NAKAHARA-LAB.net

2005.11.6 00:00/ Jun

ITと放送

 IT vs 放送
 今後の「放送とIT」の関係を考える上で、その問題状況を様々な観点から俯瞰している本だと思う。ところどころ、個人的に文体や語調が気になるところがあるが、1セグ放送、放送局のビジネスモデル、著作権のことなど、とてもわかりやすく解説していた。
西正(2005) IT vs 放送 次世代メディアビジネスの攻防. 日経BP社, 東京
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4822208974/nakaharalabne-22
 ネコでもシャクシでも、この僕でも最近は口にする「放送と通信の融合」というものが、どんなに難しいモノなのか、そして、その実現には、どんなに多くのステークホルダーの思惑が絡んでいるか、よくわかった。
 うちのカミサンが、まだ駆け出しのディレクターであった頃、「放送と通信の融合」について、たまーに夜中に激論になることがあった。まだインターネットバブルさながらのことで、その頃、世間には本当に近い将来に放送というものが無くなってしまうのではないか、と思うくらいの論調が多かったように思う。
 翻って、それから何年もの年月が流れた。
 いまだ「放送と通信の融合」は実現しているとはいえない。
 しかし、ここ1年で、この業界にはいろいろなことがおこった。かつて揺らぐことすらないと思われたものに、亀裂が生じている。そして、世の中に、このままではマズイという危機感が生じてきている。
 日本にある放送局は、戦後、ひとつも潰れていないのだという。この事実だけで、この業界が護送船団方式であったかがわかる。かつてはその象徴と言われた金融の世界も、今や、メガ・コンペティションの世界にはいった。
 都合のよいときだけ、「マスコミは社会の公器」とかいう、いかにも良心派を気取る言い草は、もはや説得力はない。また、株式を公開していながら「事前に言ってくれればいいのに」といい直る、その経営感覚は、あまりに腰砕けに感じる。また、「カネにモノを言わせて」という、よく意味のわからない世間の語り口も、僕にはわからない。
 一つだけ間違いのないことは、こういう業界再編の動きは、いったん動き出すと、後戻りすることはできない、ということである。
 そう、後ろに道はない。

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