NAKAHARA-LAB.net

2009.5.12 05:30/ Jun

シブヤ大学に行ってきた!

 先日、「シブヤ大学:Shibuya University Network」を、研究室の大学院生数名と訪問させていただいた。

シブヤ大学
http://www.shibuya-univ.net/
 シブヤ大学は、「シブヤの街全体」をキャンパスに見立てたネットワーク型の仮想大学である。シブヤ大学には、特定の校舎がない。専任の教授も、研究室も、教室もない。
 くどいようだが、「シブヤの街がキャンパス」である。時には表参道、時には道玄坂のカフェ、時にはデザイン事務所・・・渋谷のあちらこちらで「授業」が行われる。
 遊ぶのが一番楽しい街は
 学ぶのがいちばん楽しい街になれる
 というコンセプトから、その雰囲気を感じていただけると思う。
 大学の開講は、毎月第三土曜日である。
 定員20名-200名の講座が、毎月10講座くらい立ち上がり、毎月500名から1000名の人々がそこに参加する。
 2006年の開学から、これまでにのべ11万人の受講者が、シブヤ大学で学んだことになるという。
 ここで学ぶ人は、20代から30代の人が約70%。職業は会社員が6割。男女別では、女性が6割に達するそうだ。比較的若い層が学生であることがわかる。
 ▼
 ヒアリングでは、学長の左京さん、川村さんに貴重なお時間をいただいて、様々なお話を伺うことができた。お二人のお話は、どれも示唆に富むものであったが、特に興味深かったことが、個人的には3点あった。
 ひとつめ。
 シブヤ大学は、昨年、「シブヤ大学のつくり方学科」というコースを開講した。シブヤ大学と同じように、NPO法人を立ち上げ、地域の教育リソースをもとに仮想大学をつくるためには、ある程度のノウハウが必要である。僕自身も、かつて、NPO法人の立ち上げで役所に行ったことがあるので、そのプロセスは想像することができる。
「シブヤ大学のつくり方学科」は、シブヤ大学はどのようにつくればいいのか、そのノウハウを共有するコースである。
シブヤ大学のつくり方学科
http://www.shibuya-univ.net/department/depart03.php
 このコースの開発は、シブヤ大学の運営スタッフの方々が、これを機会に、それまで暗黙知化、身体知化していたものを、形式知としてマニュアルにするところからはじまった。
 教育内容には、NPOの申請方法、授業カリキュラムの構築法、ファンドレイジングの方法など、非常に具体的である。ちなみに、シブヤ大学のファンドレイジングの約7割は、企業とのコラボレーション企画だそうだ。
「シブヤ大学のつくり方学科」をきっかけに、京都に「京都カラスマ大学」が誕生した。今後は、札幌、広島、名古屋、などなどにゾクゾクとシブヤ大学の姉妹校が誕生する予定だという。
「ノウハウばかりでなく、シブヤ大学のスピリットみたいなものをどのように伝えるかが、非常に難しいと思います。マニュアルも必要なのですけれど、バイブルも必要なのかなと思います」
 という言葉が印象的だった。
 この言葉には、Learning barという「場」を主宰している僕も、共感するところが多い。
 蓋し、
「神は、ディテールに、全体に、かつ、目に見えないものに宿る」
 学びの場の効果的なデザインは、「えっ」というような細かい部分の工夫であり、かつ、そうしたディテールを積み重ねたトータルな環境デザインである。
 そして、それ以上に、目に見えない雰囲気、コンセプト、ノリ、スピリットと呼ばれるものに、それは宿る。
 こう書いちゃうと、おおよそ「教育工学の研究者らしくない発言だ」と怒られちゃうかもしれないが、「実際、そうなんだ」から、怒っても仕方がない。
 上記のうち、形式知化できるものを可能な限り形式化し、暗黙知として共有するべきものは、そのための機会をつくればよい。それが、僕の教育工学(Designing Learning Environment)である。
  ▼
 印象的だったことふたつめ。
「コンテンツを用意するわけではない。すでに、そこにあるものを、”授業”というラベルをもって、お届けしている」
「シブヤ大学は、地域のリソースを活用した生涯学習として見なされることもありますが、街作りのためのインフラストラクチャーとして機能することを最近はめざしています」
 という川村さん、左京さんの言葉が印象的だった。
 そうなのである。多くの街には、既に、未だ発見されていない学習リソースが「ある」のである。それは”人”かもしれないし、その土地の”風土”かもしれない。他の土地の人から見れば、「ほほー」と思ってしまうようなアトラクティブな何か、が、きっとあると信じたい。
 問題は、僕らは、それらを「見てはいるけれど、気づいていないこと」にある。
 だとするならば、「シブヤ大学を実践する」ということは、「既にそこにある」 – つまりは、埋もれている地域のリソースを「発見」し、人々が集まるリソースとして、時には「編集」し、デリバーすること。それに集まる人々の関係を編み直すこと、である。
 そして、そこで発見された地域のリソースを、街作りの基本資源として活用し、街全体のあり方を問い直すことである。
 僕の言葉を使うならば、「シブヤ大学を実践すること」こそが「学習」ということであり、シブヤ大学という事業を運営する人々が「学習者」と言うことになる。
「あれはシブヤだからできるんじゃないですか?」
 と人は言うかもしれない。
 
 まさにその通りである。シブヤ大学のあり方は、シブヤという街に存在するリソースとそこにある社会的関係と切り離して考えることはできない。
 しかし、シブヤ大学のスピリットを継承した試みは、他の地域でも可能ではないか、と思う。
 それぞれの地域ごとに「未だ発見されていないリソース」を「発見」し、「編集」し、人々の関係を編み直す。それを行うには、運営する側が、「学ぶこと」が必要なのではないか、と僕は思う。
 最後になりますが、貴重なお時間をいただいた左京さん、川村さんには、感謝いたします。ありがとうございました。
 —
追伸.
 シブヤ大学に来ている人々がいったい、どのような社会的属性をもった人々で、何を為すために、ここに来ているのか。それは既存の教育施設に来ている人と、どのように違っているのか。
 そして、実際何を得ているのか・・・いくつものリサーチクエスチョンが浮かんだ。
 学びのサードプレイス研究として、挑戦してみると非常に面白い知見が得られるのではないか、と思った。

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