NAKAHARA-LAB.net

2014.4.10 06:23/ Jun

魔法のように研究を「面白くなく!?」する言葉とは何か? : 大きな地図を描き、キュウキュウと音がするくらい絞る!?

 今年も新学期がはじまりました。
 昨日は、大学院・中原ゼミと、授業「経営学習論」の初回でした。前者は、中原研のメンバー+共同研究者の方々が集まり初回から早速活発な議論を、後者はオリエンテーションを行いました。昨日は、新大学1年生とたくさん出会う場でした。   
 春うららかなキャンパスで「ねぇねぇ、授業、何とる?」みたいな会話をなさっている新入生の様子は、非常に清々しいものです。まずはご入学(入院?)おめでとうございます。
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 毎年、大学院には新入生がやってきます。
 毎年、大学院生を指導していて、いつも思うことなのですが、僕には指導中、「極力言いたくない言葉で、しかし、いつかは言わざるをえないもの」があります。
 その言葉は、「魔法のように研究をステレオタイプ化し、面白くなくする言葉」なのですが、皆さん、それが何かおわかりになりますか? 
 分野・領域によっても違うのだとは思いますが、少なくとも僕の研究領域においては、この言葉です。
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「研究をもっと絞りなさい」
 この言葉の意味するところは、膨大に広がっている研究の射程を、もっと実現可能・測定可能なものにフォーカスを絞って、実際に研究として「成立」するようにしてください、ということですね。
 この言葉は、大学院の指導においては頻出することばの一つだと思います。指導教員が、この言葉を繰り返しているうちに、大学院生の研究計画は、整ったものになっていきますし、また、実現可能性が格段に高まります。
 しかし、一方で、荒々しく、まだ海の物とも、山の物ともいえないような「研究の新鮮さ」は、徐々に失われていくことが多いものです。
「おいおい、そのやり方は無茶だろ。でるかどうか賭けみたいなものになるぞ。でも、これ、意外に掛け合わせたら、面白いじゃん」
「おいおい、そっから分析するか。まず2年じゃ終わらないな。でも、なかなか、いいとこついてくるじゃん」
 というポイントが、だんだん洗練され、きちんとした研究計画になっていきます。
「研究をもっと絞りなさい」は、僕の場合は、ケースバイケースですが、半年間くらいは極力言わないようにします。
 最初は、問題をできるだけ発散させ、自分の取り組みたい問題に関する「大きな地図」をもってもらうこと。そして問題を切り取ることのできる「自分だけの軸」をもってもらうことに取り組みます。
 だから、この段階の大学院生の研究計画は、ジャジャ漏れ?に広がっていきます。極力、「研究を絞りなさい」は言いません。
 しかし、半年くらいすると、そうもいってられません。今度は、「研究を絞りなさい」「フォーカスしなさい」が頻発していきます。「大きな地図」の中から、自分が取り組みたい問題群、主体、アプローチを、今度はフォーカスして、キュウキュウと音がするくらい?、これでもか、これでもか、絞り込んでもらいます。大学院生にとっては、もっともキツイ時間です。
 
 でも、指導教員の方も、密かにモンモンとしています。
 心の中で僕は、
「本当はもう少し粘って、何とか分析できる方法があったんじゃないかな。この学生の研究は、もっともっと面白い研究になったんじゃないだろうか。ここで、この落としどころに安易に収斂させてもいいんだろうか。研究としては成立するし、やればできると思うけど、それで本当によかったのかな? 他にできることはなかっただろうか? 」と思っています。
「研究をもっと絞りなさい」は、僕にとってディレンマです。できれば言いたくないけど、繰り返し言わざるを得ない言葉のひとつなのです。
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 今日は新大学院生にまつわり、研究指導のことを書きました。キャンパスは、今、暖かな風に包まれ、そこを初々しい新入生が歩いています。新入生の研究計画は、まだまだ広く、荒々しいものですが、しかし、そこからこそ「面白い研究」が生まれてくるのだと思います。
 そして人生は続く
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追伸.
3月27日発売、中原淳・溝上慎一(共編著)、河井亨・木村充・舘野泰一・保田江美(著)「活躍する組織人の探究」(東京大学出版会)ですが、AMAZON、カテゴリー1位を獲得しました。この本は、企業組織に定着・革新をもたらす可能性のある個人が、どのような大学時代を過ごしたのかを実証的に考察した研究専門書です。
 どちらかというと、大学・企業のキャリアセンター、就職・採用関係の方におすすめの書籍です。それらに類する理論が網羅されています。まだまだ残された研究課題は多いと思いますが、どうかご笑覧ください。
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