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2009.9.29 09:00/ Jun

「力のある学校」と「スクールリーダーシップ」

 志水宏吉(編)「力のある学校の探求」(大阪大学出版会)を読んだ。

 力のある学校(effective school)とは、「家庭環境、地域環境名不利な条件を抱えているのにもかかわらず、一定以上の学力水準を維持している学校」のことである。
 本書は、そうした学校のもつ特徴、そこでの教育実践のありようを、実地調査をもとに、何人かの若手研究者で記述している。非常に労作で読み応えがあった。
 Edmonds(1986)によれば、「力のある学校」は下記のような諸特徴をもつのだという。
 1.校長のリーダーシップ
 2.教員集団の意志一致
 3.安全で静かな学習環境
 4.公平で積極的な教員の姿勢
 5.学力測定とその活用
 また、White and Barbar(1997)によれば、「力のある学校」をつくるには下記のようなチャーターが必要なのだという。
 1.校長のリーダーシップ
 2.ビジョンと目標の共有
 3.学習を促進する環境
 4.学習と教授への先進
 5.目的意識に富んだ教え方
 6.子どもたちへの高い期待
 7.動機付けにつながる積極的評価
 8.学習進捗のモニタリング
 9.生徒の権利と責任の尊重
 10.家庭との良好な関係作り
 11.学び続ける組織
 いずれにしても、そうした学校を生み出すためには、いわゆる教室の中の「教授法」や「学習環境」の「開発」だけでは不十分である、ということである。それは重要であるが、決して、十分ではない。
 1)学校の統治やリーダーシップ、2)教員のモティベーションや仕事や目標の意味づけ、3)家庭や地域との関係作り、4)学習に関するフィードバックループの存在などを、包括的に見直す必要があるようだ。
 ちなみに、本書と同時並行で、OECDの編著である「スクールリーダーシップ-教職改革のための政策と実践」も読んだ。あわせて読むと、非常に面白い。
 

 今、中原研究室では、今年、学校という「組織」に切り込む研究のグラントを申請しようとしている。非常に参考になった。
(ちなみに前者の書籍において、個人的には、力のある学校の操作定義とマルチレベル分析に興味がわいた。僕個人としては、学校の研究には今着手はしないけれど、今企業・組織でやっている学習研究の知見が、将来的に生きる可能性もでてくるのかもしれないと感じている)
  ▼
 ちなみに、これは余談だが、米国教育工学会によると、教育工学の定義は下記のようになる。
教育工学は、人間の学習のあらゆる側面における諸問題を分析し、これらの問題の解決法を考案し、実行し、評価し、運営するための手だて、考え、道具、人材、組織を含む、複雑な統合過程である
 ここでは二つの重要な視点 – それでいて、現在の教育工学では、なかなか顧みられることのない視点 – が語られている。
 ひとつは「問題を分析する」ということ。
 もうひとつは問題解決の手段として「人材、組織」を含むということ。
 特に後者の視点は、今日のエントリーで話した「力のある学校」「スクールリーダーシップ」の開発・構築支援を考えるときに、非常に重要な視座になる。
  ▼
 教育工学はともすれば「ツールの開発学」、あるいは「問題解決学」とみなされがちである。しかし、開発されるべきは「ツール」だけに限定されないと僕は思う。ツールの開発が不必要なのではない。それは従来からの研究をより進めていく必要がある。しかし、それに加えて開発・介入・支援するべき対象を再考するべきときにきている。
 今日、昨日のエントリーではないけれど、「ふわふわしたもの」にいかに切り込むかが重要であり、現代的課題なのだと個人的には考える。
 また「教育工学=問題解決学」という定義は、「解決するべき問題は誰かが与えてくれる」という点に再考の余地があると僕は思う。
 不確実で不安定な世の中にあって、「解決するべき問題が見えないから」、みんなが困っているのである。そこを他人に譲ってしまうと、「問題解決の下請け人」になることを余儀なくされてしまうのではないだろうか。
 もちろん、このあたりは議論が必要だろう。教育工学の若手研究者の皆さんは、どのようにお考えなのだろうか。一度、ゆっくりじっくり議論したいな、と思う。
 それにしても、上記の教育工学の定義はよく出来ている。これをつくるために、米国の研究者は3年間議論したという。
 おぬしらに、「議論」はあるのか?
 かつての指導教官の言葉が脳裏から離れない。
  ▼
追伸1.
 先日、NTT ICCでのシンポジウムが映像になりました。こっぱずかしいですが、もしご興味があれば、下記からご覧下さい。
NTT ICC
http://hive.ntticc.or.jp/contents/symposia/20090823/
追伸2.
 先日のシンポジウムについて、シンポジウムにご登壇いただいた先生らが、ブログで感想・リフレクションを寄せてくれました。ありがとうございました。
佐藤先生 ファカルティディヴェロッパー日記
http://blog.livedoor.jp/sandy_sandy/archives/51525948.html
木原先生
http://toshiyukikihara.cocolog-nifty.com/puppy/2009/09/25-be3d.html
堀田先生
http://horitan.cocolog-nifty.com/nime/2009/09/2920-a394.html

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