2023.11.7 08:19/ Jun
調査とは「迷惑」であり「暴力」にもなりえる
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自戒をこめて、僕がいつも考えていることのひとつです。といいましょうか、そういう「罪」を背負って、研究しているといってもよいかもしれません。
また、わたしが指導にかかわるゼミ生・大学院生には、ぜひ、このことの意味を、ご理解いただきたいと願っています。自分たちが「よかれ」と思って行っている調査は、相手にとっては「迷惑」や「暴力」になりえるということです。
もちろん、私自身も、自戒をこめて申しますが、自らの調査が、なるべく「迷惑」にもならないよう、まして「暴力」にはならないよう、現場に研究の成果を還元しなくてはならないと心にきめて研究をしてきました。
しかし、おそらく、それは完全に成し遂げられたとは思えません。
現場へのフィードバックは為してきましたが、それが十分ご納得いただけるものであったかは、わかりません。もちろん、それを行おうとは思ってきました。しかし、満足いくかたちで、それが出来たか、不十分かは、自信がありません。
本質的に「調査とは、相手の時間を奪うこと」なのです。
もしご迷惑をおかけしていたとしたら、本当にごめんなさい。
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このことを力強く思うきっかけになったのは宮本常一・安渓遊地著「調査されるという迷惑―フィールドに出る前に読んでおく本」(みずのわ出版)を読んだことも、そのひとつです。
宮本常一・安渓遊地著「調査されるという迷惑―フィールドに出る前に読んでおく本」(みずのわ出版)
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この本には、人文社会科学の調査が、いかに現場に迷惑をかけ、場合によっては「現場からの資料のかっぱらい(盗掘)」まで行ってきたか、に関する糾弾が記されています。
さすがに、ここまでのことは、わたしは当然行いません。またわたしの領域と分野がまったく異なります。しかし、ちょっと前まで、人文社会科学の地域調査、民俗調査では、こうしたことが横行していたのだといいます。たとえば、こんな感じで。
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「調査というものは、地元のためにはならないで」
「島を研究に訪れるバカセ(馬鹿・博士)の行状について若者は語ってくれた」
「根掘り葉堀り聞くのはよい。だが、何のために調べるのか、なぜそこが調べられるのか。調べた結果がどうなるかは一切わからない。そんなことを調べて何になるのだ、と聞いても「学問のためだ」というような答えが返ってくる」
「いきなり調査と言われても困る」
「あれでは人文科学ではなく、詰問科学だ」
「学生や学者が、島から物をとっていく」
「地元民のひとの良さを利用して略奪するものが意外に多い」
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まぁ、むごいですね。
しかし、それに類することは、おそらく、今なお、行われているはずです。さすがに、ここまではないかもしれません。しかし、程度の差こそあれ、調べるとは「貴重な時間・資源」を相手から奪うことなのです。
この本には、痛切な一言(というより叫び)が掲載されています
「(相手が)ひとであることを、忘れるなよう!」
嗚呼。それが為されていないと判断されるなら、無念至極です。
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今日は「調査という迷惑」そして「表象の暴力」について書きました。最近は、「アンケートフォームをWebでつくることが容易になったこと」から、このことに関する危機感が薄れつつあるような気がします。
「ちゃちゃっとアンケートつくって、投げとけばいいんじゃない」
といった「安易な調査」が増えている印象をもつのです。
そもそも、調査とは「投げるもの」ではありません。
「調べる側」は「投げつける」ものかもしれませんが、「調べられる側」は「そんなクソの役にも立たないものを投げつけられても、たまったもの」ではありません。
調査とは「他人の貴重な時間を奪うこと」です。
だから、調査をやるのなら、せめて質問紙やインタビューガイドの、文言一字一句、検討されなければなりません
だから、調査をやるのなら、せめて仮説もしっかり検討されなければなりません
調査を行ったあとは、それに答えてくれたひとにフィードバックを行うべきです
そして、調査は、感謝にはじまり、感謝に終わり、現場に還元されるべきものです
そして人生はつづく
(余談になりますが、学生時代に読んだクリフォード・マーカス!?(だったような)の「表象の暴力」の概念が僕に与えた影響は少なくありません。曰く、調べることは、被調査者の預かり知らないところで、研究者のみによって流通する「表象」を創り出します。そして、その「表象」は、研究者の議論や栄達には寄与するものの、被調査者には返ることはあまりありません。これらの現象は、一般に「表象の暴力」と形容されます)
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