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2024.12.28 09:58/ Jun

専門知の「パワフルさ」と「盲目さ」!?

 専門知とは、誠に「パワフル」で、かつ、まことに「盲目的」なものです。
    
 しかるべき科学的手続きによって生み出された専門知(学術的概念・研究方法)は、日常生活における「ふだんは見えないもの」を可視化してくれます。
  
 専門知が、いわば「スポットライト」となって「見えないもの」を照らし出してくれるのです。
   
 たとえば「経験学習」という概念。
(経験学習とは、ひとが現場で、日常経験のなかからいかに学ぶか、そのメカニズムを説明する理論です)
    
 もし、仮に、人材開発研究において「経験学習」という概念が、存在していなければ、
      
 1.日常生活や仕事の現場で
     
 2.ひとがなぜおのずと
     
 3.仕事ができるようになっていくのか
    
 は「不明瞭なまま」で、それ以上、語り得ないものです。
        
 この状況を喩えていうならば、たとえば、あるひとが現場で仕事ができるようになったときに、それを見ていた周囲の人は、
     
 「なんか、知らんけど。あいつ、勝手に、できるようになったのよ。いや、知らんけど」
    
 と語るほかはない、ということです。
   
 しかし、ここに「概念」があるとどうなるでしょうか。
    
 詳細は割愛しますが、ここに経験学習という概念があれば、1)経験の質と量、2)内省の深さ、3)抽象的概念化の習慣、といった、人が仕事をできるようになっていくための諸要因がスポットライトによって照らし出されます。人材育成を語る言葉の解像度があがるのです。
    
  ▼
     
 しかし反面、専門知のもつ「スポットライト」は、周囲に「漆黒の闇」を生み出すことも、また事実です。
 専門知があるがゆえに「見えなくなる」。
 あるいは「専門知」への「過度の依存」といったものが生まれやすいのです。
     
 例えば、今、ここに経営が傾むき、人材が劣化していっている組織があるのだとします。
 それを目にしたひとが、もし、
    
 リーダーシップ開発の研究者ならば「リーダーシップ開発をして乗り越えましょう!」
   
 というでしょう。
   
 人材開発の研究者ならば「人材開発の出番です!」
   
 といいます。
   
 そして組織開発の研究者ならば「組織開発で何とかしましょう!」
    
 となるはずです(笑)。
    
 人事制度の専門家ならば「人事制度をいじりましょう」
    
 というはずです。
       
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 すなわち、自分の依拠している学術的概念・理論に「盲目的」になるがゆえに、それ以外が「みえなくなる」。あるいは、自分以外の世界に「非寛容」になる。
    
 誤解を恐れず、端的に申し上げるのだとすれば、
     
 専門知に知ることとは「バカ(盲目)」になる可能性
       
 もあることなのです。
      
 この様相は、有名なことわざ(原典は覚えていません)ですが「金槌をもつコンサルタントは、すべてが釘に見えてくる」という状態に似ているのかもしれません。
    
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 そういえば、せんだって、ある医療関係者の方が、こんなことをおっしゃっていました。
 こちらも原典がわからないのですが、有名な寓話だそうです。
        
「患者が突然吐いたとしたら、どう診断するか?」
     
 内科医ならば「胃カメラ」をもつ
    
 耳鼻科医ならば「耳の検査鏡」を手に取る
    
 脳外科医ならば「患者をCT室に運ぶ」
      
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 この医療的寓話の蓋然性はよく知りませんが、おそらく言いたいことは、専門知をもったひとは、みんな自分が慣れ親しんだ、自分の得意技(方法)で、すべての仕事に対処しようとするようになる。それ以外の方法の可能性に盲目的になる、ということではないか、と思うのです。
   
  ▼  
    
 それでは、専門知のパワフルさと盲目さを知ったうえで、専門知を学んだひとにとって、何が必要なのでしょうか。
    
 それは
   
 専門知では、語り得ない世界が膨大に存在していることを、謙虚に認めること
   
 であり
    
 専門知では、対処できない事柄を見抜くこと
      
 ではないかと思います。
   
 下図に書いたように、科学的に明らかにされた、ある特定の専門知が明らかにできる領域など、未だ科学では語り得ない世界からすれば、小さいものだと言えるでしょう、もちろん、小さいけれど、パワフルではある。
       
    
    
 要するに「できること」を考えつつも、「できないこと」も考える。
    
 専門家とは、すべての「現象」を「雄弁」に語る人材ではありません。
   
 専門家とは、「自分にはできないこと」を知っている人のことだ
       
 と、わたしには思えます。
      
 だからこそ、他者が悪意をもって、専門家を「ダメ(spoil)にする」のは、簡単です。
 それは「専門家」が、専門家の権威のもとに、自分の専門では語り得ないことを「雄弁」に語り続ける状況をつくりつづければいいのです。
   
 これが長く続けば、いっちょあがりです。彼・彼女は、何を見ても、自分の専門的概念を用いて、すべての事柄を語ろうとします。そこに無理があったとしても、「雄弁」に語ろうとするでしょう。それは誰の耳にも届かなくなります。かくして、専門家は、おそらく「オワコン化」していくでしょう。
      
※12年前にも同じようなことを書いていました!ブレないといえば、ブレない。成長がないといえば、ない(笑)
    
専門家を確実に「オワコン」にする方法!?
https://www.nakahara-lab.net/2012/10/post_1888.html
      
  ▼
   
 今日は、専門知について考えてみました。
   
 生成AIの登場によって、私たちが扱わなければならない知性は、さらに高度なものになっていくと思います。そんなとき、自戒をこめて申し上げますが、専門知のパワフルさを信じつつも、盲目さに目配りしたいものです。それはとてつもなく難しいことではあるけれども。
  
 そして人生はつづく
      
 ーーー
   
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チームワーキング座談会
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https://www.php.co.jp/dvd/detail.php?code=I1-1-061   
  
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「実践!フィードバック」コース ありのままを共有し、成長・成果につなげる技術(PHP)
https://www.php.co.jp/el/detail.php?code=95123&fbclid=IwAR2he6Z_PTe3YiahcnCv3z9pNRXvrajPwVaRS8LLAYFkbWVH167qHDfYF5Q    
  
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