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2009.11.4 11:35/ Jun

「教育」と「学習」 – あなたの研究・実践は「誰」に届くのか?

「教育」と「学習」とは、近い言葉だと思われているので、ふだん、その違いがあんまり意識されることはありません。
 しかし、その違いは、結構明白です。
 いろいろな定義があるでしょうが、「教育とは、第三者が、意図的に他者の学習を組織化すること」です。これは教育学者の広田先生の定義です。
 最近の学習環境論やアーキテクチャー論に引き寄せて定義づけを変更するならば、「教育とは、意図的に、学習者が気づかぬように、彼の学習を統御する環境・アーキテクチャをつくること」という風にいえるのかもしれません。
 いずれにせよ、どのように定義を行おうとも、教育の言説からは「第三者のもつ意図」「第三者から他者への働きかけ」は消えません。教育とは、他者によって行われる「社会化」のひとつです。
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 一方、「学習」とは、これもいろいろな定義がありますが、最も広く捉えるならば、「経験により比較的永続的な認知・行動・情動の変化が生まれること」といわれています。
 この変化をもたらすドライバになるのは「自己」でも可能です。ということは、その場合には、「第三者のもつ意図」や「他者への働きかけ」は消えることが可能です。
 自ら自己の力で、認知・行動に変化をもたらすこと – それは「自己調整学習」というラベルで呼ばれるのかもしれません。もちろん、これが「他者」によってもたらされるのならば、その現象は「教育」として理解されることになります。
 僕個人の見解としては、実際には、「教育」と「学習」を分けて考え、どちらかの立ち位置に完全に立つことは不可能です。人によっては、「教育は不要なもので、学習が望ましいもの」という主張をなさる方がいるかもしれません。しかし、僕は、そういう単純な議論には与しません。
 マクロに見た場合、人間の生存、あるいは、人間の社会システムを永続的に支えようとする制度・社会化のひとつが「教育」です。また、この教育という制度をもって、人は、自ら学ぶ「学習者」になりえます。もちろん、教育の姿が今のままでよいことはありえません。それは時代によって変化することが重要です。
 ただし、この二つのダイコトミー、つまり「学習と教育」は、「今の」自分の研究や実践の「宛先性」や「立ち位置」を意識するときには、役に立つかもしれません。メタフォリカルに述べるのならば、自分の研究が、誰に届くのかを考えてみるのです。
 今、二人の人がいます – 「教育者」と「学習者」です。
 今、あなたがやっている研究・実践は、「教育者」に届くのでしょうか、それとも「学習者」に届くのでしょうか?
 今、あなたがやっている研究・実践は、「誰」の困っている状況に変化をもたらそうとしているのでしょうか?
 一度考えてみると、今、自分のやっていること、今、自分が考えていることに新たな発見や意味を見いだすことができるかもしれません。
 もちろん、一人の研究者が様々なステークホルダーに対して物事をなしている場合もありえます。また、一時期は学習者にデリバラブルをもたらそうとしていたが、今は教育者にシフトしている、ということもありえるでしょう。あくまで「今」をリフレクションする問いとしては、面白いかもしれません。
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●働く大人の学び論・成長論
  仕事の経験を積み重ね、内省する
  持論と棄論を積み重ねる
●経営学と教育学の交差するところに何が生まれるのか?
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