若きも、それぞれの「病い」というものにつきあわざるをえず、一時的に身を寄せています。
 このように「病院はダイバーシティあふれる空間」です。よって、それを迎入れる側の社会的背景ーすなわち看護師さんたちの社会的背景が「多様であること」は、必ずしもネガティブなことばかりではないように思います。
 しかし、一方で「看護師さんの仕事をマネジメントする」という観点になってきますと、難しい側面もでてきます。
 たとえば、いくら看護師さんの社会的背景が多様でよいといっても、看護という仕事に必要な「価値観」「倫理感」をいかにもってもらうのか。また、「前職の民間企業」では通用したかもしれない価値観で、看護の世界では通用しないスキルや価値観を、いかに「Unlearn(学習棄却)」させるか。
 そして、これは聖隷浜松病院の勝原裕美子先生がおっしゃっていたことに類することですが、外部から看護の世界に入ってくる人が組織参入時に感じる違和感・葛藤を通じて、いかに「看護の世界」が「本来Unlearnしなければならないもの」を棄却していくのか。つまり、看護の世界が、組織レベルでいかにUnlearn(学習棄却)を行うか。
 このあたりが、今後に発展しうる、非常に興味深い研究のように思いました。
 しかし、一般に、看護の世界のみならず、「Unlearn系の研究」というのは、あまり体系的な学術研究がなされているというわけではないように思います。
 思いつきベースで恐縮なのですが、パッと思いつくものをあげるのだとすれば、組織レベルでは、いわゆる「組織学習論の中のルーチンの解除の議論」「組織学習論のダブルループ学習の議論」、そして個人レベルでは「変容的学習に関係する理論」ないしは「クリティカルリフレクション系の研究」が、それにやや近いのかな、と思います。
 しかし、それは圧倒的に量的には少ないように感じます。
 もしかすると経営・組織・学習の言説は、「何かを獲得すること」には「饒舌・多弁」であったかもしれませんが、「何かを捨てること」に関しては「沈黙」を守る傾向があったのかもしれません。ただしくいいますと、沈黙と申しましょうか、それを語るだけのボキャブラリーをまだ持っていない、ということです。
 自戒をこめていいますが、その現状は、まだまだ現場でおこりつつある、生々しくも、しかしニーズの高い問題に、理論や概念の世界が迫りきっていない印象を持ちます。だからこそ、さらなる研究が必要なのですけれども。
 看護学教育学会での講演の準備、そして看護管理学会での議論をふまえて、愛媛からの帰路、僕はそんなことを考えておりました。全くの門外漢が、チョロリンと思ったことなので、真に受けないで下さいね(笑)。
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 月末、何とか、無事に2つの学会の登壇を終えることができました。最後になりますが、このたびお声がけいただきましたこと、また、セッションでご一緒させて頂いた先生方に感謝しております。
 看護学教育学会の方は、順天堂大学の村中陽子先生、熊谷たまき先生、そして、看護管理学会の方は愛媛大学の乗松貞子先生、松山赤十字病院の小椋史香先生、北海道医療大学客員教授の石垣靖子先生、済生会横浜市東部病院の熊谷雅美先生、そしてスライドの準備を手伝ってくれた中原研の保田江美さんに心より感謝いたします。ありがとうございました。
 そして人生は続く

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