2012.5.12 17:58/ Jun
「よい理論」ほど「実践的」なものはない
Nothing is so practical as a good theory.
とは、社会心理学者Lewin, K.(クルト=レヴィン)の言葉です。「アクションリサーチの祖」としても知られるレヴィンは、「研究」と「実践」のあいだを往還しながら、おそらく、そこに葛藤と可能性をおぼえ、自らの理論と実践を発展させていきました。
Nothing is so practical as a good theory・・・しかしこのあまりにも有名なワンセンテンスのうち、「実践的」というワンワードが、いったい何を指し示しているのか。ここには「意味の多様性」を感じます。
つまり、「よい理論が実践的である」ということが、具体的に、「理論と実践のあいだの、どのような関係を想定しているか」は、研究者・実践者によって、認識の違いがあるということです。
つまり、
よい理論どおりに実践家が何かを実行していけば、よい実践が生まれると考えるのか(Theory-based practice:理論に基づく実践)
あるいは
よい理論は、実践家のインスピレーションを喚起し、彼が実践を組み立てる際のヒントを提供する(Theory-imspired practice:理論からインスピレーションを受けた実践)
と考えるのか。
これら2つのあいだに関する認識のグラデーションは、各学問分野によっても違うのでしょうが、研究者によっても相当の認識の開きがあります。何がよいとか、悪いとかの問題ではなく。
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経営と学習の研究においても、この2つの考え方をめぐって、様々な研究者が様々なことを主張しています。
ある研究者は、「実践の変革に役立つ研究とは、研究現場で見つかった法則を、様々に組み合わせ、現場に適応し、現場を変革し、さらには理論的にも発展をめざすことある」と述べます。この主張は、実践は理論に基づくもの、すなわちTheory-based practiceの考え方が色濃く反映されていると考えられます。
別の研究者は、「実践の変革に役立つ研究とは、様々な実践の諸特徴を把握し、それらを俯瞰する少しだけ抽象化した原則をつくりだすことで、実践家のインスピレーションを喚起するものだ」と考えます。この考え方の場合は、理論とは実践家のインスピレーションをかき立てるもの、という風に考えられます。
中には、そもそも「理論と実践」というダイコトミー(二分法)を拒否する研究者もいます。そうした研究者は、実践の変革も、研究知見の産出も、研究者と実践家のコラボレーションと対話によって実現可能である、と考えます。
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人文社会科学の研究領域の場合、何らかの理論や法則ができた場合、その理論や法則がいつも決まった結論を導く可能性、すなわち理論の信頼性や妥当性は、自然科学ほど高くはありません。「理論と実践のあいだに横たわる、上記のような認識のひらき」は、この人文社会科学の知の特性に由来するものと思います。
僕個人としては、どちらかというと「二番目の研究者の認識」に近いです。くどいようですが、僕の学問領域における、僕個人の認識が二番目に近い、という意味です。
僕は、「第一の考え」のように、研究に特権的な立ち位置を認めることには、僕には違和感があります。
現場のことを知っているのは現場の人ではないだろうか、と僕は思います。また、現場といっても千差万別。結局、現場のことは現場の人が、その現場の状況に応じて判断するしかない、と思います。
「第三の考え」は、一見、研究者的には「理想的」なのかもしれませんが(一番美しく見えるはずです)、これまでの様々な共同研究の遂行の経験から、その実現可能性(フィージビリティ)と持続可能性(サスティナビリティ)には、少しだけ疑問を持ちます。いろんな経験をしてきました、僕も。
もちろん、僕以外の研究者が、どの立ち位置で研究をなさっていようと、僕は何も言うべきことはありません。また、各学問分野によって、これらの立ち位置には、差があると思います。上記は、あくまで、僕がそうだ、というだけの話です。
理論と実践・・・昔からある問いですが、これは「古くて新しい問い」です。
インスピレーショナルな理論を、生み出したいものです。
そして人生は続く
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