2012.6.12 08:42/ Jun
「経営学習論」の校正ゲラがかえってきたので、夜な夜な、あるいは、早朝に時間をとって、校正をすすめています。
フツーの時間(フツーてなんだ?)なかなか時間がとれず、大変苦労していますが、あと、もう少しですので、頑張ろうと思います。
てなわけで、はっきり言って、最近「眠い」です。もしかすると、目を開けながら寝ていることもあるかもしれません。指摘して下さい(泣)。
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ところで、経営学習論の8章では、「海外勤務中の学習」がとりあげられているのですが、これに関連して先行研究を読み込んでみると、興味深いことがわかります。
実は「海外勤務研究」の基本的パラダイムとして「海外勤務・成功失敗 / コスト分析パラダイム」というのがあり、各国のビジネスパーソンの海外赴任の分析を行っているのですが、それらの知見によると、海外赴任する日本人マネジャーと米国人マネジャー、どちらが「適応失敗・成果未達成」する確率が高いか、というと「後者の米国人」だとする研究が圧倒的に多いのです。
米国人マネジャーというと、一見、インターナショナルな感じがしますが、どうも、イメージは異なりますね。むしろ、米国は、努力して、ノンネィティブが「(米国に)適応してくれる国」なんですよね。あるいは、徹底的に「米国」を「他の国に持ち込む国」といってもいいかもしれません(FacebookでNさんが教えてくれました、感謝!)。米国人が、努力して「他の国に適応する」ということの方が珍しいのかもしれません。
ちなみに、ある研究知見によると、米国の多国籍企業のうち、海外勤務の失敗率(適応失敗・成果未達成)が30%を下回る企業は、全体の7%しかないといいます。場合によっては、業績を残せない海外勤務者が70%を上回る企業もあるといいます。7割が失敗って・・・ものすごい失敗率ですね。
で、だからこそ、海外勤務時における様々な人事施策が、米国企業の場合、発達しています。海外赴任者に対するメンタリングはもちろんのこと、配偶者・家族に対する様々なサービスも充実しています。
というより、やむをえず、それらを発達させざるをえなかったんでしょう。てなわけで、1990年代以降、急速に米国企業の「海外勤務時の人事施策」は発達しました。それによって、状態がかなり改善されており、むしろ、日本企業も安穏としてはいられない状況のようにも思います。
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ところで、これは私見になりますが、日本企業の場合、海外勤務に関しては、「日本人の高度で優秀な適応・学習能力」と、「会社が発動する強力な人事権への諦め」と「配偶者と家族の協力」という3つに、これまで「甘えてきた側面」もないわけではないような気がします。
ひとつめ「日本人の高度で優秀な適応・学習能力」はそのまんまですね。ある日突然、海外赴任が決まり、それまでの仕事を抱えながら準備をすすめ、飛行機に飛び乗る。現地では、日本での経験をレバレッジとして、現地人に溶け込み、彼らを指導する。これらが、どんなに大変なことかは、想像にあまりあります。このことは、もっと誇るべきことでしょう。
ふたつめ「会社が発動する強力な人事権(異動)への諦め」というのは、たとえば、僕の調査結果によりますと、海外勤務の最初の打診があるのは、3割の方が「海外赴任から1ヶ月前」です。これは「内定」ではないですよ「最初の打診」です。内定はもっと後(泣)。
かくも、日本企業の人事権(異動)は絶対的で、強力なんですね。まぁ、会社員である以上、「異動はしゃーない」にしても、もっとはやく打診できていれば、準備ができると思うのですが・・・。何とかなりませんかね?
みっつめ「配偶者と家族の協力」は、場合によっては「犠牲」といってもいい場合もあるような気がします。ある日突然、「言葉も通じない外国」で住むことが決まる。「会社のいうことだから仕方がない」と配偶者と家族が、強力な人事権を受け入れ、時に我慢し、海外生活に適応してきた。その影響を見逃すわけにはいきません。
ちなみに、手持ちのデータで分析すると「海外における適応×配偶者の海外適応」の間には、r=.484 p<.001の統計的優意な正の相関、「海外における業績・成果(7件のリッカートスケールによる主観的評価)×配偶者の海外適応」の間には、r=.275 統計的優意(p<.05)な正の相関が認められます。もちろん、これだけで「配偶者の海外適応」の要因を関連づけるわけにはいかないのですが、関連がないとも言い切れませんね。
経験上、海外勤務を経験なさった方の約5%くらいは、配偶者・家族の「現地適応」の問題を抱える、と思っています。
夫は仕事場で忙しく働きますが、配偶者は、家に閉じこもりきりになってしまう。子どもは現地の学校になじめず、不適応を起こしてしまう。そういった悲劇は、何も特別なケースとは言い切れません。
そして、これまでのヒアリング調査の結果から、僕が現段階で言えるのは、「配偶者の不適応+子どもの不適応+現地において信頼できる他者が見つからない」の3つの重なると、海外勤務の失敗はかなりの確率で起こると思っています。
以上、海外勤務を支えてきた「3つの要因」をあげました。組織によっては今後もこれらに頼っていくというのもありえるのかもしれませんが、僕個人としては、ここを仕組みとして整備することの重要性を感じます。「場当たり的な海外勤務」から、もう少し「仕組み化」する方向に、もっていけないのかな、というのが、研究者としての実感です。
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ここ数年、(時間を見つけては)ホソボソと、海外勤務者のヒアリングをさせていただいておりました。そうしますと、皆さん、会社からの支援もあまりなく、ものすごく苦労なさっていることに気がつきます。
本社からの支援もあまりなく、突然海外に行けと言われて、何とか仕事をこなす。慣れてきて、ようやく一仕事できそうだと思った頃に、突然日本に呼び戻される。そういう事例をよく聞きます。
一方、海外勤務は「仕事の裁量が上がり」、「日本にいては逢えないハイクラスの人々との交流」があり、かつ「修羅場の宝庫」でもあります。それは見方をかえれば「リーダーシップの開発の機会」としてとらえることもできます。
業績を出す海外勤務者をなるべく増やす。リーダーシップ開発の機会として海外勤務を活かす、そうした視点で、海外勤務の諸制度を整備していくことが、大切なことなのではないでしょうか。
「必要なのは海外で活躍する人材」「グローバル人材」と声高に叫ぶのなら、そして、社員に様々な挑戦とを求めるのであれば、組織がやるべきことが多々あるような気もします。
今後、日本人の海外勤務は、さらに「若年化」し、しかも赴任地が「米国やイギリス」などの先進国から、「アジア・アフリカ・南アメリカ」といった「非英語圏の新興国」にかわり、さらには人数も増えていくことが予想されます。意図的かつ戦略的に支援施策、人事施策を整備していくことが、個人的には大切だと思います。
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